小説版ネオ・セラフィス 第24話「贈り物」
そのあまりに異様な存在に、
誰も言葉を発することが出来なかった。
「まあ今度、
もっと面白いものを見せてあげるよ」
ノクスは意味深な言葉を残して、
紫の粒子に包まれ、その場から消えてしまった。
「またどこかで会おうね」
まるで、友人にでも語りかけるような口調で。
崩壊都市の空に、
まだ黒煙が漂っていた。
スペクターの残骸。
焼けた瓦礫。
崩れ落ちた高架。
戦闘は終わった。
終わったはずだった。
なのに。
誰もすぐには動けなかった。
『……撤退する』
レオンの低い声。
その一言で、
ようやく全員が現実へ引き戻される。
セラフィスが高度を下げる。
リーベラはまだ少し動きが硬い。
アルトのセレスタスだけが、
最後までノクスが消えた空間を見つめていた。
『アルト』
柊弥が通信を入れる。
『……お前、あいつ知ってるのか』
沈黙。
数秒。
そして。
『知らない』
短い返答。
だが。
明らかに嘘だった。
柊弥は眉を寄せる。
それ以上、
踏み込めなかった。
空気が重すぎた。
⸻
帰還後。
第七ベース医療区画。
リサは簡易検査を受けていた。
「……大丈夫?」
ミレアが恐る恐る聞く。
リサは少し笑う。
「へーきへーき」
明るい声。
いつもの調子。
でも。
紙コップを持つ手が、
微かに震えていた。
ミレアは気づく。
でも何も言わない。
その時。
廊下の向こうで、
ティキの怒鳴り声が響いた。
「はぁ!?
侵入者ァ!?」
全員が顔を上げる。
警報は鳴っていない。
なのに。
空気だけが妙に騒がしい。
⸻
格納庫。
そこにいた全員が、
言葉を失っていた。
青年がいた。
黒い外套。
長い薄緑の髪。
金色の瞳。
まるで散歩の途中みたいに、
格納庫のコンテナへ腰掛けている。
ノクスだった。
「やあ」
柔らかい笑顔。
敵意はない。
だからこそ、
恐ろしい。
「なんでここに……!」
柊弥が前へ出る。
だが。
レオンが片手で制した。
ネメシス用の大剣を握ったまま、
静かにノクスを睨む。
ノクスは気にした様子もなく、
足元へ視線を落とした。
そこには。
一人の青年が横たわっていた。
灰色を溶かしたような淡い茶髪。
傷だらけの黒い戦闘服。
眠っているみたいに静かだった。
「……!?」
レオンの表情が止まる。
柊弥も息を呑む。
リサが青ざめた。
アルトだけが、
即座に銃口を向ける。
『離れろ』
冷たい声。
だがノクスは笑ったままだ。
「大丈夫だよ」
「壊れてるだけだから」
空気が凍る。
壊れてる。
人間へ向ける言葉じゃなかった。
ノクスは、
眠る青年の髪を優しく撫でる。
「これ、僕からのプレゼント」
「君たちの知り合いなんでしょ?」
レオンの瞳が揺れる。
初めてだった。
彼の感情が、
明確に崩れたのは。
「……ユリウス」
掠れた声。
ノクスは嬉しそうに微笑む。
「うん。
そう呼ばれてたね」
柊弥が困惑する。
「知り合い……なのか?」
レオンは答えない。
ただ、
拳を握り締めていた。
ノクスがふと顔を上げる。
その瞬間。
警報。
基地全体へ赤色灯が走る。
《レムナント群接近!
第三区画に多数反応!!》
ティキの悲鳴混じりの通信。
ノクスが小さく目を丸くする。
「あれ」
「来ちゃった」
本当に予想外みたいな声。
だが。
誰も信じられない。
ノクスは立ち上がる。
黒い粒子が、
足元から零れ落ちた。
「じゃあね」
柔らかい笑顔。
次の瞬間。
空間が歪む。
そして。
ノクスの姿は消えていた。
沈黙。
誰も動けない。
警報だけが響く。
その中心で。
レオンは、
倒れたユリウスを見つめ続けていた。
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