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ビカクシダの「原種」を知ろう。図鑑を読む前に押さえておきたい18種+人気ネームド株10選

このシリーズについて
アガベ図鑑に続いて、今回からビカクシダ図鑑シリーズもスタートします。アガベのときと同じ考え方なのですが、いきなり「このネームドはこういう株です」と紹介を始める前に、まずベースとなる原種を知っておかないと、ネームド株の解説を読んでも「へー、そうなんだ」で終わってしまうと思っていて。なので第1回は原種18種の紹介と、そこから生まれた人気ネームド株10選をまとめてお届けします。

※本記事はビカクシダ生産者・専門店の解説記事やコレクター界隈の情報をもとに構成しています。原種の分類・自生地についてはWikipedia(英語版)や複数の専門サイトで裏取りしていますが、ネームド株の由来や相場については情報源によってかなりバラつきがありました。特にネームドについては、調べる過程で「そもそも実在が確認できない」「複数の系統が同じ名前で流通している」というケースにいくつも遭遇したので、確認が取れなかったものは掲載を見送っています。断定できない部分は「〜という情報がある」「〜のようです」というトーンで書いていますので、その前提でお読みください。


この記事への想い

塊根植物(コーデックス)やアガベを育て始めてから、板に着生させてダイナミックに葉を広げるビカクシダにもすっかり惹かれてしまいました。理由の一つは、他の塊根植物と違って「上に伸びる」んじゃなく「板から外側へ広がっていく」独特のフォルムです。壁面や吊るし仕立てで見せられるインテリア性の高さも、他のジャンルにはない魅力だと思っています。

ただ調べていく中で、アガベのネームド文化と同じように、ビカクシダにも「原種」と「ネームド(園芸品種・選抜個体・交配種)」という2つの階層があることが分かりました。ビカクシダの場合、原種同士の選抜個体(レモイネイなど)だけでなく、ウィリンキー×ヒリーのように複数の原種を掛け合わせた交配種にもネームドがついているケースが多く、ここはアガベのネームド文化(基本的に単一種内での選抜)とはやや事情が違う部分だと思います。しかも今回リサーチしてみて実感したのですが、ビカクシダのネームドはアガベ以上に情報が錯綜している印象を受けました。同じ名前なのに複数の系統が流通していたり、そもそも実在が確認できない品種名がネット上を漂っていたり。だからこそ、まず土台になる原種をしっかり押さえておくことが大事だと思い、シリーズの第一回はここから始めることにしました。


ビカクシダとは何か

ビカクシダ(麋角羊歯/和名で「コウモリラン」とも呼ばれます)は、ウラボシ科プラティケリウム属(Platycerium)に分類されるシダ植物の総称です。学名のPlatyceriumはギリシャ語の「platys(平たい)」と「keras(角)」を組み合わせた語に由来するとされ、鹿の角のように広がる胞子葉の形状を表した名前です。

ビカクシダ最大の特徴は、性質の異なる2種類の葉を持つことです。

貯水葉(ちょすいよう)
株元を覆うように広がる葉で、根を保護しながら水分・養分・落ち葉などを溜め込む役割を持ちます。品種によって、ビフルカツム系のように株元を滑らかに覆うタイプ、リドレイのように丸く整った形になるタイプ、グランデやスパーバムのように王冠状に立ち上がるタイプ、マダガスカリエンセのように格子状の網目模様が出るタイプなど、見た目にかなりバリエーションがあります。

胞子葉(ほうしよう)
外側に向かって伸びる、いわゆる「鹿の角」に見える部分です。裏側に胞子をつけて増殖するための葉で、種によって垂れ下がる、立ち上がる、細かく分岐するなど形状が大きく異なります。

原種はすべて熱帯〜亜熱帯地域の樹木や岩に着生して育つ着生植物で、地面に根を張らずに生きています。この生態を踏まえると、北海道のような寒冷地で育てる場合は特に冬場の保温管理がポイントになります(この点は今後の育成記事で詳しく扱う予定です)。


成長点について、板付けの前に知っておきたいこと

原種・ネームドを問わず、ビカクシダを育てる上で絶対に押さえておきたいのが「成長点」です。板付けするときにどちらを「上」にするかは、この成長点の位置で決まるので、ここを理解していないと板付けの向きから間違えてしまいます。

