砂漠の中心から、闇を叫ぶ── Nevermind the Hurry / Ally Nicholas 【ディスクレビュー35】
シカゴ生まれ、ロサンゼルス在住のソロアーティスト、Ally Nicholas。幼少期からNirvana、Slipknot、Korn、Alice in Chains、My Chemical Romanceといった、サウンド面でも、マインド面でもヘヴィなバンドによって育まれた「内なる暗闇」が、そのまま音楽の核になっている。
彼女は自身のサウンドを「グランジ・ゲイズ(grunge-gaze)」と称する──グランジの生々しさとシューゲイザーの音の厚みが、オルタナティブ・ロックの文脈の中でなめらかに溶け合った独自のスタイルだ。
プロデューサー兼ギタリストのDiego Ferraraとの共同作業を軸に、2020年のデビューシングルから着実に歩を進めてきた本作は、そのデビューEP。制作の舞台は砂漠の真ん中──外界から切り離された場所で、わずか10日間で作られた。
すべての楽曲はアコースティックギターを片手に歌ったボイスメモに原型が残されたもの。公に放たれる前の荒削りな衝動は、そのまま完成形にも残っている。
お気に入りの楽曲①「Red」
穏やかな語り口から始まり、力強く感情を吐き出すセクションへと移ろう。「短編映画のワンシーン」と評されるほど情景の浮かぶ構成──聴きながら、場所と光と温度が見えてくる。
深みのあるメロディとAllyのボーカル、Diego Ferraraの不規則なギターが絡む。
テーマは「受容」と「手放すことの難しさ」だ。どうにもできない状況への執着──「out of my hands」という言葉が示す、自分の力の外にあるものと折り合いをつけていく過程。
成長と許しがその先に置かれている。EPの幕開けとして、最も内省的な一曲を持ってきた。その選択が、この作品の誠実さを証明してくれているようだ。
お気に入りの楽曲②「Killing」
重厚なテンポの中で、ダウナーなエネルギーが強烈に渦巻く。グランジ感の強いギターが低く唸り、叩きつけるようなドラムが曲に骨格を与える。
「Is it killing you like it's killing me?」
私が苦しんでいるように、あなたも苦しんでいるのか。痛みと葛藤を声に出すことでその重さを分かち合おうとする曲だ。
どこか怨念めいたエネルギーを孕んでいる気もするが、苦しみを共有することがそこから抜け出す最初の一歩になると彼女は信じている。
孤立した砂漠の中のスタジオで、ボイスメモに向かって闇深い想いを吐き捨てるように歌い上げる。
「Nevermind the Hurry」は、原点からぶれない。急がなくていいというタイトルが示す通り、Ally Nicholasは感情を整理する前に鳴らすことを選んだ。その生々しさが、このEPをまっすぐに貫く。
