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第1話 崩壊 『ルミナ・パルス』



狩人のシン、 薬師の娘ミカ、 孤児院で子供の世話をするカレン



“ 闇《ペルニキエース》が再び世界を包む時。光《ルミナ》は、生きる者たちの心より立ち上がる ” 
 
古い言い伝えだった。 
 
 
シンの住む村は、森で囲まれていた。
 
というより、広大な森の中に、村が遠くぽつりぽつりと存在している。
 
 そんな小さな村で彼は育った。
 
家は代々猟師の家系で、小さいころから弓に慣れ親しんだ。



 それは、いつもの一日だった。
 
 木の葉が重なる、薄暗い森にシンは居た。
 
村から歩いて半時ほどの距離――
 
踏み締めれば沈み込む、朽ちた葉の臭いが漂う。
 
 
 
彼は仕留めた野兎の前で跪き、胸元で手を合わせた。
 
「どうか許してほしい。
あなたの命で、私の家族は支えられる。
その恩に感謝する。
あなたの魂が安らかに森へ還りますように」
 
 
シンは捌いた兎を、肉の傷みを遅らせるシダの葉で包んだ。
猟袋に収めた、その重みを背中に感じる。
 
 
 
(……父さんは、まだ肉の処理が甘いと言うだろうか。
母さんは、食事の支度をしているかな)
 
 
木々の間の光が、斜めに落ち始めていた。
(……もう、昼を過ぎているのか)
ふと顔を上げた。
 
 
そのとき――突然、空が黒く染まった。
光が消え、聴こえていた鳥のさえずりが止んだ。
 
 
 
かすかに、遠くから人の悲鳴が聞こえた。
村の方からだった。
 
 
(父さん、母さん……)
 
シンは走った。
朽ちた葉が足を取る。根をまたぎ、枝を払った。



やがて、木々の葉の間から、崩れた村の入口、家々の燃えさかる屋根が見えてきた。

入口を抜けて、シンは家に向かって駆ける。

見慣れたはずの村の光景は無くなっていた。
 
至るところで、こと切れた村の人々が倒れ、

血の匂い、焦げた家屋の匂いが鼻をついた。
 
 
   (母さん…父さんは無事か?) 
 

 
 
家に向かう途中、診療所の前に人影があった。 

倒れている治療師と、その胸に手を当てている娘……ミカだった。

跪いて触れた治療師の体は冷たく、脈は途絶えていた。

「お父さん、目を開けて……また笑って」

ミカが呟く。頬には涙がこぼれていた。

 「ミカ。 お前の父さんはもう…… 。
ここにいては危険だ」

茫然としているミカの手を引く。

少し抵抗があった。

「いやだ。お父さんと、ここにいたい」

呟くミカの手を引き、走りだした。


 

 



二人は息を切らしながら、シンの生まれ育った家の前に立った。
 
 家の入口でシンは足を止める。
 
 無意識に握った拳の内側に爪は食い込み、歯はきしんでいた。

幼い日から手を合わせていた小さな祭壇は荒らされ、

倒れている父と母の体は、冷たくなっていた。
 
(父さん……母さん……。

あの、強かった父が、なぜ……)
 

 ミカには家の中を見せなかった。

 「行こう」
 
シンは呟いた。




二人が家の入口を離れた、そのとき――。

二体の黒い獣が姿を現した。

狼のような姿をしているが、この世のものではない。

そう本能が告げていた。

身体からは赤い瘴気が漏れている。


 
 二体は唸り、低く身を沈め、 こちらに近づいてきた。
 
 (ミカがいる。 逃げなければ)


-----その刹那、異形が飛びかかってきた!
 
 
 弓を使える距離では無い、 まず距離を取るべきだ。

しかし、この場を離れることはできない。

ミカが背後にいる。
 

降り注ぐ牙と爪。
その疾さは山で会う野犬のそれではない。

シンは腰に携えていた二振りの短刀を抜き、何とか受け流す。
 

 シンは防ぐだけで精一杯だった。 

それでも、後退はできない。




 
爪で削られるなか、少しずつ、感覚が芽生えてきた。
……予備動作、重心、そして次の行動。
 
少しずつ。 シンは異形の動きと同調し始めていた。
 
それは、普段、狩りをしているときの感覚と似ていた。
 


極限のなか。
異形の「噛みつく」という思念に、
シンの意識は同調(シンクロ)した。

 
 異形が動き始めるわずか前にシンは動いていた。
 
動き始めた異形の首筋を、刃が切り裂いた。

 

 ……しかし、戦いは独りで行う、いつもの「狩り」ではなかった。
 
守らなければならない者が、背後にいた。
 
 「まずい……!」
 
もう一体の異形の牙がミカに届く……その時だった。
 



「きゃぁぁぁぁぁ」
 
叫び声と共に女性が飛び込んできて、ミカを襲う異形の頭をはたきつぶした。
崩れた異形の体から黒い結晶が地面に舞い落ちて消えていく。

彼女の瞳は、どこか虚ろで、そして涙で濡れていた。


 「あいつは……カレン? なにを……持っている?」

シンが口にした瞬間。


 

 「嫌ぁぁぁ」
 
カレンは叫びながら、シンに向かって走り出した。

崩れた建物の木材を持って。



 
 「ちょ...! 待てよ!」
 
 言った次の瞬間……
 
意識が無くなった。
 
 

 






どれくらい時間がたったのか、シンは目を覚ました。

 心配そうなミカとカレンの顔が見えた。

「くっ……」

体を起こそうとして、痛みが走った。

足元に、潰れた木材が落ちている。

シンが首を切って倒した異形が背後で立ち上がり、
彼を狙っていたところをカレンに助けられた……らしい。


火は弱まり、煙が低く這っていた。

どこかで、生き残った者の声がする。

煙の向こうで、細く光る月が見えていた。


シンは、荒らされた家の祭壇を思い出していた。

――なぜ、村は襲われた?



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

「第2話 旅立ち」に続きます。



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