創作物語『最後の夜』
「お前、まだ残ってたのかよ」
ハッとして顔を上げると、もう周りは暗くなっていた。
そう言えばお腹が空いてる。
「あ……ワッキーさん」
「その名前で呼ぶなよ。お前だってそう呼ばれたら嫌だろ」
ワッキーさんの言葉に、僕は返事ができなかった。
風がさわっと吹いて、蒸し暑い空気が体にまとわりついた。
「はぁ」
ため息が重なった。
しばらくして、ワッキーさんのつぶやきが聞こえた。
「この前の……。あっけなかったな」
「そうですね……」
一昨日の朝。
ボスが来た瞬間、ザワザワしていたみんなが一瞬にして黙った。
「エースは立派だな。このまま頑張れよ」
いつものようにエースに声を掛けた。
その後、ひとりひとりの顔を見て、
「お前と……お前な」
そう言って──
僕たちの仲間を、切った。
次は自分かもしれない。
そんな周りの空気が伝わって、ボスが去るまでピクリとも動けなかった。
前から感じていた。
チラっとこちらを見る目が、いつも上から目線だった。
体の芯が、すっと冷たくなった。
思い出すと、つい身が縮こまってしまう。
でも、僕の力はこんなもんじゃない。これからだ。
もっと手を伸ばせば、いつかエースに届く。
そう思っていたけど……
雲の切れ間から、月の光がそっと差し込んだ。
「ワシらもたぶん、明日には……」
「そんなこと言わないでくださいよ!」
ワッキーさんの弱気な言葉に、ついイラッとしてしまった。
「僕たち、がんばってきたじゃないですか! もっと自信持ちましょうよ!」
「そうは言ってもな……」
分かってる。自分の言葉が空回りしていることくらい。
ぬるい風が気持ち悪い。
「お前も、この環境でよく頑張ったな」
ワッキーさんの声が、静かに響いた。
確かに、エースの近くは居心地が悪かった。
「エースだけ、光が当たってるように見えるよな」
「あいつには敵わないよ」
そんな仲間たちの声が聞こえていたけど、エースはなにも言わないやつだった。
ただ自分を高めていくだけ。
そんなエースに憧れる気持ちもあったけど、僕にだって伸びしろがあると思っていた。
やっと芽が出て、これからだってところだったのに。
「まだ分かりませんよ。エースが病気で倒れる可能性だって」
「そうならないように、ボスが動いてる」
知ってる。
そのおかげで、僕たちがおこぼれをもらってることも。
「お前はもっと、伸びると思ったんだけどなぁ」
今朝、ボスに言われた言葉を思い出して、全身がザワッとした。
「ワシらが決めることじゃないからな」
そう言う、ワッキーさんに対して、
「……そうですよね」
もう、それしか言えなかった。
僕たちに決める権利なんてない。
「ワシらにできることは、エースのために身を投げ出すことだけだ」
「そんな捨て駒みたいに……」
「ボスからしたら、ワシらは捨て駒だ」
そうかも知れない。
でも……
「今はもう、あいつだけが頼りだ」
ワッキーさんの言葉に、なにも言えなくなった。
こんなはずじゃなかったのになぁ。
「ワシらは、いるだけで……。分かるだろ?」
「……はい」
「潔く、切られよう」
最後の夜。
ワッキーさんと同じ空を見上げた。
翌朝──
僕たちはボスに切られた。
無言で。
僕の名前は「トマトのわき芽」。
あとはエースに任せた。
ベランダで育てていたミニトマトを見ていたとき。
花や実は楽しみだから、じっくり見る。
葉っぱも、水がいるのかどうかチラッと見る。
でもわき芽って……
プチッて切って終わりだな。
そこから生まれた物語です。


