アメリカで起業するなら、SF? NYC? 両都市でスタートアップをやって感じたこと
湯川です。アメリカで、4年間ほどスタートアップをやっています。
メインの事業は、Oura RingやFitbitなどのwearable deviceと連携するconsumer productivity & health app(詳しくはこちら: https://lifestack.ai/)で、数万人ほどのユーザーに使ってもらっています。最近はUSスタートアップのマーケティング支援の事業も行っており、そちらは複数のYCスタートアップや、有名AI企業などとお仕事させてもらっています。
自分は、幼少期に一瞬住んでいたことはあるものの、きちんと記憶がある中ではこの5年間が初めてのアメリカ生活で、前半2年がSF、後半3年がNYCです。(ちなみにこういうNoteを書くと、やたらビザにうるさい人が現れるので先に書いておきますが、Fビザ → OPTで起業 → E2へ切り替え、という移民弁護士とも相談した超合法ルートです)
今回、直近3年間住んだNYCを離れ、再びSFに引っ越すことにしました。せっかくなので、その前に二つの都市の比較Noteを書いてみようと思います。あくまでn=1、しかもどちらも2〜3年しか住んでいないので偉そうに語れるものではない、という前提のもと、日本人がday 1からUS起業して両方の都市に住んだ、というパターンの情報はあまり出回っていないので、今後誰かの参考になればと思って書いています。
また、自分はこの二つの都市にしか住んだことがなく、かつSF vs NYCはUSの起業家の間でもよく話題になるテーマなので今回取り上げましたが、他の都市、たとえばLAなどのスタートアップ事情も気になっています。詳しい人がいたら、ぜひコメントなどで教えてください。

結論から先に
当たり障りのない結論ですが、どちらの都市にも良し悪しがあって、自分の事業内容とステージによって最適な都市は変わる、というのが正直なところです。そしてこのNoteの一つの意義は、そこに、日本で育った起業家、という視点を加えられることかなと思っています。
SFが向いていそうな人/事業/ステージ
tech firstの事業、horizontalなAI事業
積極的なfundraiseで成長していくスタイル/ステージ
高速でピボットを繰り返して当てにいきたい
とにかくプロダクトに没頭したい
英語やアメリカにあまり馴染みがなく、移民コミュニティに頼りたい
NYCが向いていそうな人/事業/ステージ
consumer向けや、verticalの事業
着実にトラクションを出して堅く伸ばすスタイル/ステージ
業界の具体的な課題から発想したい
仕事以外のカルチャーや生活も大事にしたい
英語にはある程度自信があり、自分で現地のコミュニティにも入っていける
以下、それぞれの都市について詳しく書いていきます。
SF — ど真ん中のtech startup都市
1. 街全体がtech startupカルチャー。scrappyで、pivotにも寛容
街全体がtech startupで溢れかえっていて、石を投げれば大体、起業家かエンジニアに当たります。スタートアップ以外の人でも、起業家の知り合いがいることも多く、街全体が狭くつながっている感覚があります。
起業家同士のシェアハウスなども多く、カルチャーとしてもscrappy(泥臭く何でもやる)な起業家が多く、話していてもスタートアップ的な、長期で大きなリターンを狙う目線感を共有できることが多いです。
一方で、スタートアップ文化が濃すぎるがゆえに、それ以外のinputが不足して視野が狭くなったり、走り続けてburnoutしてしまう人もいます。この空気が肌に合わない、という人も一定数いる印象です。
2. 投資家は無限。スタートアップも無限
世界トップのVCやエンジェルが、ほぼ全部この街に集まっています。実際、2025年には全米のVC資金のおよそ半分がベイエリアに流れ込んだとも言われていて、特にAIではこの傾向がさらに強まっています。
ただし同時に、スタートアップも無限にいます。有象無象がひしめき合っていて、競争はとにかく激しいです。一部のスタートアップには潤沢に資金が集まる一方で、その他大勢の中で目立つためのハードルも高い印象です。
3. Equity storyを描くのが上手い起業家が多い
SFの優秀な起業家は、「この事業がどうやって100倍・1000倍に育つのか」という大きな絵(いわゆるequity story)を描くのが本当に上手いです。投資家側もそれを当然のように期待していて、会話のデフォルトが壮大なナラティブから始まる感覚があります。
一方で、あまりにも実態と伴っていなかったり、結局口先だけじゃん?というような起業家が多いのも、事実ではあります。
4. アジア人が多く、日本人起業家の数も多い
本当にアジア人が多く、街を歩いていてもminorityである実感はあまり受けません。日本人起業家も多く、コミュニティもいくつかあるので、「アメリカに来たばかりで、いきなり現地コミュニティに飛び込むのはハードルが高い」という人にとっては、頼れる人が見つけやすい街だと思います。

