吾輩は無能である

世の中には「仕事ができる人」と「仕事ができない人」がいる。問題はそこではなく、自分がどっち側にいるのかを本人が理解しているかどうかである。


俺は「無害な無能」で生きている

俺は自分が仕事できないことを”かなり正確”に理解している。だから会議でも、分からない話になったら「不勉強ですいません。後学のために教えていただきたいのですが」と最初から腹を見せる。知らないのに知っている顔をして議論を横転させるくらいなら、バカの札を首からぶら下げて座っていた方がまだマシだ。


君は、会議の終盤で「このあと少し残ってMTGしますか。あ、佐藤さんは退席いただいて構いません」と言われた事があるだろうか。

俺はある。

「分かりました」と言い残し、そっとTeamsの退席ボタンを押した。

無能は、これくらいの”潔さ”が必要である。

普通なら「念のため残りましょうか」とか言うところだが、必要ないと言われた人間が残って何をするのか。秒速で消え、さっきまで確かにそこにいたのに誰の意思決定にも影響を与えない。質量を持った残像である。


一番危険なのは、偉い席に座った無能

SIerで本当に怖いのは、無能そのものではない。無能が「①客」か「②営業」の席に座った時である。

「①客」には、技術的なスキルがあるわけでもないのに、その部署に長くいるという理由だけでポジションが自動アップデートされ、気づけば意思決定者になっている人がいる。

本人は自分が分かっていないことを分かっていないので、曖昧な指示を出し、後から「そういう意味じゃない」と言う。こちらからすると客は実質上司みたいなものなので、真正面から「何言ってるか分かりません」とも言いづらい。地雷が意思決定権を持って歩いている。

まあ、とはいえ「最上位」まで上り詰める客は有能が多いが。中途半端な「年配リーダー」とかが一番キツい。


「②営業」も怖い。客の無茶振りを一滴も濾過せず現場まで運んできて、「お客様が希望されているので」と置いていく奴がいる。現場が「それ無理です」と言っても「でもお客様はやりたいと言ってます」で動かない。

しかも営業の中には、エンジニアを自分の手駒くらいに思っている奴までいるので面倒くさい。客から受け取った爆弾を「よろしく!」の一言で技術側に投げ込み、自分は次の商談に行く。爆発するのはこっちである。


一方、SIerのエンジニアやPM側の上司は、なんだかんだ選抜されて上がってきた人が多いので、比較的まともな人が多い。特に大手。だからこそ、客と営業に自己評価だけ高い無能が混ざるとキツい。


無能は、頑張ってもサボっても迷惑をかける

などと偉そうに他人の無能を語っているが、俺も人に指示を出したり、プロジェクトを前に進めたりしないといけない立場になることがある。そして大体うまくいかない。

やる気を出して細かく指示を出せば、指示そのものが意味不明で周囲を混乱させる。失敗が怖くなって何も決めなければ、「この人、何も決めないじゃん」と不満が溜まる。熱心にやれば指示が事故る。黙っていれば意思決定が死ぬ。どちらを選んでもプロジェクト側が被弾する。


無能とは能力ではなくデバフスキルなのだと思う。一度装備したら、そのポジションに関わる人間へ継続ダメージが入る。

だから「自分が無能だと自覚すれば周りに迷惑をかけません」なんて綺麗な話ではない。かける。普通にかける。30点の人間が自分を30点だと理解したところで、急に80点にはならない。採用してしまった会社と、同じプロジェクトに入ってしまった人たちには申し訳ないが、これはもうカルマである。

ただ、自分が無能だと分かっていないと、自分自身まで地獄になる。自己評価90点なのに毎回仕事がうまくいかなければ、「部下が悪い」「客が悪い」「会社が悪い」と、現実と自己評価の差分を一生誰かのせいにして生きることになる。


自分が30点だと分かっていれば違う。何をしても結果が出ない。もしろこの境地を楽しめる。

無能なSIerとして長く生きるなら、このくらいの境地まで来た方がいい。自分を採用し、いまだに毎月給料まで振り込んでくれる会社という奇跡に感謝しながら、今日もできる範囲で仕事をして、できなかった範囲については怒られる。これを繰り返す。

俺は20年近く会社員をやって、能力は大して伸びなかった。ただ、自分の値札だけは正しく貼れるようになった。

30点。現品限り。
返品不可である。

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