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小説版ネオ・セラフィス第13話「候補生」

模擬戦の翌日。

柊弥は、
ほとんど眠れなかった。

薄暗い自室。

天井を見上げたまま、
何度も思い出す。

ネメシスの刃。

首元へ突きつけられた感覚。

あの瞬間。

レオンは、
本当に止めを刺せた。

「……死ぬぞ」

低い声が、
頭から離れない。

柊弥はゆっくり目を閉じる。

その時。

ふと、
別の感覚が蘇った。

セラフィス。

白い機体。

操縦桿へ触れた瞬間の、
奇妙な安心感。

初めて乗ったはずなのに、
ずっと前から知っていたみたいな感覚。

怖かった。

なのに。

どこか、
心が落ち着いていた。

「……なんなんだよ」

答えは出ない。

桜乃のことも。

この世界のことも。

自分がここに居る理由も。

全部分からないままだった。



翌朝。

第七ベース食堂。

金属製のトレイへ、
朝食が並べられる。

人の声。

食器の音。

警報アナウンス。

戦場の中とは思えないほど、
そこには日常があった。

柊弥はぼんやりとスープを眺める。

「Good morning、少年」

突然、
頭上から声が降ってきた。

振り向く。

オレンジ色の髪。

リサだった。

「死にそうな顔してる」

「してねえよ」

「してるしてる」

勝手に向かいへ座る。

リサはパンを齧りながら、
柊弥を見る。

「昨日、
 レオンにボコられたから?」

「……模擬戦だ」

「同じようなもんでしょ」

けらけら笑う。

その軽さに、
少しだけ救われる自分がいた。

その時。

周囲の空気が、
わずかに変わった。

静かに、
誰かが歩いてくる。

白い軍服。

薄紫色の髪。

アヤメだった。

食堂の兵士たちが、
自然と道を開ける。

アヤメは柊弥の前で止まった。

「食後、
 訓練区画へ来なさい」

有無を言わせない声。

柊弥は眉をひそめる。

「……訓練?」

「ええ」

アヤメは静かに告げる。

「あなたには、
 候補生訓練を受けてもらいます」

「待てよ。
 俺は――」

「戦いたくない?」

言葉を遮る。

紫の瞳が、
真っ直ぐ柊弥を見る。

「なら、
 なおさら必要よ」

アヤメは淡々と言う。

「この世界では、
 力がなければ死ぬ」

静かな声だった。

けれど、
現実だった。

柊弥は言葉を失う。

その脳裏に、
昨日の模擬戦が蘇る。

ネメシス。

圧倒的な力量差。

そして。

『このままだと死ぬぞ』

レオンの声。

柊弥はゆっくり拳を握った。

「……何かを変えられるなら」

小さく呟く。

もう。

何も出来ないまま失うのは嫌だった。

アヤメはわずかに目を細めた。

「決まりね」



候補生区画。

広い訓練施設では、
同年代の少年少女たちが汗を流していた。

シミュレーター。

整備訓練。

射撃訓練。

怒号。

笑い声。

その全てが入り混じっている。

「お前が噂の新人か!」

突然。

勢いよく声が飛んできた。

黒髪。

後ろで結んだ髪。

猫みたいに鋭い目。

少年が、
柊弥の目の前まで詰め寄ってくる。

距離が近い。

近すぎる。

「俺はティキ!」

満面の笑み。

「負けないからな!」

柊弥は数秒沈黙した。

「……何に?」

「何にって、
 全部だろ!」

意味が分からない。

でも。

ティキは本気だった。

その真っ直ぐな熱量に、
柊弥は少しだけ圧倒される。

遠くから、
リサが吹き出した。

「もう始まってるし」

候補生たちの騒がしい声が、
訓練区画へ響いていく。

それが。

柊弥にとって、
エリュシオンで初めて触れる
“戦場ではない時間”だった。

食堂でのリサと柊弥の会話シーン。

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