NYC — 東京のような、多様性のある街
1. 多種多様なカルチャー
SFと違って、tech一色ではありません。金融、アート、メディア、ファッション、飲食など、さまざまなカルチャーが同時に存在しています。スタートアップという狭い世界の外に、当たり前に別の世界が広がっているのが、NYCの一番の魅力だと思います。
ただ逆に言うと、スタートアップにまったく縁のない人も多いので、共通項がなさすぎて話が弾まないこともあります。ピボットの説明をするときに少し気を遣われたりして、ちょっとしんどい、みたいな場面も起きたりします。
2. 投資家はいる。でもSFよりは少なく、慎重
投資家もそれなりにいますが、SFに比べると数は少ないです。そして肌感として、よりリスク回避的でtractionを重視する傾向があります。夢を語ることよりも、論理的に数字を説明するような空気感です。
一方で、later stageのfundingについては金融機関も多く、選択肢も広がると聞きます(自分たちはまだ全然そのステージに行けていないので、多くは語れませんが😇)
3. 地に足のついた起業家か、creative系の起業家が多い
NYCの起業家は、大きく二つのタイプに分かれる印象です。一つは、金融やB2B、リアルな業界の課題から事業を立ち上げる、地に足のついたタイプ。もう一つは、メディアやファッション、D2Cなど、カルチャーやクリエイティブを起点にするタイプ。
SFのような、純粋なtechのmoonshotよりも、具体的な業界課題を解くか、文化的な切り口から入るか、という発想が多い印象です。だからこそ、industry needsやconsumer trendsから事業を考えたい人には、刺激が多い街だと思います。
4. SFほどアジア人は多くなく、日本人の「スタートアップ」起業家も少ない
NYCも移民の街で、外国生まれの割合で言えばむしろSFより少し高いくらいです。ただし、そのバックグラウンドは中南米・カリブ・ヨーロッパ・アジアと多種多様で、SFのように、アジア人が街を埋め尽くしている、という感覚は受けません。
日本人自体は多いのですが、スタートアップという形態でビジネスをしている人はSFに比べると少なく、自分から積極的に現地コミュニティに入っていく地力は必要かなと思います。

Case study: 弊社の場合(SF → NYC → SF)
冒頭で書いたとおり、自分は最初の2年間SFにいました。最初の1年は現地の大学に留学していて、修了後は、SFの日本人起業家コミュニティでは有名な、テックハウスというシェアハウスに住んでいました。当時はアメリカでのネットワークもなく、スタートアップのことも何もわかっていない状態だったので、ここで多くを学べたのは本当に助けになりました。
その後、奥さんの仕事の都合でNYCに引っ越すことになりました。SFとは異なり色々なカルチャーを経験できたのは、自分の視野を広げる意味でとても良かったです。
また、NYCでスタートアップ型のビジネスをやっている日本人起業家はあまり多くなく、頼れる人も少ない中、ほぼ手探りで知り合いを増やしていったこと自体が、自分を一段成長させてくれたと思います。
具体的には、有名なVC主催のrunning clubに毎週参加したり、自分たちの事業に関連の深いconsumer founderのグループ、wellness系のグループ、NYC Founders Clubなどに参加していました。こうした場では、実際に事業へ取り入れてうまくいったアドバイスをもらえたり、顧客や投資家を紹介してもらえたりと、本当にさまざまな面で助けられました。

一方で、NYCに引っ越してからも数ヶ月に一度はSFに戻り、昔からの知り合いとキャッチアップしたり、オンラインでしかやり取りのなかった投資家と対面で会いにいったりしていました。それを繰り返すうちに、自分たちの今の事業ステージなら、やはりSFに住む方がいいと思うようになりました。これまではコツコツとプロダクトを伸ばしてきましたが、今はもっと大きく挑戦したいフェーズに来ています。そこに踏み込むなら、いる場所としてはSFの方が最適だと感じたのが、今回戻ることにした一番の理由です。
最後に: 両都市を「選択肢」に
本文でも触れたとおり、SFは日本人起業家コミュニティが発達していて、US起業を考える日本の人がSFを訪れるケースも増えてきています。それに比べてNYCは、日本から物理的に遠いことや、SFほど情報が発信されていないことから、最初の拠点として検討されにくいのが現状でした。
しかし、必ずしも全ての事業にとってSFが最適解なわけではありません。また最近は、フリークアウトの本田さんが日本人起業家向けのコワーキングスペースをオープンしたり、起業家ツアーをプログラムしたりと、支援の幅を広げてくださっています。本田さんが掲げている「日本人のUS起業において、NYCを選択肢に入れる」というビジョンには、自分も強く共感しています。

自分は「スタートアップ=SF」くらいの勢いでSFに留学し、そのままそこで起業して、たまたまNYCに引っ越しました。結果として、NYCに来たからこそ得られたものがいくつもありました。だからこそ、これからUS起業を考える人には、ぜひ両方を選択肢に入れて、自分の事業とステージに合う方を選んでほしいと思っています。
P.S. 最後に少しだけ宣伝をします。引っ越しのタイミングということもあり、直近は短期のお仕事・業務委託のご相談も歓迎しています。US市場進出、初期マーケティング、AI活用周りが得意分野なので、合いそうな案件があればぜひお声がけください。そして弊社のメイン事業も、最近ようやく伸び始めて面白いフェーズに入ってきたので、興味を持ってくださった方、一緒に何かできそうな方は、お気軽にご連絡ください。
X: @NaoYukawa
Email: naoyukawa@demind-inc.com
