創作物語『古米レディ』
「きゃー。ごめんなさーい! 遅刻しましたぁ」
私は扉を開けて、慌てたふりをしながら部屋に駆け込んだ。
相変わらずだだっ広くて薄暗い。それに、少し寒い。
カーディガン持ってくればよかった。
ちょっとだけ温度上げてもらおうかな。
私が言えばみんな言うこと聞いてくれるし。
遅刻したってみんな笑って許してくれる。
そういう点では居心地がいい。
自分の席まで歩いて行き、カバンを置こうとしたとき。
「今日からあなたは隣の席よ!」
とげとげした声が聞こえて、一瞬ビクッと飛び上がった。
出た。
なにかと私にイチャモンつけてくる、ちょっとカサカサしたおばさん。
ほんと、苦手。
みんなから「古米おばさん」って呼ばれてること、知らないの?
「気にするな。ひがんでるんだ」
いつもは、安部代表がフォローしてくれるんだけど……
あれ? 今日は言ってくれない。
そう言えば、
毎朝私が来ると、チヤホヤしてくれるオジサンたちもいない。
どうしたんだろう。
部屋を見渡すと、安部代表の机の近くにオジサンたちが集まってた。
「何かあったんですか?」
声をかけながら近づくと、安部代表がこちらを向いた。
「あ、紹介するね。こちら、今日入社の”新米”さん」
「え?」
そこには、真っ白な制服がよく似合う、みずみずしい肌のかわいらしい娘がいた。
「あの、”新米”は、私……」
「あ、君は今日から”古米”ね」
影で”JA”と呼ばれる安部次郎代表の一声は、絶対だった。
「え……」
”古米”は、あのカサカサしたおばさんじゃ……。
新しい娘と古米おばさんの顔を交互に見ていたら、
「あと、これに着替えて」
安部代表の声に振り向くと、ビニールに入った新しい制服を渡された。
少し黄色かった。
戸惑う私に、安部代表が、
「席、横にズレてね」
そう言って、新米さんをチヤホヤし出した。
意味が分からない。
昨日まで私が新米だったのに……。
ぼーっとしたまま自分の席に戻ると、
「あんたの席はこっち!」
古米おばさんが、机をバンバン叩きながら言った。
「あの、古米さん……」
「私は今日から”古古米”よ!」
今日から古古米さんが、苦々しげに言った。
それから、
「今に見てなさい。あなたもいずれ、ああなるわ」
今日から古古米さんの視線の先には、適温を度外視された場所に席を移された、
昨日までの古古米さん。
机の上のプレートには「古古古米」って書いてあった。
今日から私は、古米レディ。
この物語は、母が書いたエッセイを元に作りました。
新米が古米になり、そのあと古古米になる。
母の文章はこれで終わりではなく、
娘だった人が嫁になり、姑になる。
と書いてありました。
「なにこの”姑”って文字。古いってわざわざ書かなくてもねぇ」
母が不満げだったので、少しでも笑える物語をと思って作りました。
今後も、短い物語ができたら、不定期に載せていこうと思います。

