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小説版ネオ・セラフィス 第27話「ユリウス・フラクチャー」

警報音が、
基地全体へ響き渡っていた。

《高濃度フラクチャー反応を検知》

《危険度、測定不能》

《医療区画を封鎖します》

赤色灯。

揺れる照明。

崩れ落ちた天井。

煙。

その中心で。

ユリウスは、
一人立っていた。

「…………」

右腕は既に、
人間の形を失っている。

黒い結晶。

脈動する紫光。

砕けた装甲みたいな異形の腕が、
微かに震えていた。

でも。

左手だけは、
まだ人間のままだった。

その手が、
苦しそうに右腕を押さえている。

「はぁ……っ……」

呼吸が荒い。

視界が歪む。

頭の中で、
誰かの声が響いていた。

『セラフィスは危険だ』

『あの力は、
 いずれ全部壊す』

『止めなきゃいけない』

違う。

違う。

そんなこと、
思ってない。

ユリウスは頭を押さえる。

「……黙れ」

ノイズが酷くなる。

記憶。

戦場。

黒い光。

崩壊。

叫び声。

そして。

レオンの姿。

『任せたぞ』

『無事に帰ってこいよ?』

胸が痛む。

何かを思い出しそうになる。

だが。

その度に、
侵食が広がっていく。

バキ――

右肩から、
黒い結晶が伸びた。

医務室の床が砕ける。

モニターが爆散する。

照明が弾け飛んだ。

《危険領域拡大!》

《全員退避してください!》

その瞬間。

医務室の扉が開く。

「ユリウス!!」

柊弥だった。

後ろには、
アルトとリサもいる。

だが。

三人とも、
その場で止まった。

目の前にいたのは、
“敵”じゃなかった。

苦しそうに呼吸しながら、
必死に耐えているユリウスだった。

リサが息を呑む。

「そんな……」

ユリウスが、
ゆっくり顔を上げる。

その瞳には、
まだ理性が残っていた。

だからこそ。

余計につらかった。

「……来るな」

掠れた声。

柊弥が前へ出る。

「違う、俺たちは――」

その瞬間。

空間が歪んだ。

轟音。

壁が吹き飛ぶ。

黒い衝撃波が、
周囲を薙ぎ払う。

アルトが即座にリサを庇う。

「下がれ!」

医務室が崩壊する。

煙。

火花。

その中心で。

ユリウスだけが、
絶望した顔をしていた。

「……だから、
 来るなって言っただろ」

震える声。

右腕の侵食が、
さらに広がっていく。

首筋。

胸元。

黒い亀裂。

柊弥の顔が歪む。

「何だよこれ……」

リサが涙声で言う。

「助けられるよね……?」

誰も答えられなかった。

アルトだけが、
静かにユリウスを見ていた。

そして。

理解してしまう。

――もう危険領域だ。

軍なら、
処分対象。

セラフィス隊なら、
排除命令。

それが正しい。

なのに。

アルトは、
銃を構えられなかった。

ユリウスが、
まだ“人間”だから。

「……っ」

アルトの指が震える。

引き金が引けない。

ユリウスが苦しそうに笑った。

「……優しいな」

その言葉に、
リサが泣きそうになる。

「やめてよ……」

「そんな言い方……」

ユリウスは、
小さく目を伏せた。

「俺、
 分かるんだ」

「もう、
 戻れない」

静寂。

その瞬間。

再び激痛。

「ぐっ……!!」

侵食が暴走する。

黒い粒子が、
周囲へ吹き荒れる。

床が捻じ曲がる。

空間そのものが悲鳴を上げる。

ユリウスが、
頭を押さえて叫ぶ。

「来るな!!」

「近づくなァ!!」

轟音。

柊弥たちが吹き飛ばされる。

リサが倒れる。

アルトが支える。

ユリウス本人が、
一番怯えていた。

自分自身に。

「嫌だ……」

「俺は……!」

涙が零れる。

黒い結晶の隙間から。

人間の涙が。

その時だった。

崩壊した通路の奥から、
足音が響く。

レオンだった。

黒い制服。

抜き身の大剣。

だが。

彼は、
立ち止まった。

目の前の存在を見て。

親友だったものを見て。

言葉を失った。

ユリウスが、
ゆっくり顔を上げる。

「……レオン」

その瞬間だけ。

暴走が止まる。

静寂。

レオンの瞳が揺れる。

ユリウスは、
泣きそうに笑った。

「……ごめんな」

レオンは動けない。

剣を握る手が、
微かに震えている。

ユリウスが、
掠れた声で言う。

「俺から離れてくれ」

「今ならまだ間に合う」

侵食が、
さらに広がる。

背中から、
巨大な黒い結晶が噴き出した。

空間が裂ける。

基地全体が震動する。

警報。

悲鳴。

崩壊。

その中心で。

ユリウスは、
最後まで人間の顔で呟く。

「だから……」

涙が落ちる。

「逃げろ」

次の瞬間。

黒い光が、
全てを飲み込んだ。

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