成長点とは何か
株の中心(貯水葉と胞子葉が生えてくる根元)にある、リゾーム(茎)の先端部分のことです。ここは新しい貯水葉・胞子葉を作り出す細胞分裂が絶えず行われている場所で、いわば株の「司令塔」にあたります。他の部位と違って再生がきかない組織なので、株全体の成長はこの一点に懸かっていると言っても大げさではありません。

見分け方
成長点は株の中心にあるわずかな窪み・隙間として観察できます。目安は以下の3点です。

  • 新しい葉がまだ展開しきっていない、うっすらとした隙間がある方向

  • 成長点周辺の産毛(星状毛)が、その隙間に向かって集まるように生えている方向。成長点そのものも産毛でもふもふと覆われているのが特徴で、見た目にも柔らかい毛玉のような質感で分かります

  • 左右の貯水葉が均等に展開している向き(成長点を顔、左右の貯水葉を耳に見立てるとわかりやすいです)

なぜ重要か
成長点には常に上へ上へと伸びていこうとする性質があります。板付けする際は、この性質に合わせて成長点が板に対して真上(12時の方向)にくるように配置するのが基本です。上下を間違えたまま固定してしまうと、株は本来伸ばしたい上方向へ軌道修正しようと余計なエネルギーを使うことになり、成長が著しく遅れてしまったり、奇形化してしまうリスクがあります。もし後から上下の間違いに気づいた場合も、水苔ごと株を回転させて向きを矯正すれば対応できるとされています。

やってはいけないこと

  • 成長点を水苔や用土で埋めてしまうこと。光や風が届かなくなり、湿気がこもって蒸れ、黒く変色して腐敗・枯死につながるリスクがあります。

  • 板付け時の釣り糸やワイヤーで成長点そのものを押さえつけたり、締め付けたりすること。固定は必ず成長点を避けて、その外側で行う必要があります。

  • 成長点を指や道具で直接触ったり、傷つけたりすること。ここは再生がきかない組織なので、物理的なダメージがそのまま枯死リスクに直結します。傷口から雑菌が入り込んで腐敗を引き起こすケースもあるようです。

  • 成長点周辺に水が常に溜まった状態を放置すること。過湿は黒変・腐敗の典型的な原因とされています。

この記事で紹介する個別のネームド株についても、板付け直後の写真とあわせて成長点の位置を今後の記事で解説していく予定です。板付けの具体的な手順(水苔の巻き方、板への固定方法など)についても、必要があれば別記事にまとめようと思っています。ただ正直なところ、板付けは手の動かし方込みで覚える工程なので、テキストより動画(YouTubeなど)で実際の手順を見たほうが分かりやすいと思います。


ビカクシダは「環境に正直」な植物だと思う

もう一つ、原種紹介に入る前にどうしても書いておきたいことがあります。

ビカクシダを育てていて感じているのは、この植物は「環境に対してものすごく正直」だということです。光・水・風が必要なのはどんな植物でも同じですが、ビカクシダの場合はそれに加えて湿度・温度の管理まできちんと整えてあげないと、突然体調を崩したり、そのまま枯れてしまったりすることが少なくありません。

ここは品種によって差があります。ネザーランドのようなビフルカツム系は比較的丈夫で、多少管理が雑でもしっかり育ってくれる印象がある一方、リドレイやマダガスカリエンセのような原種は非常にシビアです。マダガスカリエンセは高湿度(目安として湿度80%前後)をキープできる環境が必要とされており、乾燥や高温が続くとすぐに調子を崩す傾向があるようです。リドレイも見た目に反して繊細で、明るさ・風通し・湿度・温度のバランスが崩れると調子を崩しやすいとされています。

正直に告白すると、自分もこれまでジェイドガール、マダガスカリエンセとリドレイ(いずれも現在育てている株の先代)を枯らしてしまった経験があります。特にマダガスカリエンセとリドレイは先代を枯らしたあと、環境をかなり見直してから再挑戦した経緯があり、そのときは本当にショックでした。

