上場企業の平均年収778万円、ヒューリック2295万円の理由
上場企業の平均年収が5年連続で上がり続けている。この「全員が恩恵を受けている」ように見えるデータの裏に、実は深刻な二極化が進んでいる。
> 給与の底上げではなく、上澄みの厚みが増しただけだ。
この記事のポイント
・平均年収778万円は一般正社員の1.4倍以上の水準
・不動産・商社・海運という「資産価格連動型」業種が上位を独占
・初任給インフレの恩恵は若手と40代以上で真逆の結果を生んでいる
何が起きたか
東京商工リサーチのリサーチによると、上場企業3,123社の2025年度平均年収は
778万7,744円
となり、前年度比4.0%増・5年連続の上昇を記録した。平均年収トップは不動産開発を手がけるヒューリックで
2,295万4,000円
と、2年連続で2,000万円を超えた。平均年収1,000万円以上の企業は139社と、前年度から32社増加。一方で国税庁調査の正規社員平均給与は544万9,000円にとどまり、上場企業との差は233万円超に拡大した。
なぜヒューリック2295万円が出現し、778万円の平均が生まれたのか
ヒューリックという会社を知らない人のために一言説明する。旧富士銀行(現みずほ銀行)の店舗・社宅を源流に持つ不動産会社で、三菱地所や三井不動産の「御三家」が手を出さない中規模オフィスビルに特化して銀座・都心に物件を集積させてきた会社だ。東京都心5区のオフィス空室率が需給均衡の目安とされる5%を19カ月連続で下回る中、保有物件の7割超が最寄り駅から徒歩5分以内という立地戦略が、そのまま利益に直結している。
従業員数が少ない会社の「平均年収」は、少数精鋭の高給人材が引っ張りやすい構造になっている。ヒューリックは正社員数が300名台と、売上高規模に対して圧倒的に人が少ない。オフィス比率が収益の45%を占め、運用益が人件費を大きく上回る「少人数・高収益」モデルが、あの年収を生み出す直接の理由だ。
実際に影響を受けているのは、不動産・商社・海運という業種の従業員だ。今回の上位30社のうち不動産6社・商社6社・海運3社という構成は偶然ではない。地価上昇・企業のオフィス回帰・エネルギー価格上昇・円安という「資産価格連動型」の追い風がすべてこの3業種に集中した。逆に言うと、製造業やサービス業の社員はこの恩恵をほとんど受けていない。
法律・開示制度の観点から見ると、2026年3月期の有価証券報告書から「従業員給与の決定方針」の開示が義務化されることが決まっている。今まで「なんとなく決めてきた」給与水準を、投資家だけでなく従業員自身も読める形で開示しなければならなくなる。上場企業の管理職の55%以上が「社内目標と現場マネジメントの乖離を感じている」という調査結果があるとされているが、この開示義務化は「給与の論拠を持っていない企業」にとって相当なプレッシャーになる。
社会トレンドとして見ると、最も厄介な構造が浮かぶ。帝国データバンクのリサーチでは、上場企業の
76.8%
が前年より平均給与を増やした一方で、「500万円台以下」の企業は全体の34.8%を占める。初任給インフレが既存社員の給与テーブルを押し上げているのは事実だが、恩恵の中心は若手だ。40〜50代を対象とする「黒字リストラ」が頻発し、シニア・ミドル層が総人件費の調整弁として使われる構図が同時進行している。「平均が上がった」という数字の裏で、中堅・管理職の実質待遇は悪化しているケースがある。
この数字、転職・キャリア判断にどう使うか
私がコンサルを辞めてライターになった直接のきっかけは、クライアントの人事部門の資料を見て「この会社の平均年収の上がり方、完全にヒューリック型だな」と気づいた瞬間だった。従業員数が減り、残った社員の給与だけが上がる。分子が変わらなくても分母を減らせば平均は上がる。その「種明かし」を誰もしていなかった。
私は転職を考えていた友人に「その会社の平均年収の上がり方より、従業員数の増減を先に見ろ」と言い続けている。年収778万円という上場企業平均の分析をするなら、中央値と従業員数の推移を組み合わせないと実態は見えない。ヒューリックの2,295万円が突出しているのは、それが「業績の反映」だけでなく「少人数構造の反映」でもあるからだ。
もう一点、私が今注目しているのはグローバル・リンク・マネジメントの事例だ。同社の平均年収は前年度比
48.3%増
で890万円から1,321万円に跳ね上がった。新卒初任給を月35万円に引き上げ、報酬制度を一から設計し直した結果だ。これは「資産価格が上がったから給料も上げた」ではなく、「人に投資する意思決定をした」ケースとして、不動産業界の中でも異質な動きだと見ている。「業界の追い風」ではなく「制度設計」で年収を上げることができるという証拠として、このリサーチの結果で最も着目すべき数字だと思っている。
上場企業の平均年収は、業種と人員構造を抜きに語ると何も見えない数字だ。
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