小説版ネオ・セラフィス 第16話「仲間」
夕焼けが、訓練施設の白い外壁を赤く染めていた。
シミュレーションルームから出てきた柊弥は、ようやく張り詰めていた肩の力を抜き、小さく息を吐いた。
「ふぅ……」
汗ばんだ額を拭う。
数ヶ月前までの自分なら、今日の訓練についていくことすら出来なかったかもしれない。
だが今は違う。
「やるじゃん、柊弥!」
背後から勢いよく肩を叩かれ、柊弥が少し前によろける。
「うわっ!?」
振り返ると、オレンジ色のショートヘアを揺らしたリサが笑っていた。
「最後の連携、完璧だったじゃん! あのタイミングで動けるとは思わなかった!」
「いや……みんなが合わせてくれたからだよ」
「それをちゃんと信じて動けたのが成長なんだって」
リサは満足げに腕を組む。
少し離れた場所では、ティキが呆れたように笑っていた。
「最初の頃は味方の位置も見えてなかったのにな」
「……うるさい」
柊弥が眉をひそめると、ティキは肩を竦めた。
「褒めてんだよ。少しは自信持て」
ミレアは端末を操作しながら、静かに口を開く。
「データ上でも、朝霧候補生の反応速度と判断精度は大きく向上しています。特に味方機との同期率は高水準です」
「へぇ〜、言うじゃんミレア」
「事実を述べただけです」
ロゼッタは壁にもたれながら、じっと柊弥を見ていた。
「でもさ」
その声に、全員の視線が向く。
「柊弥、変わったよね」
「え……?」
「前は、“失敗しないように”動いてた。でも今は、“守るために”動いてる感じ」
柊弥は少しだけ目を見開いた。
自覚はなかった。
けれど、その言葉は不思議と胸に落ちた。
守りたいと思える仲間が出来た。
一人では届かなかったものに、今なら手が届く気がした。
その時だった。
施設内のスピーカーが電子音を鳴らす。
『——候補生各員に通達』
空気が変わる。
アヤメの落ち着いた声が響いた。
『配属先が正式決定しました。詳細は各自端末を確認してください』
ティキが端末を開く。
「お、来た来た」
ミレアも視線を落とす。
リサは楽しそうに柊弥の肩を揺さぶった。
「ねぇねぇ! どこだった!?」
柊弥も自分の端末へ目を向ける。
表示された文字。
――前線機動部隊配属予定。
思わず息を呑んだ。
前線。
それはつまり、本当の戦場だった。
嬉しさと、不安。
そのどちらもが胸の奥で入り混じる。
「……いよいよ、か」
レオンが廊下の奥で静かに呟く。
その横顔は、どこか遠くを見ていた。
次の瞬間。
施設全体を震わせるような警報音が鳴り響いた。
赤色灯が点滅する。
空気が凍る。
『緊急警報。レムナント反応を確認。繰り返す——』
一瞬前までの穏やかな時間が、音を立てて崩れていく。
リサの表情から笑顔が消えた。
ティキが舌打ちする。
ミレアは即座に端末を開き、ロゼッタは静かに目を細める。
アヤメの声が再び響く。
『全候補生、待機——』
その通信に激しいノイズが混ざった。
『……っ、前線防衛ライン突破を確認! 各員、至急出撃準備を!』
沈黙。
そして柊弥は、ゆっくりと顔を上げた。
夕焼けに染まる窓の向こう。
遠くの空に、黒煙が上がっていた。
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