【🎨展覧会レポ】戸栗美術館「古伊万里カラーパレットー釉薬編ー」
【#327、約3,500文字、写真約20枚】
渋谷にある戸栗美術館に初めて行き「古伊万里カラーパレットー釉薬編ー」を鑑賞しました。その感想・レビューを書きます。
※ 本展覧会の会期はすでに終了しています。
▶︎ 結論
目立たない立地にあり、大きくない規模の美術館ですが、他にはない鑑賞体験ができたため、満足できました。それは主に、1)釉薬について他の美術館にはない深掘りがあったこと、2)観覧者が少なく、ゆったりした環境で鑑賞できたことによります。焼き物に興味がある人・ない人、渋谷付近で美術鑑賞をしたい人にとって、オススメの美術館でした。
おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★☆☆☆☆
混み具合:★☆☆☆☆
展覧会名:古伊万里カラーパレットー釉薬編ー
場所:戸栗美術館
会期:2025年7月11日(金)~9月28日(日)
休館日:月曜日・火曜日
開館時間:10:00~17:00
住所:東京都渋谷区松濤1丁目11−3
アクセス:渋谷駅から徒歩約10分
入場料(一般):1,200円
事前予約:不要
所要時間:約1時間
撮影:ロビー以外すべて撮影不可
巡回:ー
URL:こちら
▶︎ 訪問のきっかけ

ある時、渋谷を歩いて何気なく標識を見ると「戸栗美術館」という見慣れない名前を見つけました。「渋谷にまだ行ったことない美術館があったんやぁ、いつか行ってみよ」ということで、行ってみました。
▼ 渋谷駅近くの主な美術館(6つ)
▶︎ アクセス

戸栗美術館は、渋谷駅から徒歩約10分。東急百貨店本店の後ろにある住宅街の中に位置します。ところどころに戸栗美術館の案内標識が出ていました。


戸栗美術館の周りは、高級そうな低層マンションや、一戸建て、老人ホームばかり。そんなところに、ひっそり佇む美術館でした。

▶︎ 戸栗美術館とは?

戸栗美術館は、鍋島家の屋敷跡に1987年にオープン。創設者の戸栗亨が長年にわたって集めた陶磁器を中心に、保存・公開しています。
▼ 鍋島家や松濤地区の淵源に詳しい記事

戸栗亨は、山梨県生まれ(1926年)。1957年に上京、殖産住宅の指定建設業者で「富士工務店」の社長でした。上京する前から、近代化する前の文化や生活様式を後世に伝えるためのグッズを収集。収集にキリがなくなったため、周りからのアドバイスをもとに「用の美」を備えた、工芸品や陶磁器に的を絞ったそうです。
1977年の「衆議院 ロッキード問題に関する調査特別委員会」でも、戸栗亨の名前が登場します。事件のお金の流れに関係があったり、中曽根康弘とも何らかの親交があるなど、思わぬところの歴史に名前を刻んでいます。


