人生詩 『月の余白』
静寂が部屋を満たすころ、
時計の針の音だけが、夜を刻む。
街が深く眠るなか、
記憶の隅が淡く灯る。
昼間の鎧を脱ぎ捨てて、
むき出しになった心には、
小さな迷いや愛しさが、
星の光のように集まってくる。
窓を少し開けると、
秋の夜風が静かに入り込む。

どこか懐かしい金木犀の香り。
遠くで鳴く虫の声。
澄んだ空に浮かぶ月は、
少し欠けたまま、
それでも静かに光っていた。
雲の切れ間から、
月がそっと微笑んでいた。
冷めかけた一杯の向こうで、
忘れていた遠い日の声が、
かすかに揺れていた。
ふと思う。
あの娘は、どうしているだろう。
あの頃の笑顔だけが、
月明かりに滲んでいた。
誰にも言えない寂しさも、
明日を夢見るかすかな希望も、
夜の静けさのなかで、
ゆっくりと溶けてゆく。
秋の虫の声が、
ひとつ静かに止んだ。
明ける前の暗闇で、
新しい呼吸をひとつ、
深く。
欠けた月は、
静かに夜空を渡っていた。
月の余白。
そこには、
まだ名前のない光がある。
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