呑んべえ×下戸、ときどき焼き鳥
「(私)が呑んべえじゃなくて良かったよなあ」
テレビの中で、じゅわじゅわの肉汁をしたたらせた焼き鳥をほうばり、グビグビと生ビールを飲んでいる水森かおりのドアップを眺めながら、夫がぽつりと呟いた。私は思わずたずねる。
「え、なんで?」
ほぼ下戸の私に対して、夫はかなりの酒飲みだ。そんな大した量飲んでないよ〜フツ〜フツ〜と彼は言うが、私は騙されない。一般的な酒飲みと比較しても、だいぶ強いし、量も飲む。休みの日なんか朝から飲んでるし、昼も夜もずっと飲んでる。ただし、私はそれに特段の文句があるわけではない。夫は、とても綺麗にお酒を飲む人で、酔い潰れることはほぼないし、無茶な飲み方もしない。たまーに、いつもより絡みがめんどいな…ということがあるぐらいで、それも「酔っ払ってるからうざい」と言えば、素直にシュンと落ち込むレベル。
逆に私は思うのだ。もしも私が、お酒を飲めたら。晩酌にもつきあってあげられるし、夫だって、「うざい」と追い払われることなく心地よく酔っ払うことができるのに。
「両方酒飲みやと、歯止めが効かんやん」
夫いわく、私が下戸がゆえ外食が居酒屋まみれにならなくてすむし、日々の食事がアテ三昧にならなくてすむのだと。もしも私が酒飲みなら、誘い誘われ、今よりもっと居酒屋へ行きたくなる。その数、2倍。いや、3倍にはなるだろうと。そうなると、わが家のエンゲル係数は破滅だと。
「でも、その分、楽しみも2倍、3倍になるやん?」
そうだ。居酒屋の楽しみ方はぐんとレベルアップしそうじゃないか。ここは日本酒がうまいんだよ、そしたらお酒にあわせてアテはこれで…なんて、酒飲みトークを交わしながら、一口目がキュッと喉を鳴らした時の「くぅ〜うまい!」も共有できる。それは、今の私では叶えてあげられない幸せ。
「居酒屋はひとりで一杯ひっかけて帰るぐらいがいいんよなあ」
まあ確かに?彼は居酒屋、私は喫茶店と棲み分けができているがゆえ、私たちには暗黙で踏み込まないテリトリーみたいなものができている。ひとりで遊びたい、ゆっくりしたい、なんて時にはそれぞれのテリトリーで、のんびりと羽を伸ばすのだ。「居酒屋行ってこよかな」は、彼の合図。「お茶してくるわ」は、私の合図。そこに一緒について行くのは邪道かもしれない。
「月に一回だけ、一緒に居酒屋行くってルール決めたらいいやん」
そんなルールを作ったところで、私が下戸なのは覆らないんだけど、なぜか私は食い下がった。飲めなくても居酒屋行くの嫌いじゃないよ?なんなら、おいしい焼き鳥屋とか探してさあ、名店巡りとかしようよぉ。
「それもそうか、決まりを作ればいいんやな」
そうそうそう。ていうか、それは別に居酒屋でもハンバーグ屋でもなんでもいいわけで、酒が飲めても飲めなくてもなんでもいいわけで。
「呑んべえ×下戸」とか、「呑んべえ×呑んべえ」とか、
そんなの、どっちでもいいのだ。
私は喫茶店がいい。
あなたは居酒屋が好き。
月に一度は、一緒に焼き鳥。
酒も美味しくて、白ごはんも盛り盛り食べられるところ。
「うまあ!」と共有できれば、それでいいや。
私×あなたの、わが家のルール。
