旧友と麻婆豆腐
人生でいちばん多く作った料理は、たぶん麻婆豆腐です。なぜそんなことになったのかと思い返すと、大学2年生のころの妙な引っかかりに行き当たりました。
友人とラーメン屋へ行ったとある日、彼が頼んだのはラーメンではなく、麻婆豆腐定食だったのです。チャーハンならまだわかりますが、定食を頼むやつとかいるんだ。そう思いました。
この引っかかりがどういうわけか十年単位で熟成されて、家で麻婆豆腐ばかり作る人間を生んでしまうのですね。その場で「それ、ラーメンよりウマいんか?」と一言訊いていれば、ここまでの熱にはならなかったのかもしれません。
作り慣れてくると、麻婆豆腐にはかなり幅があるのがわかります。ひき肉を使うか、大正義豚コマをみじん切りにするか。甜面醬と豆鼓醬はどこのメーカーを使うか。ウェイパーの有無と、初めに油に溶かす薬味は生姜かニンニクかなどなど。辛さ以外にも、調整項目はいくらでもあります。
そんなこんなで、自分で作るのが一番ウマいなとか思っちゃっており、お店で頼む麻婆豆腐にも人一倍うるさい方だと自認しています。おれは絹ごししか認めんよとか言い始めたら面倒ですが、思うだけなら勝手だろ、くらいは思っています。
よって、店で頼んで出てきたそれが、ダシの薄いケチャップ系にちょろっと豆板醤を利かせたようなチャラい麻婆豆腐だと、もうここには来ないからな、となるわけです。
逆にいわゆる本格派の店じゃなくてウマい麻婆豆腐を食べさせてくれたのは、意外にもびっくりドンキーの麻婆バーグでした。今はもうメニューから消えて久しく、寂しい限りですね。
麻婆豆腐定食の彼とは何年か会っていませんが、お互いに対して妙な里心を感じているので、そのうち会うこともあるでしょう。
そのときに、この一件があっておれは麻婆豆腐ばかり作ってきた、なんて言おうかとも思いましたが止めておきます。
私もあの日のラーメンの味なんて憶えていませんし。
中華料理は全般的に好きです。