塊根植物やアガベも、もちろん環境作りは同じように意識してきたつもりです。ただ正直に言うと、多少管理が雑になってしまうタイミングも実はありました。それでも塊根やアガベを枯らしたことはほとんどなく、今思えばそこで「まあ多少雑でも大丈夫だろう」という慢心があったんだと思います。

ビカクシダを枯らしてしまった原因を自分なりに振り返ると、湿度と温度の管理ミスに行き着きました。冬場、暖房でストーブを焚いていた影響で、室内の湿度が20%くらいまで極端に下がってしまっていたこと。そしてもう一つ、簡易温室から株を室内に出すタイミングを誤って、部屋の気温が10〜15℃くらいまで下がった状態に置いてしまったことがありました。塊根やアガベの感覚のまま「これくらいなら大丈夫だろう」と油断していたんだと思います。

この経験があってから、今はビカクシダに関してはむしろ過保護なくらいの意識で管理しています。それでも正直、冬場は「今の湿度・温度で大丈夫かな」とヒヤヒヤしながら見ています。塊根やアガベと同じ感覚で油断すると本当に持っていかれる植物だと思うので、この記事を読んでいる方も、湿度・温度の管理だけは気を抜かないようにしてほしいです。

なので、この記事シリーズで個別の株を紹介していく際も、良い面だけでなく「この品種は環境にシビア」という注意点は正直に書いていくつもりです。環境を舐めると本当に詰みます。


原種は世界に18種

ビカクシダの原種は世界に18種類存在するとされています。分布は大きく4つの地域にまとまっており、地域ごとの傾向を知っておくと個々の種の特徴も頭に入りやすくなります。

オセアニア系(5種)

【ビフルカツム(P. bifurcatum)】
オーストラリア東海岸を中心に分布する、もっとも流通量の多い原種です。丈夫で環境適応力が高く、直射日光でも半日陰でも育つため、ビカクシダ入門種の代表格になっています。切れ込みの入った胞子葉が特徴で、後述するネームド株「ネザーランド」もこの種をもとにした園芸品種です。

【ヒリー(P. hillii)】
クイーンズランド〜パプアニューギニアに分布し、ビフルカツムとよく似ていますが、胞子葉があまり垂れずに直立ぎみに育つ点、葉の厚みや光沢感が異なる点で区別されます。寒さにもある程度強く、初心者向けとされています。

【ベイチー(P. veitchii)】
星状毛(産毛のような細かい毛)が密に生えることで銀白色に見えるのが最大の特徴です。乾燥地に自生するため他の原種より乾燥・直射日光への耐性が高く、胞子葉は硬めで上向きに育ちます。「レモイネイ」など複数のネームド株の元になっている人気種です。

【ウィリンキー(P. willinckii)】
ジャワ島・スラウェシ島に分布する大型種で、白い胞子葉が細長く垂れ下がるのが特徴です。星状毛が多く、光を受けると銀白色に輝くように見えます。矮性(ドワーフ)に変異した選抜個体が非常に多く作出されており、後述するネームド株10選のうち複数はこのウィリンキーがベースです。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。

【スパーバム(P. superbum)】
かつてはグランデ(P. grande)と混同されてきましたが、現在はオーストラリア原産の別種として整理されています。「森の王冠」とも称される、貯水葉が王冠状に大きく立ち上がる迫力ある大型種です。高温多湿を好み、栽培難易度はやや高めとされています。

東南アジア系(6種)

【コロナリウム(P. coronarium)】
インドネシア・マレーシア・タイなどに分布し、胞子葉が波打つようにカールするのが特徴です。乾湿のメリハリを意識した水やりが必要とされています。

【グランデ(P. grande)】
フィリピンに分布する大型種で、圧倒的なスケール感の貯水葉を作ります。前述の通りスパーバムと混同されがちですが、現在は別種として区別されています。

【リドレイ(P. ridleyi)】
マレー半島などに分布する小型種です。貯水葉にシワ模様が入ることから「キャベツ」の愛称でも呼ばれており、胞子葉は細かく枝分かれします。他の原種よりも乾燥に弱く、栽培難易度は中級者向けとされています。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。

【ホルタミー(P. holttumii)】
カンボジア・ラオス・ベトナム・マレー半島・タイなどの標高10〜700m前後、モンスーン気候下の明るい森林に分布します。堅牢な性質と整った形状からファンが多い種です。

