【雑記】『あなたには短い曲は作れない』と言われた私が小品を好んで弾く理由
私は小品を好んでよく弾いています。
グリーグの《叙情小曲集》を弾いたり、バルトークの《ミクロコスモス》を弾いたり。プロコフィエフの《束の間の幻影》や、メンデルスゾーンの《無言歌集》、ギロックの作品やシューマンやドビュッシーの小さな作品など。
元々面倒くさがりなワタクシ。譜めくりがそもそも面倒なわけです。なんで楽譜は蛇腹になってないんだ!とさえ思うくらい、譜めくりが面倒。
だからといって、細部まで覚えていないのに暗譜するのは意に反する。そんな気持ちを抱えずに済むのは見開きで弾ける長さの小品。
これだけでも、私が小品を好んで理由にはなるのですが、振り返ってみると、私が小品に惹かれるようになった背景には、作曲を勉強していた頃の、とある出来事がありました。
音楽大学で作曲を勉強していた学生の頃、作曲家の先生から、こんなことを言われたことがあります。
「あなたは長く音楽を紡ぐことは出来ている。でも、本当に必要な音だけを厳選して、短い曲を作ることは出来ない」
と、かなりはっきり言われました。今でもハッキリと覚えているくらいなので。(我ながら執念深い…)
当時の私は、「ほう、そうなんだ。今の私には出来ないことなんだな」と思いました。
そして、
「じゃあ、いつか短い曲が作れるようになったら、それは私の成長なんだろうな」
と、今思えばずいぶん都合よく解釈しました。
当時、先生がなぜこの言葉を私に伝えたのか、今ならよく分かります。その頃の私はセンテンスを長く、様々な形で展開させていくことが「作曲」だと思っていたんです。でもそれは、純度の高い作品ではなかった。本当の意味での素材の作り方や音楽を構築していくこととは、そういうものではない、と先生は仰りたかったのだと思います。
しかし、それは本人がいつか気づいて、自分で改め、自分の手で作るしかない。そこまで先のことを考えた末での、先生からの言葉だったのだと思います。
私は学部に4年間、その上に2年間在籍して、作曲科生として音楽を学びましたが、在学中にそこに到達することは出来ませんでした。
大学を卒業して、就職〜退職を経験し、音楽活動が中心になったあるとき、ふと先生に言われたこの言葉を思い出しました。そして、思いました。
「今なら、出来るんじゃないかな」と。
学生だった頃に「無理」と言われたことに、今の自分なら挑戦出来るような気がしたんです。
人生で初めて、長く音楽から離れた経験をした今なら。
社会に出て、沢山の驚きや憤り、消化していない想いを抱えた今なら。
そこで私は、2〜3分ほどの小さな曲を30曲近く作りました。そして、それらを合わせて、トータル1時間程になるピアノ独奏曲を書きました。
曲を書いたときには、自分のためだけに作った小品集が、有り難いことに発表の場を与えられ、思いがけず大きく評価していただき、実際に手に取ってもらえる形になりました。ここまでのことはまるで想像すらしていなかったのに。
あのとき、先生に言われたことを忘れてしまっていたら、創作に取り組むこともなかったかも知れません。
ずっと心に残る言葉を言って頂けたからこそ、後に自分の成長を感じられた出来事となりました。
(先生に感謝感謝〜✨)
そして、実際に小品を沢山書くという経験をしてみて、初めて分かったことがあります。
短い曲って、難しい…!!!
長い曲なら、ある程度時間をかけて音楽を展開していくことが出来ます。持ち時間の中で形にしたいことをじっくり吟味しながら、聴かせどころを作り、最後まで思う存分語ることが出来る。
ところが最初から2〜3分しかない曲では、限られた時間の中で、何を言うのか、何を言わないのかを、かなりハッキリとした形で決めておかなければなりません。
「この音は本当に必要なのか」
「ここまで書かなくても伝わるのではないか」
「この一音を残す意味は何なのか」
そんなことを考え自問自答しながら、本当に必要な音を選んでいきます。
単純に音を減らせばいい、短くまとめればいい、というものでもありません。必要なものだけを残して、それでもちゃんと一つの「音楽」として成立させる。
そこには、長い作品を作るのとはまた違った難しさがありました。
短いから簡単なのではなく、短いからこそ難しい。
これは作曲だけではなく、演奏についても同じだと思っています。
そんな経験もしながら、今でも私は小品を作り、自分の手で弾いています。自分の曲だけではなく、大作曲家の名曲も、小品を弾くことが多いです。
見開きで完結している数分間の中に、その作曲家の考えていることや、音の扱い方、メロディの作り方、和声の色彩、リズムの面白さなどが、ぎゅっと詰まっているのが小品の魅力。
一曲が短いからこそ、何度も繰り返して弾いてみることも出来ます。
(5分以上の長い曲は通すだけでも疲れます。元々体力がないもんで…)
そして、小品の魅力は「沢山の作曲家の傾向を知ることが出来る」というところにもある、と思っています。
自分自身の性格も影響していると思いますが、沢山の作曲家の作品を知ることで、少しずつ音楽の世界が広がっていく感じが好きなんです。
作曲家の代表作というと、どうしても大きな作品に注目が集まりがちですが、小品をいくつか弾いてみると、その作曲家の音楽の「素」が見えるように感じることがあります。
また、これはすべての作曲家に当てはまるわけではありませんが、小品の中にあるアイデアが、後の大きな作品で発展していたり、小さな作品の中に、その作曲家らしい音の使い方がはっきり表れていたりすることもあります。