コレクションは伊万里、鍋島など、肥前磁器および中国・朝鮮などの東洋陶磁をメインに約7,000点以上を所蔵。年4回の企画展を開催しています。


ありがたや🙏



ワンピースのゾロしか思い出さない

1階の「やきもの展示室」では、クリエイターズリポートと題した展示がありました。戸栗美術館の学芸員が、焼き物の作家3名にインタビューした内容でした。

館内は、ラウンジ以外撮影禁止。展示室の説明は大変興味深かったため、後学目的にパネルだけでも撮影したかったです。
▶︎ 「古伊万里カラーパレットー釉薬編ー」感想

釉薬とは、やきものの表面に施されるガラス質の膜です。耐水性のほか、色や質感といったうつわの装飾性を高める役割を担っています。伊万里焼では、白い素地と透明釉による白、瑠璃釉による青、青磁釉による青緑、銹釉による茶が初期から主にあらわされています。(略)釉薬による多彩な装飾をお楽しみいただける館蔵の伊万里焼、約80点を厳選。
要は、伊万里焼の「色」を楽しむ展覧会でした。観覧者は常に、フロアに1〜2人と少数だったため、快適に鑑賞できました。じっくり見て、所要時間は約1時間でした。
✔️ 「釉薬」とは?
焼き物に色付けするためには、主に釉薬を利用します。釉薬とは、ガラス質の膜です。それを施すことで、耐水性がアップすることに加え、色や質感など装飾性も高める効果があります。
「釉薬」とはよく聞くものの、詳しく調べたことがなかったため、勉強になりました。まずは、陶石と柞灰(柞からつくる灰)で、灰釉をつくります。それらを水簸(精製)して泥漿状にしてランク分けします。
材料の産地、配合の比率、焼き加減などから無限の組み合わせで奇跡が生まれる。それが焼き物の魅力なのかな、と思いました。
本展覧会では、すべてのキャプションに、以下のどれか(または複数)が記載されています。展覧会タイトルの「カラーパレット」に連動した仕掛けになっていました。
透明釉
瑠璃釉
青磁釉
さび釉
蕎麦釉
辰砂釉
また、その主な呈色材(特定の物質と反応して色をつけたり、色を変えたりする性質をもつ試薬や材料の総称)として「酸化コバルト」「酸化第二鉄」など、科学的な側面の記載も興味深かったです。
シンプルながらも、考えられた構成になっていたため「この焼き物きれい〜」と見るだけでなく、+αの知識も身に付く点が楽しかったです。
大きなキャプションやルビなど、アクセシビリティを考慮した対応も良かったです。なお、英語は、あったりなかったりでした(基準は謎)。
✔️ 「目跡」「⚫︎客で伝世」:独特の世界観
キャプションを読んで気になったのが「目跡」「⚫︎客で伝世」。独特で深い世界だな、と思いました。
「目跡」とは、器を重ねて焼く際、器同士がくっつかないように、小さく丸めた粘土の粒などを器と器の間にかませた跡です。なお。量産型の器は、大きな窯で一気に大量に焼き上げるため、目跡がつくような処理が不要だそうです。
「目跡のある/なしで評価って変わるんかな?」と思いました。「目跡」=「手作業でつくった焼き物」という印にもなるため、焼き物を見慣れた人にとっては、趣を感じるポイントのようです。
「⚫︎客で伝世」とは「⚫︎つで1セットと言われている」の意味です。ほとんどの作品に「⚫︎客で伝世」が記載されていました。中には、「5客で伝世だが、現存は3客」などと丁寧な説明もありました。

例えば二隻(一双)の屏風だと、それで1つの作品として鑑賞できます。しかし、お皿が何客あったところで、全部一緒。そんなに重要な情報なのかな?と思いました。

✔️ 焼き物に「銘」がないワケ
全体的に、五島美術館に似ている印象をもちました。この手の展示を見るたび「実際、焼き物はどうやってつくってんねんやろう」と思います。
例えば、焼き物制作のプロセス(釉薬の作り方、釉薬の施し方)を紹介した映像があると、鑑賞の助けになると思いました。箱根美術館では、(とても年代物でしたが)人間国宝の松井康成が、土から焼き物をつくる映像が流されており、大変参考になった記憶があります。戸栗美術館では、パネルを使った説明がありました。
展示されている作品に作者名がないことが、私は不思議でした。江戸時代、伊万里焼をつくるのは一大産業であり、10を超える分業制が確立していました。当時、伊万里焼はアートではなく、大量生産された日用品だったため、制作者の名前を刻む余地はなかったようです。
✔️ 私の好きな釉薬
「自分はどんな釉が好きかなぁ」と気軽に鑑賞しました。私は、シックな「瑠璃釉」が好きでした。作品では、特に《瑠璃釉瓢形瓶》が気に入りました。美しい流線型と、落ち着きのある濃紺の色使いがステキです。モダンな部屋に置いてもマッチしそうです。

✔️ 展示ケース前の出っ張りがGood!

戸栗美術館にあった珍しいものが、展示ケース前にある出っ張り。ガラスに顔を近づけて鑑賞したい時、その出っ張りに手を置いて前のめりになると、体勢的に楽でした。また、メモ帳なども一時的に置くのに便利でした。

▶︎ まとめ

《青磁染付 蛸唐草文瓶》
いかがだったでしょうか?私立であり、高級住宅街にしっぽりと佇む美術館でした。思いの外、今までにない焼き物の楽しみ方ができたことに加え、知識も増えました。来館者は少ないため、ゆったりと鑑賞できます。また、展示ケース前にある「出っ張り」は、鑑賞の助けになったため、他の美術館にもマネしてほしいです。
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