忘れられない塾長、オロナミンC
私立高校で勤務していた頃、学習塾訪問を始めたばかりの頃の話です。
まだ1週間ほどしか経っていない頃でした。
ある日、一軒家で運営されている学習塾を見つけ、看板が出ていたので、アポイントなしで訪問しました。
インターホン越しに「どこの学校ですか?」と聞かれ、学校名を伝えると、
「用事はない」
その一言で通話は切れました。
始めたばかりだったので、「こういうこともあるのかな」と思いましたが、やはり気持ちのいいものではありません。
その足で次に向かったのは、地域ではよく知られた老舗の学習塾でした。
初めて訪れたにもかかわらず、70歳を超えた塾長さんは笑顔で迎えてくださり、
「暑い中、ご苦労さんやったな」
そう言って冷蔵庫からオロナミンCを一本取り出し、
「これでエネルギー補給してください」
と手渡してくださいました。
その塾から私の勤務していた学校へ多くの生徒が進学しているわけでもありません。
それでも、一人の訪問者として温かく迎えてくださったことが本当にうれしかったのです。
しかも、直前に冷たくあしらわれた後だったので、その一本のオロナミンCは、何倍にも心に染みました。
あれから何年も経ちます。
それでも、その塾長さんの笑顔も、オロナミンCも、今でも鮮明に覚えています。
人は、親切にされた出来事を意外なほど長く覚えています。
だから私は、その塾に対して今でも自然と良い印象を持っています。
きっとあの塾長さんは、私だけではなく、初めて会う人にも同じように接してこられたのでしょう。
オロナミンC一本の値段は決して高くありません。
でも、その一本で相手の心をつかみ、「また会いたい」と思わせることができる。
塾経営で大切なのは、派手なサービスや立派な設備だけではありません。
相手を大切に思う気持ちは、小さな行動に表れます。
私は今でも、あの一本のオロナミンCを見るたびに、その塾長さんのことを思い出します。
