「クソジジイ」は、絶望の時代を生き抜く最強の称号だ
〜性格は最低、哲学は最高。ショーペンハウエルが教える「他人に期待しない幸福論」〜
「前向きに生きよう」
「仲間を大切にしよう」
「夢を持てば人生は変わる」
もう、聞き飽きた。
夢を語っても給料は増えない。
人脈を広げても裏切られる。
SNSでつながっても、孤独は消えない。
そんなロクでもない現代に、適菜収氏が連れてきたのが、19世紀ドイツ哲学界の“最低最悪のクソジジイ”ショーペンハウエルである。
自己愛の怪物。
母親とは絶縁。
ヘーゲルをペテン師扱い。
人間より犬を信用し、騒音を「思考の殺人」とまで言い切る。
人格者とは程遠い。
だが、だからこそ、この男の哲学は強い。
STEP1 人間に期待するから傷つく
ショーペンハウエルは、人間を理性的な存在とは見なさなかった。
人間を動かしているのは、理性ではなく、欲望、嫉妬、虚栄心、性欲、自己保存本能だと考えた。
現代の心理学や行動経済学でも、人は必ずしも合理的に判断しないことが繰り返し示されている。
つまり、他人に「誠実さ」や「常識」を期待しすぎる方が危ない。
人間に期待しない。
これは冷酷ではない。
自分の心を守るための現実認識である。
STEP2 孤独は敗北ではなく避難所だ
現代人は、つながることを強制されている。
LINE、SNS、職場、地域、家族。
だが、つながりが増えるほど、比較、嫉妬、承認欲求も増える。
米国の公衆衛生当局も、孤独を健康リスクとして警告している。だが問題は「一人でいること」ではない。
孤独を選べないことだ。
ショーペンハウエルの孤独は、逃げではない。
くだらない人間関係から思考を守る、知的な防空壕だった。
STEP3 悲観主義は、心の防災訓練
世の中は「ポジティブ思考」を売りつける。
しかし、根拠のない楽観は、失敗した瞬間に人を折る。
心理学には「防衛的悲観主義」という考え方がある。最悪を想定し、準備することで、むしろ成果を上げる人がいる。
人生はうまくいかない。
人は裏切る。
努力は報われないこともある。
最初からそう理解していれば、少し失敗したくらいで人生全部を否定せずに済む。
悲観とは、絶望ではない。
現実への耐震補強だ。
STEP4 欲望を増やすほど、不幸になる
ショーペンハウエルは「富は海水のようなもの」と語った。
飲めば飲むほど、喉が渇く。
年収が上がれば、もっと上を欲しがる。
広い家に住めば、さらに広い家が欲しくなる。
フォロワーが増えれば、次は10万人を目指す。
人は幸福にも慣れる。
これを心理学では「快楽順応」と呼ぶ。
だから幸福は、欲望を満たすことではない。
欲望に支配されないことだ。
STEP5 自分勝手に生きるとは、他人を害することではない
この本の「自分勝手に生きよう」は、好き放題に他人を傷つけろという意味ではない。
他人の評価を人生の中心に置くな、ということだ。
嫌われてもいい。
流行から遅れてもいい。
役に立たないことをしてもいい。
一人でいてもいい。
世界に合わせて自分を壊すくらいなら、自分の生活を固定し、距離を取り、静かに生きればいい。
おわりに
ショーペンハウエルは、立派な人間ではなかった。
むしろ、相当めんどくさいジジイだった。
だが、聖人ではなかったからこそ、人間の弱さ、醜さ、欲望を徹底的に見抜けた。
この本は、前向きになるための本ではない。
無理に前を向かなくても、生きていけると教える本だ。
全体総括
希望を持て。
人を信じろ。
社会に貢献しろ。
そんな正論に疲れた人ほど読んでほしい。
他人に期待しない。
欲望を減らす。
孤独を恐れない。
最悪を想定する。
自分の機嫌は自分で取る。
クソジジイとは、悪口ではない。
世間に媚びず、自分の人生を最後まで自分で引き受けた者への、最高のホメ言葉なのだ。
