望月麗子シリーズ VS ホスト160
地下鉄の古いトンネルに、麗子の嗚咽だけが響いていた。
「私が……世界を……」
震える指。
涙。
麗子は自分の身体を抱き締めるように座り込む。
その背中を、蒼真は黙って見ていた。
誰も言葉を出せない。
未来視――。
白蛇プロトコルが進行すると、麗子はネットワークだけじゃなく、“可能性”まで読み取るようになる。
翔が低く呟く。
「未来は固定じゃない……でも、あれはかなり高確率の未来だ」
蓮が壁を殴った。
「ふざけんなよ……なんで麗子ばっかり!!」
その瞬間だった。
地下鉄の照明が一斉に赤へ変わる。
ビーッ!!ビーッ!!
警報音。
翔が顔色を変える。
「追跡された!!」
次の瞬間――
ズガァァァン!!
地下鉄入口が吹き飛んだ。
煙の中から現れる黒い強化兵たち。
目が青白く発光している。
オルフェウスの戦闘部隊《ハウンド》。
人間にAI戦術補助を埋め込んだ兵士だった。
「対象確認。望月麗子を回収する」
無機質な声。
蒼真が前へ出る。
「麗子、下がってろ」
「でも……!」
「いいから」
蒼真はコートを脱ぎ捨てる。
腰のナイフ。
拳銃。
そして、無数の傷跡。
昔、裏社会で“死神”と呼ばれた男の顔になっていた。
ハウンド部隊が一斉に突撃する。
その瞬間。
蒼真が消えた。
「!?」
次の瞬間には敵の背後。
閃くナイフ。
ガギン!!
一人の首元の機械を破壊。
兵士が崩れ落ちる。
だが敵も異常だった。
痛みを感じない。
感情もない。
ただ命令だけで動く。
蓮も鉄パイプで飛び込む。
「人形みたいな顔しやがって!!」
ゴッ!!
敵を壁に叩きつける。
翔は後方でハッキング端末を開く。
「30秒だけ止める!!」
すると地下鉄の古い電力網が暴走。
火花が散る。
敵の視界が乱れる。
だが――
奥から、重い足音。
ドン。
ドン。
ドン。
現れた巨大な男を見て、ジュンの顔色が変わった。
「……まさか」
身長2メートル以上。
全身義体。
片目が赤く光る。
男は静かに言う。
「コードネーム《餓狼》」
蒼真が目を細める。
昔、一度だけ聞いた名だった。
戦争地域で百人以上を殺した、オルフェウス最強クラスの処刑兵。
餓狼は麗子を見る。
その目だけが、妙に悲しそうだった。
「……やっと見つけた」
麗子が震える。
すると餓狼は意外な言葉を口にした。
「逃げろ」
全員が固まる。
餓狼は苦しそうに頭を押さえた。
「早くしろ……俺の制御が戻る前に……!」
その瞬間。
餓狼の首筋に埋め込まれた装置が赤く点滅。
『命令違反を確認』
機械音声。
餓狼が苦悶する。
「ぐっ……!!」
そして次の瞬間。
暴走。
轟音と共に壁を破壊し、餓狼が蒼真へ突っ込む。
ドゴォォン!!
蒼真ごと列車へ叩きつける。
「蒼真!!」
麗子の叫び。
だがその瞬間――
麗子の中で何かが切れた。
ドクン。
空気が止まる。
周囲の電子機器が浮き上がる。
敵兵たちの装備が勝手に分解され始める。
ジュンが叫ぶ。
「まずい!! 完全覚醒に入る!!」
麗子の髪が白銀へ変わる。
瞳が黄金と深紅に輝く。
そして。
背後に巨大な“白蛇”の幻影が現れた。
まるで神話。
圧倒的な威圧。
敵兵たちが恐怖で後退する。
麗子は涙を流しながら、ゆっくり呟く。
「……もう……誰も傷つけたくないのに……」
すると世界中の通信衛星が一瞬停止した。
東京。
ニューヨーク。
ロンドン。
軍事衛星。
金融市場。
全部のモニターに、同じ映像が映る。
白い瞳の麗子。
そして全世界へ向けて、彼女の声が流れた。
『聞こえますか』
人類は初めて、“世界そのもの”が喋る瞬間を見た。
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