「うにゃにゃにゃっ」を、書き留める。
玄関のドアを開けると、しっぽんが待っていた。
「うにゃにゃにゃっ」
うちでは、この鳴き方を「もんく」と呼んでいる。
帰ってくるのが少し遅かった日も、
ごはんがまだの日も、
パソコンばかり見ている日も、
この声で何かを伝えてくる。
もんくなのに、どこか安心する声だ。
絵本『しっぽんは、宮古島にいる。』を作り終えたとき、正直、ひと区切りついた気がしていた。表紙ができて、校正が届いて、本になって、読者の手に渡っていく。そこまでが、しっぽんの物語だと思っていた。
でも、絵本に描けたのは、しっぽんのある一日だけだった。
考えてみれば当たり前のことなのだけれど、しっぽんは今日も宮古島で普通に暮らしている。
もんくを言いながら帰ってくるし、
好きな場所で丸くなるし、
苦手なものからは全力で逃げる。
おやつの袋を見せると、

鼻を近づけたらYES。
後ずさりしたらNO。
そんな判定が、うちには昔からある。
そういう当たり前が、絵本のページには収まりきらなかった。
それに気づいてから、なんとなく、日々のしっぽんのことをぽつぽつと書き留めるようになった。鳴き方のこと、好き嫌いのこと、寝る場所のこと、小さな癖のこと。
まとめて何かにしようというより、忘れてしまう前に残しておきたい、という気持ちの方が近い。
正直、これが何になるのかは、まだ自分でもわからない。
絵本の続きを書きたい、というのとも少し違う。
ただ、猫と暮らしていると、こういう瞬間は驚くほど早く過ぎていく。今日の「もんく」も、来月には形を変えているかもしれない。9歳のしっぽんが、今日どんな顔でもんくを言っていたか。それを覚えているのは、多分、書いておいた自分だけになる。
絵本は一冊で終わったけれど、暮らしは終わらない。だから今は、暮らしを書き留めることを始めてみている。
派手なことは何もない。
ただの、いつもの日々を。
その積み重ねが、いつか何かになるかどうかはわからない。
でも今日のしっぽんは、今日しか書けない。
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