大曲を弾くために小品を弾く、ということではなく、小品そのものを楽しんでいたら、いつの間にか、その作曲家のことをもっと知りたくなっていた。
私にとっては、そんな感じでピアノの小品を通して作曲家の傾向を知ることが、ひとつの楽しみになっていきました。それは大曲を弾くために時間をかけていたらあまり感じられない事ではないかとも思います。短い曲を数多く弾くことで、作曲家の表現のバリエーションの豊富さを知ることが出来る。
それはとても楽しく興味深く、更に創作にもプラスになることでした。
記事の最後に、私のおすすめの小品を幾つか挙げてみます。
どれも、決して「簡単だからおすすめ」というものではなく、短いからこそ、弾いてみると面白い。そんな作品です。
プロコフィエフ:《束の間の幻影》
プロコフィエフの《束の間の幻影》は、20曲からなる小品集です。
一曲一曲がとても短く、それぞれのキャラクターがハッキリしています。
ほんの数分の中に、ユーモアがあったり、鋭さがあったり、夢のような雰囲気があったり…。
「小品の魅力」と感じるには、とても面白い作品だと思います。
全部を一度に弾かなくても、気になった一曲だけ取り出してみるのも楽しいです。特にオススメなのは、1番、5番、8番、10番、15番、16番…全部良くて選べませんっ(あらら)
メンデルスゾーン:《無言歌集》
メンデルスゾーンの《無言歌集》も、小品の魅力を味わうにはぴったりです。
短い曲の中で、タイトルの通り、歌を歌っているような旋律が特徴です。
「歌うように弾く」とはどういうことか?を考えるきっかけにもなりますし、やはりこの曲集もそれぞれの曲で表情がかなり違うので、何曲か続けて弾いてみるのも面白いです。
「春の歌」のような有名曲だけでなく、まだ知らない曲を探してみるのもおすすめです。
特にオススメなのは、無言歌集 第2巻 「瞑想」 Op.30-1
こんな素敵な曲を譜めくり無しで弾ける喜び。(とにかく譜めくりが嫌い)
もうひとつ、op.67-1
シューマン:「トロイメライ」
この曲はあまりにも有名ですね。
そして、譜面だけを見ると、それほど大変そうには見えない。でも、実際に音楽として美しく弾こうとすると、ものすごく難しい!の代表曲のような小品。
旋律をどう歌わせるのか。
どこに向かって音楽を進めるのか。
短いからこそ、誤魔化せない怖さがあります。
有名な曲だからこそ、改めてじっくり書かれていることを深く読み込んで弾いてみると、非常に学びの多い一曲だと思います。
ドビュッシー:「亜麻色の髪の乙女」
こちらもシューマン同様、小品あなどりがたしな名曲。ドビュッシーの《前奏曲集 第1巻》に収められている、とても美しく、難しい小品です。
これも短い作品ですが、ドビュッシーらしい響きや色彩感がしっかり詰まっています。
メロディだけではなく、和音やペダルによって生まれる響きを楽しみながら弾いてみると、「美しい曲」というだけではない面白さが見えてきます。
弾く度に悩みますが、この悩みは楽しい悩みです。
グリーグ:《抒情小曲集》
そして、いちおしのグリーグです。
グリーグが生涯をかけて書き続けた《抒情小曲集》には、短い曲が沢山収められています。
一曲一曲にそれぞれの景色があって、グリーグ自身の人生を感じるような作品集です。
特にオススメなのは、(選べない~!!!)
こちらと、
こちらで!!(好きな曲がありすぎる…)
そしてもう一つ、違う曲想で。
バルトークの《ミクロコスモス》集です。
これは「小品集」とは少し違いますが、短い曲の中にリズムや音程、響き、ポリフォニーなど、さまざまな音楽的な要素が凝縮されています。
こういった音楽も好きな方にはたまらなく面白い曲集だと思います。
一曲がとても短いからこそ、テーマにしていることを考えながら弾くことが出来て、音楽の幅広い表現、楽しみ方が増えていくこと間違いナシです♪
作曲を勉強していた頃の私は、長く音楽を紡ぐことは出来ても、短い時間の中に必要なものだけを残すことが苦手でした。
それから何年も経って、自分で小品を30曲近く書く経験をして、短い音楽を書くことの難しさを知り、そして今度は、演奏する側として小品を弾きながら、その短い時間の中に作曲家が残した凝縮された音楽を感じています。
そう考えると、私にとって小品は、創作と演奏を同時に豊かにしてくれるもの。
と、ここまで書いてきましたが、大曲が良くなくて、小品が良い、という話ではありませんので、誤解のないようにお願いしますね。
大きな作品には、大きな作品の魅力がありますし、小さな作品には、小さな作品の魅力がある、というハナシですので…。
そして私自身、小さな曲を一曲ずつ手に取って、その中にあるものをじっくり味わう時間が好きなんです。大曲を弾ききる体力がない、飽きっぽい、すぐに弾きたい、最後まで。そういう性格も、小品と相性が良いのだと思っています。
もしこの記事を読んで、「そういえば最近、短い曲を弾いていないな」と思った方がいたら、小品の良さを感じてもらえたら嬉しいです。
1〜2ページくらいの、小さな曲で。
知らない作曲家でも、昔弾いたことのある曲でも。
見開き1ページの、たった数分の音楽の中に、思っていた以上の音の世界が広がっているかも知れません。
最後までお読み頂きありがとうございました♪
作編曲家&ピアニスト
music chocolate
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