【ワリチー(P. wallichii)】
インド・ミャンマー・タイ周辺に分布します。コロナリウムに近縁とされ、胞子葉の分岐や質感に地域差が見られるようです。

【ワンダエ(P. wandae)】
ニューギニアに分布する大型種です。ウィリンキーに似た垂れる胞子葉を持ちますが、より大型に育つ傾向があります。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。

アフリカ・マダガスカル系(6種)

【アルシコルネ(P. alcicorne)】
マダガスカル・コモロ諸島・モーリシャス・東アフリカ沿岸部に分布します。比較的丈夫で流通量も多く、アフリカ系の入門種とされています。

【エレファントティス(P. elephantotis)】
熱帯アフリカに広く分布する種で、和名は「象の耳」を意味します。名前の通り、貯水葉・胞子葉ともに丸みを帯びた大きな葉を作るのが特徴です。

【ステマリア(P. stemaria)】
西〜中央アフリカに分布し、V字型に伸びる胞子葉が特徴的な種です。

【エリシー(P. ellisii)】
マダガスカルに分布し、アルシコルネに近縁とされています。

【マダガスカリエンセ(P. madagascariense)】
マダガスカル固有種で、貯水葉に格子状の網目模様が浮かび上がるユニークな見た目を持ちます。栽培難易度が高い種として知られています。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。

【クアドリディコトマム(P. quadridichotomum)】
マダガスカル固有種で、胞子葉が名前の通り四又状に規則正しく分岐するのが特徴です。栽培難易度が高い希少種とされています。

南米系(1種)

【アンディナム(P. andinum)】
コロンビア・ボリビア・ペルーに分布する、南米大陸唯一のビカクシダ原種です。自生地では2m以上に育つ個体もあるとされ、他の原種とは系統的に離れた位置づけになっています。


以上18種が、これから紹介していくネームド株すべての「ベース」になっています。次の章からは、この中でも特にウィリンキーとベイチー、ビフルカツムをベースにした人気のネームド株・交配種を紹介していきます。


人気のネームド株10選

ここからは実際に日本国内で流通している人気のネームド株・交配種を紹介します。

そもそも「選抜品種」とはどういうものか
個別の紹介に入る前に、「選抜品種」が具体的にどう生まれるのかを一度整理しておきます。ビカクシダの増やし方には大きく3通りあります。株分け(子株を親株から切り離す)、胞子培養(胞子を発芽させて実生株を育てる)、メリクロン(組織の一部を培養してクローンを増やす)です。

「選抜品種」はこのうち胞子培養の過程から生まれることが多いようです。ビカクシダは胞子から育てると、親株とまったく同じ遺伝子のクローンにはならず、遺伝的にばらついた実生株が大量に生まれます。この中から、通常よりコンパクトに育つ、分岐数が多い、色味が濃いといった際立った形質を持つ個体がまれに出現することがあり、それを見つけた生産者が名前をつけて増殖・流通させたものが「選抜品種=ネームド」というわけです。

今回紹介する中でいうと、ジェイドガールやバクテリア、金童、迦具夜はいずれもウィリンキーの実生の中から見つかった矮性(ドワーフ)個体を選抜したものです。ドワーフは通常のウィリンキーよりコンパクトに育つ突然変異的な形質で、限られたスペースで管理したい日本の住宅事情とも相性が良いため、近年特に選抜・流通が活発になっているようです。

選抜された個体は、その後は株分けやメリクロンで増やされていくのが基本ですが、株分けできる子株の数には限りがあるため、人気の高いドワーフ品種はメリクロン株として流通することも多いようです。ただしメリクロンには、フラスコから出した直後の順化に失敗しやすい、まれに生育過程で奇形が出ることがある、といったデメリットも指摘されています。

前置きを2点だけさせてください。

1点目、リサーチしてみて分かったのですが、人気ネームド株はウィリンキーをベースにしたものにかなり偏っていました。特に矮性(ドワーフ)タイプの選抜が盛んなジャンルです。この記事でもその実態に合わせて紹介する品種が偏っていますが、これは偏りというより「ウィリンキー系ドワーフが今のトレンド」という市場の実態を反映したものだと理解しています。

