円安160円・日経7万円で起きるインフレ優勝劣敗

2026年6月末、ドル円は162円台に突入した。39年半ぶりの円安水準だ。同時に日経平均は7万円の大台に乗った。この「円安と株高の同居」は、表面上は景気好調に見えて、その裏で日本経済の内部に深刻な断層を刻んでいる。

> 円安と株高が同居する日本では、インフレの恩恵を受ける者と搾取される者が完全に分断されている。

この記事のポイント

・株高の恩恵は輸出企業・資産保有層に集中している

・政府は円安を止める気がなく、管理しているだけだ

・実質賃金が下がる層ほどインフレの直撃を受ける

何が起きたか

2026年6月末時点で、ドル円相場は162円台後半まで下落した。日経平均は月間で

3732円(5.62%)上昇

し、初めて7万円の大台に到達した。政府・日銀は4〜5月に過去最大規模の

11.7兆円

の円買い介入を実施したが、効果は数週間で消えた。円安は39年半ぶりの水準に達し、食費・光熱費など日常生活費は数年で15〜20%の負担増となっている。AI・半導体関連株の成長期待と円安による輸出企業の収益拡大が株高を支えている構図だ。

なぜ円安が止まらないのに株価だけ上がるのか

日本の上場企業は売上の約6割を海外に依存している。円安になると、海外で稼いだドルを円に換算したときの金額が膨らむ。企業決算が良く見え、株価が上がる。このメカニズムは非常にシンプルで、輸出企業や多国籍企業を中心に恩恵が集中する業種構造になっている。

一方、政府・日銀が本気で円安を止めるつもりがなかった可能性が高い。日本の対外純資産は2025年末時点で約

562兆円

と世界最大規模だ。円安になるほど、外貨建て資産の円換算評価額が跳ね上がる。名目GDPも押し上げられ、政権は「経済成長を実現した」とアピールできる。さらに円安によるインフレは政府の実質的な債務負担を軽くする。政府にとって「少し円安、長く円安」が都合が良い構造になっていると考えられる。

実際に打撃を受けているのは、この恩恵の外側にいる人々だ。実質賃金は2025年まで4年連続で下落し、2014年からの11年間でプラスになったのは3回だけだった。食パンやお米の価格は数年で数十%以上上昇している。

海外旅行費用はコロナ前比で40%以上増加

したという調査もある。賃上げの恩恵が届きにくい非正規雇用者や年金生活者は、輸入コスト上昇の直撃を受け続けている。

法律・規制の観点から見ると、日銀の金融政策正常化は明確に後手を踏んでいる。高市政権が骨太の方針に日銀への利上げ牽制を盛り込む可能性があるとの報道以来、長期・超長期金利の上昇が進んだ。市場は「金融政策が後手に回っている」という「ビハインド・ザ・カーブ」相場の初期にあると判断しており、利上げの遅れが円安を構造的に長引かせているメカニズムが機能している。日銀は6月の会合で政策金利を

1.0%

に引き上げたが、株高の勢いは止まらなかった。

業界全体のトレンドで見ると、「悪いJカーブ効果」という現象が起きている。円安が進んでも輸出数量は顕著に増えていない。純輸出が改善しているのは輸出拡大ではなく、実質賃金低迷による内需の弱さで輸入数量が抑制されているためだ。つまり、貿易収支の改善が「国が儲かっているから」ではなく「国民が買えなくなっているから」という構図になっている。日本経済全体としての競争力回復ではなく、購買力の喪失が統計を歪めているわけだ。

この断層、自分のポジションはどこにあるか

私がコンサル時代に痛感したのは、「同じマクロ指標の中でも、クライアント企業によって体感がまるで違う」という事実だった。円安が進んだある局面で、製造業クライアントの業績改善シナリオを作りながら、同時に小売の内需系クライアントのコスト削減プランを書いていた。同じ日本経済の話なのに、別々の惑星の話をしているような感覚があった。

この経験から、私は「インフレ報道を見るとき、まず自分がどの業種・どの資産構造にいるかを確認する」という習慣をつけた。円安で株高と言われても、資産を日本円の預金だけで持っている人と、外貨建て資産や株式を持っている人では、同じニュースが全く別の意味を持つ。日本経済というひとつの括りで語られることで、構造的な格差が見えにくくなると考えられる。

もうひとつ気づいたのは、政府の「介入」の読み方だ。11.7兆円を使って円安を止めようとしたのに、数週間で元に戻った。これを「失敗」と読むか「作戦通り」と読むかで、今後の行動判断がまるで変わる。私は後者の解釈に重きを置いている。急激な変動を抑えつつ「管理された円安」を維持するのが当局の本音だとすれば、円高への転換を期待した戦略は機能しない。

そして、老後資金の話に引きつけると、これが一番怖かった。食費と光熱費だけで15〜20%の負担増。年金はマクロ経済スライドで物価上昇率を下回る水準にしか上がらない。業種や雇用形態による「インフレの優勝劣敗」は、現役世代の話だけではなく、資産を取り崩して生きる層にそのまま直撃するオンライン上でもリアルでも見えにくい問題だ。


円安と株高が同時に起きるとき、その恩恵と痛みは決して均等には配分されない。

📌 最新ニュースを「なぜ起きたか・仕事にどう使えるか」で。元コンサルが毎日更新。フォローすると教養が積み上がります。

#円安 #インフレ #日本経済 #日経平均 #為替 #業種格差 #実質賃金 #メカニズム

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー