AI使うほど残業が増える、日本企業の病理
AIを使いこなしているはずなのに、気づけば残業時間が増えている。この逆説が今、日本企業で静かに広がっている。
> 効率化ツールが「仕事の総量」を増やすメカニズムが動いている。
この記事のポイント
・AI活用度が高い人ほど残業時間が長くなる
・効率化した分だけ仕事が補充される構造がある
・導入の前に業務プロセスを変えないと逆効果になる
何が起きたか
東洋経済オンラインが報じた調査で、AIをよく使う社員ほど残業時間が長いという実態が明らかになった。コンサルティング企業ゴウリカが2026年1月に従業員1000人以上の大企業1020人を対象に実施した調査では、DXツールを導入した企業のうち業務負担が「増加した」と答えた割合が
32.7%
と、「減少した」の21.5%を10ポイント以上も上回った。AIを入れたのに、現場が楽になっていない。
なぜ効率化するほど仕事が増えるのか
日本企業の内部に、構造的な問題がある。仕事が速く終わると、その余白に新しいタスクが流し込まれる。上司から見れば「あの人は余裕があるはず」と判断される。結果として、AIを使いこなせる人間ほどタスクが積み上がる。これは個人の怠慢でも会社の悪意でもない。「空いた時間は埋める」という組織の暗黙ルールが作動しているだけだ。
ゴウリカの調査では、就業時間の
51.2%
がノンコア業務に費やされていた。一般社員に絞ると57.3%にまで跳ね上がる。AIで書類作成が速くなっても、そのコア業務外の仕事の総量が変わらなければ、空いた時間はまた別のノンコア業務で埋まる。AIはその穴を掘るスピードを上げただけになる。
実際に影響を受けているのは、真面目にAIを使い始めた現場の担当者だ。ベルシステム24ホールディングスが2026年8月に管理職542人を対象に実施した調査では、「AIやデジタル化で無くしたい事務作業」に1人1日平均
2時間
を費やしていることがわかった。この2時間が浮いても、次の「無くしたい作業」がすぐに補充される。オンラインでの会議が増え、資料作成の依頼が増え、報告書のフォーマットが増える。AIは個人の生産性を上げたが、組織の仕事量は減らなかった。
法律・規制の視点から見ると、日本には残業規制が存在するが、「AIで速くなったのだから別の仕事もできるはず」という論理は規制の射程外にある。働き方改革法が定めるのは時間の上限であって、仕事の密度ではない。AIが仕事の密度を上げることで、同じ残業時間内に詰め込まれる作業量が増えるという抜け道が生まれている。これは「違法ではないが、人が壊れる」構造だ。
業界全体を見ると、これは日本企業に特有のパターンとされている。米フィナンシャル・タイムズが報じた研究では、AIに最も多額の投資をした米国企業の従業員数はむしろ
10.2%増加
した。つまり、AIが生み出した余剰を「人員削減」ではなく「新しい仕事の創出」に使ったということだ。一方で日本企業の多くは、浮いた時間を既存の人員に別の仕事として割り当てる。成長への再投資ではなく、密度を上げる方向に向かう。これが「AI先進企業」と「AI支出企業」を分ける分岐点だとされている。
AIを入れる前に、私が組み直したこと
私がコンサル時代にある製造メーカーのDX導入プロジェクトに入ったとき、最初にやったのはツールの選定ではなかった。業務プロセスの棚卸しだった。何がコア業務で、何がノンコア業務かを一覧にする。それをやらずにAIを導入しても、ノンコア業務を速くこなせる人間が量産されるだけだと、現場を見て確信した。
ベルシステム24HDの調査でも、AI活用の課題として「データ整備」が37.7%、「業務プロセスが標準化されていない」が30.2%と上位に入っている。私はこれを見たとき「やっぱりそうだ」と思った。ツールの前に設計がある。これはコンサル時代に骨の髄まで叩き込まれた順番だ。
もう一つ、私が判断したのは「AIを使える人に仕事を集中させない」というルール作りだった。Gartnerの調査では生成AIプロジェクトの50%がPoC段階で頓挫している。原因はツールではなく「誰が何のためにやるか」が決まっていないことだ。AIをキャリアアップのツールとして個人が使い始めると、その人にタスクが雪崩れ込む。AIの恩恵を組織に分散させる設計がなければ、使える人だけが疲弊する。
そして私が今でも引っかかっているのは、「承認・決裁はAIに任せるべきでない」という声が7割を超えているという事実だ。エイトレッドが2026年5月に実施した調査でこの数字が出た。AIは業務を速くするが、責任の所在をなくす。責任が曖昧になると、確認のための会議が増え、報告のための資料が増える。これが皮肉にも、残業をもう一段押し上げるメカニズムになっている。
AIの導入が効率化でなく「仕事の増殖装置」になるかどうかは、ツールではなく組織設計で決まる。
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