2点目、正直に書いておくと、最初にリストアップしようとしていた候補名(Park Beauty、Wyecliff、Yings Blueなど)の中には、調べ直しても実在や由来の裏取りができなかったものがありました。アガベのときと同様、ビカクシダのネームドも名前が独り歩きしやすいジャンルだと感じたので、今回は実在・裏取りができたものだけに絞って紹介します。

ビフルカツム系

【ネザーランド】
・ベース:ビフルカツムをオランダで品種改良して作出された園芸品種とされています。単純な野生選抜ではなく、意図的に改良された品種という位置づけのようです。
・特徴:通常のビフルカツムより葉が垂れにくくコンパクトにまとまる傾向があり、灰緑色の丸みを帯びた胞子葉を持ちます。
・人気の理由:ビフルカツムの丈夫さを引き継ぎつつ、よりまとまりのある姿を楽しめる点。室内でも管理しやすいサイズ感も支持されています。
・育成上の注意点:ビフルカツム系共通で、直射日光〜半日陰まで幅広く対応できる丈夫さがある一方、10℃を下回る環境が続くと調子を崩しやすいとされています。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。

ベイチー系

【レモイネイ(Lemoinei)】
・ベース:ベイチーの選抜品種で、19世紀のヨーロッパで作出された歴史あるネームドとされています。
・特徴:ベイチー本来の銀白色の星状毛に加えて、より整った草姿を持つとされています。
・人気の理由:ビカクシダのネームド文化の中でも特に古くから知られている品種で、ベイチー系を選ぶ際の基準にもされる存在です。
・育成上の注意点:ベイチー系共通で乾燥・直射日光への耐性が高い一方、多湿環境は苦手とされています。

ウィリンキー系(ドワーフ・矮性タイプ)

【ジェイドガール(Jade Girl)】
・ベース:ウィリンキーの矮性(ドワーフ)選抜品種です。
・特徴:通常のウィリンキーよりコンパクトに育ち、胞子葉は切れ込みが深く、やや太めで肉厚なのが特徴です。
・人気の理由:室内でも管理しやすいサイズ感と、ウィリンキー特有の銀白色の星状毛の美しさを両立している点。
・育成上の注意点:同じ矮性タイプの「バクテリア」との違いとして、葉の切れ込みの深さ・厚みで見分けるのが目安とされています。

【バクテリア(Bacteria)】
・ベース:ウィリンキーの矮性(ドワーフ)選抜品種です。
・特徴:ジェイドガールと比べて胞子葉が短く細かく分岐し、多分岐でコンパクトにまとまるのが特徴です。
・人気の理由:矮性ウィリンキー系の代表格として、コンパクトな多分岐フォルムの美しさが支持されています。
・育成上の注意点:ジェイドガールとの誤認が起きやすい品種なので、購入時は葉の切れ込み・厚みの特徴を確認するのがよさそうです。

【金童(きんどう/ゴールデンボーイ)】
・ベース:ウィリンキーのスーパードワーフ(バクテリアやジェイドガールよりさらに小型な突然変異個体)とされる品種です。
・特徴:極端な矮性でコンパクトに多分岐するタイプです。
・人気の理由:ウィリンキー系ドワーフの中でも近年トレンドとされる希少性の高さ。
・育成上の注意点:はっきりした情報は見つけられませんでしたが、他のウィリンキー系ドワーフ同様、風通しと適度な光量を意識した管理が基本になりそうです。

【迦具夜(かぐや)】
・ベース:ウィリンキーの矮性選抜品種とされています。名前の由来についてはっきりした資料は見つけられませんでした(日本国内で命名された園芸品種と考えられます)。
・特徴:胞子葉の分岐数がビカクシダの中でも特に多く、細い枝が無数に伸びるような見た目が特徴です。星状毛をまとった白銀の葉に胞子がつくと、観賞価値がさらに高まるとされています。
・人気の理由:普及率がまだ低く、ビカクシダの中でも最高級品種の一つとして位置づけられています。
・育成上の注意点:流通量が少なく情報も限られているため、購入時は出品者に由来や系統をよく確認することをおすすめします。

