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ホノルルマラソンへの挑戦⑧ | ゼッケンより大事なもの

海の波に何回さらわれたことか。
大満喫して、ホテルへ戻る。
シャワーを浴びて、次はコンベンションセンターへ向かう。

ホテルから散歩がてら歩き始めたものの、マップを見る必要なんてゼロだった。道には、同じ方向へ向かう人がゾロゾロと歩いている。向かいから来る人たちも、みんなホノルルマラソンの袋を手にしていた。

「ああ、本当に始まるんだ……」

街を歩いているだけなのに、少しずつ気持ちが高ぶってくる。
知らない人同士なのに、みんな同じものを目指している。その光景がなんだか嬉しくて、歩く足取りまで軽くなった。

会場に近づくにつれて、その熱気はどんどん大きくなっていった。

テレビカメラが入り、巨大なポスターの前では、みんな笑顔で記念撮影をしている。あちこちから歓声が聞こえ、会場全体がお祭りのようだ。

流されるまま、私もポスターの前でポーズを取り、あろうことかテレビのインタビューまで受けてしまった。

「意気込みを聞かせてください」

みんなで顔を見合わせた。言うことなんて一つしかない。
「完走するぞー!」

すっかりその気になっていた。

お祭り気分のまま受付を済ませ、手渡されたゼッケンを見る。そこには、自分の名前が印字されていた。
その瞬間だった。急に、お腹におもりが落ちた。

……本当に42.195km走るの?

さっきまであんなにワクワクしていたのに、今さら猛烈な後悔と焦りが押し寄せてきた。


浮かれている暇はなかった。もう一つ大事な「任務」が残っていた。昨夜、ビクトリアズ・シークレットの店員さんに教えてもらった「ダイソーのレインコート」の確保だ。

「アラモアナのちょっと先だよ」という陽気なおじさんの言葉を信じたのが間違いだった。蓋を開けてみれば、アラモアナセンターから徒歩30分。炎天下の道をひたすら歩く。

「本当にこの道で合ってる……?」

そのとき、見慣れた「DAISO」のピンクのロゴが飛び込んできた。異国の地で見るダイソーが、こんなに頼もしく見えたことはない。店内はひんやり。レインコートだけのはずが、気づけばキッチン用品や掃除グッズまで眺めていた。

「透明で、前にボタンがあって、フードがついているやつ」

できれば出番はないほうがいい。祈りつつ天気予報を見たら、ばっちり雨マーク。しょうがない。買うか。

日本なら、こんなもの近所でサクッと買える。
それなのに私は今、ハワイで汗だくになりながらレインコートを買っている。……いったい何をしているんだろう。


準備も無事に整った。あとは、頑張るしかない。
ということで、今夜は前祝いだ。

魚のグリル料理がおいしいレストランへ向かった。
ここはカウンターで料理とドリンクをそれぞれ注文して受け取るスタイル。お腹はペコペコだ。料理とドリンク、それぞれの列に分かれて並んだ。

さて、ドリンクは何にしよう。

いろんなカクテルが並ぶメニューを眺めていると、「マイタイ」が目に入った。そういえば、ホテルのリゾートフィーのスケジュールにも「パーフェクト・マイタイ」という文字があった。ずっと気になっていたところへ、バーテンダーの一押し。

これは飲んでみるしかない。

注文すると、目の前で手際よく作ってくれる。
パイナップルとライムが豪華に乗ったマイタイを手にしただけで、気分が上がった。

一口目はガツンとアルコールが来る。
そのあとを、パイナップルの甘さが追いかけてくる。

……おいしい。
何これ。めちゃくちゃおいしい。

ハッピーアワーなのをいいことに、プラスチックカップのマイタイが、2杯、3杯と空いていく。すっかりマイタイの虜になってしまった。

女子が集まれば、当然始まるのは恋バナだ。

運よく通されたベランダ席は開放感たっぷり。料理はとっくに空になっているのに、会話だけは一向に終わらない。

と、そこで急に思い出した。

「あ! 今日って金曜日じゃん!」
「ん?」
「20時に花火が上がる日だよ!」
「え!?」

時間を見ると、打ち上げまであと30分。

「行こうよ!」
「でもお酒、まだ残ってる!」
「持ってっちゃえ!」

慌てて荷物をまとめ、マイタイの入ったプラスチックカップとiPhoneを手に、すっかりほろ酔いでホノルルの街へ飛び出した。

夜の街は熱気に満ちている。途中で面白そうなスポットを見つけるたびに、iPhoneを斜め上に掲げる。すると、誰に言われるでもなく、みんなが自分の位置にサッと収まる。一発でバッチリ決まる。謎のセルフィー能力だけは、妙に高かった。

目はしっかり観光しつつ、口では恋バナの続きをしながら、手にしたマイタイをこぼさないよう必死に向かう。足だけは、ちょこまかちょこまか花火が見えるホテルを目指していた。

「この建物の裏のはず!!」
「今何時!?」

ドーン!

「きゃーー! はやく! もう始まってるー!」

しかし、そのホテルが広い。広すぎる。まるでダンジョン。右往左往している間に、再びお腹に響く重低音。

ドーン!

「どこ!? どこからビーチに出られるの!?」
「こっち、こっち!!!」

ようやく外の空気が漂う通路へ抜け出した。……と思ったら。なぜか向かいから、ものすごく満足そうな顔をした観光客たちがゾロゾロ戻ってくる。

ふと見上げた夜空。……真っ暗。海、しーん。

「……え? 終わった?」

近くの人に聞いたら、「Yes, it's over!」と笑顔で返された。

……終わっていた。
肩で息をしながら砂浜にへたり込んだ。
真っ暗な中、波の音だけが響いている。
お互い黙ったまま、手に持ったマイタイを突き合わせた。

──────────

🏃ホノルルマラソンまで、あと2日


👣ふらりマップ
🍹Paia Fish Market Waikiki

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