『すばらしき世界』感想
鑑賞した映画をアプリで記録する際、2つの基準で感想を書いている。
1つ目は、「シンプルにワクワクしたか」とか、「感情が動いたか」といった面白さの感想。
2つ目が「社会に必要な映画」と感じたか。
『すばらしき世界』はまさにその「社会に必要な映画」の部分で大きく印象に残った作品だった。
社会に必要と感じた部分
ーー服役を終えて出所しても、約半数の人がすぐにまた罪を犯し、刑務所に戻ってしまうーー
そんな話を、聞いたことがある人も多いと思う。
この映画は「一度刑務所に入った人たちがなぜ社会に馴染むことが難しいのか」を、具体的にわかりやすく、物語として描き切っている。
本作がきっかけで、これまで意識してなかった社会問題を考えることができるようになった。
自分の中にある加害性への気づき
この映画は、その社会問題に対する「自分の加害性」にも気づかせてくれる。
今後あなたの暮らす地域に、出所したての人が引っ越してくるかもしれない。
気付いてないだけで、もうすでに近くに住んでいるかもしれない。
そのとき「再犯率が高い」という情報しか知らなければ、彼らを怖がり、遠ざけてしまう可能性もある。
それは彼らが戻りたくても戻れない社会をつくり上げる、一因になっていないか。
実情を知らなければ、無意識のうちに自分が社会問題の原因になってしまう。
自分の加害性に気付き、そしてそこから受け入れられる社会に繋げていく。
それがこの映画のいちばんの強さだと思う。
現実に近い温度感
もう一つ、この映画の好きなポイントは、善悪の判別がつきにくいものを無理やり判別しようとせず、ありのままで提供してくれるところ。
例えば、「服役後の人間は完全に反省し、真面目な人格者になってほしい」と心のどこかで思ってるし、そういう方向で切り取る映画はよく見る。
でも本作の主人公 三上は、出所後も攻撃的な一面は残ってるし、過去の暴力団との繋がりもキッパリ切れない。
この映画は「綺麗事」でなく、あくまでありのまま、現実的な温度を残して描き切っている。
その誠実さは、この映画を信頼できる担保にもなる。
作中で印象的に出てくる、なんの区切りもない広い空の映像に、「善悪の判断というものは、そもそも存在しない」という作り手の意図が見えた気がした。
『すばらしい世界』とは、どの世界のことだったのか
先ほどから言っているような社会性を含んだヒリつきもあり、笑える要素もある。
終始のめり込んでいたけど、観ているあいだずっとひとつの問いが頭から離れなかった。
タイトルの『すばらしい世界』とは、どの世界のことを指しているのだろう。
弱者を見て見ぬふりをし、自分だけが生き延びる世界か。
弱者を救うために、正義という名の暴力をふるう世界か。
それとも、三上が抜け出そうとした、やくざの世界そのものか。
しかし、いろんな世界が混じり合い、判別をつけれらない中でも、はっきりと「これはすばらしい世界だ」と思えた瞬間があった。
それは、主人公 三上のために集まってきた人たちがつくる、繋がりの世界。
あそこだけは、迷いなくすばらしい世界だった。
矛盾する世界・社会の中でも、失敗しても、何度も立ち上がってそのときそのときの誠実な行いだけが、自分なりのすばらしい世界を作るんだと感じた映画体験だった