【ムーンライト/月光(Moonlight)】
・ベース:ウィリンキー系の選抜品種ですが、この名前を持つ品種は複数存在します。
・特徴:情報を調べていて一番驚いたのがこの品種でした。「P. willinckii 'Moonlight'」とだけ表記されている場合、月光爪哇(げっこうジャワ)系統なのか、PN系統なのか、VP系統なのか判別できず、購入前の確認が必須とされています。さらに、そもそもウィリンキーではない交雑種「P. Moonlight」も別に存在し、名前が似ているため混同されやすいという指摘もありました。
・人気の理由:ウィリンキー系特有の銀白色の美しさを持つ品種群として根強い人気があります。
・育成上の注意点:この品種を購入する際は「ムーンライトの中でもどの系統か」を出品者に必ず確認することを強くおすすめします。ネームド株の名称が独り歩きするリスクを象徴する品種だと感じたので、あえて詳しく紹介しました。

交配種

【キッチャクード(リドコロ)】
・ベース:リドレイ×コロナリウムの交配種です。
・特徴:胞子葉はコロナリウムのようにカールし、貯水葉はリドレイのように薄手というように、両親の特徴をほどよく受け継いでいます。
・人気の理由:交配種の中では一番人気とされる品種で、丈夫で育てやすく、ヘゴ板付けなどのインテリア用途にも人気です。
・育成上の注意点:明るく風通しの良い環境を好みますが、直射日光に当てると葉焼けしやすいので注意が必要です。

【ペガサス(Pegasus)】
・ベース:ディバーシフォリウム×ウィリンキーの交配種です。
・特徴:白い胞子葉が羽ばたく羽のように見えることが名前の由来とされています。強い光を当てるとバキバキに立ち上がり、翼のようなシルエットになります。星状毛も多く、光を受けると青白く見えます。
・人気の理由:白くシャープな草姿と、日本の住宅環境にも合わせやすいサイズ感。
・育成上の注意点:栽培難易度はやさしいとされていますが、耐寒性は弱めで、10℃以上での管理が推奨されています。

【ホワイトホーク(White Hawk)】
・ベース:ウィリンキー×ディバーシフォリウムの交配種です(ペガサスと親species自体は近い組み合わせですが、別の選抜個体として区別されています)。
・特徴:白い星状毛が特徴的で、胞子葉に胞子がつくとタカの爪のように鋭く尖った見た目になるとされています。
・人気の理由:寒さや乾燥への耐性が比較的強く、日本の環境に適合しやすい系統として紹介されているのを複数見かけました。
・育成上の注意点:真夏の直射日光は避け、冬場は15℃以上を目安に管理することが推奨されています。私も1株育てているので、後日画像付きで記事を執筆予定です。


この章のまとめ

10株を紹介しましたが、調べていて一番印象に残ったのは「ウィリンキー系ドワーフの層の厚さ」と「ムーンライトのような名称の混乱」でした。アガベのネームド文化と同じく、ビカクシダも流通・コミュニティベースで名前が広まっていく世界なので、情報の厚みには品種ごとにかなり差があります。今回は実在・裏取りができたものに絞りましたが、今後実際に自分で育てながら分かったことがあれば、随時この記事や個別記事で更新していこうと思います。


最後に

ここまでビカクシダの原種とネームドについて書いてきましたが、一つだけ書いておきたいことがあります。

アガベ図鑑、パキプス(オペルクリカリア・パキプス)記事に続けて今回ビカクシダ図鑑をスタートしましたが、ジャンルを飛び石で紹介しているように見えるかもしれません。ただ、アガベもビカクシダも、そして塊根植物(コーデックス)全般も、これからも図鑑シリーズとして並行して更新していくつもりでいます。今はいろんなジャンルの図鑑を少しずつ並行して育てている段階で、一通り土台が揃ってきたら、いろんな植物の紹介をどんどん本格化させていきたいと思っています。なので「アガベはもう終わり?」ではなく「今はビカクシダの土台作り中」くらいの温度感で見てもらえたら嬉しいです。

ネームドはあくまで、原種や交配種が持って生まれた形質に名前がついているだけの話です。名前がついていようがいまいが、綺麗に育てられるかどうかは結局、育て方次第。この考え方はアガベのときと変わりません。このシリーズでもこれからどんどん紹介していきますが、根っこにはこの考えを置いておきたいなと思っています。

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