コンタクトレンズ(187日目)
コンタクトを初めて装着した日のことを憶えている。まだ夕方なのに分厚い雲で外は薄暗く、歩いていると背中の辺りが汗でじっとりとするような今くらいの時期だった。
ただでさえ目に何かを入れるということが恐ろしくてたまらなかったのに、それに加えて行った先の眼科の先生が完全にメガネ派で、コンタクトの危険について今まで見てきたコンタクトにまつわる本当にあった怖い話をあれやこれやと並べられたて、さぁいよいよコンタクトを入れてみようではないかという時にはわたしもすっかり「絶対にコンタクトなどするべきではない、お願いだからもう帰らせてくれ。」という気持ちになっていた。しかしここまで時間をかけておいて今さらそんなことを言えないわたしは看護師さんに見守られながら数十分かけて着脱練習を終えた(体感2時間)。帰宅後、1人で練習してみると、入れることには成功したものの外すのにとてつもなく苦労し、涙を流しながら数時間、鏡の前で格闘した。そして、二度とコンタクトはしないと心に誓った。実際に、その日から数年はコンタクトを付けることはなかった。
あれから十数年、いつの間にか寝ぼけながらもコンタクトを付けたり外したりできるようになっている。きっとあの日から何度も練習を積み重ねて、どこかでコツを掴むタイミングがあったのだろうが、そんな積み重ねはなーんにも覚えていない。記憶にあるのはメガネをかけた眼科の先生のコンタクトへの明らかな敵意と、「そんな小さい目にコンタクトが入るんか」という目がでかくて視力の良いジジイの言葉だけである。
「ジジイ、意外と入るもんだよ。」と今なら言えるのに。
