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最凶スラント(RazoRock Superslant L3++OC レビュー)


Razorock Superslant L3++OCの概要

Razorock Superslant L3++OC は、2023年にカナダのメーカーRazorockから発売された3ピースの両刃カミソリである。基本スペックは以下の通り

全長:ハンドルにより変動
重量:ハンドルにより変動(100g程度と重量級)
素材:SUS316Lステンレス鋼(ヘッド・ハンドル共通)
仕上:振動タンブリング仕上※
製法:CNC切削
生産国:カナダ
価格:150米ドル程度(日本では購入不可)

Razorock Superslant L3++OC 

※成形時のバリを研磨石と共に振動させる事で除去する、粗い表面仕上げプロセス。Razorockは敢えて微細な仕上げ研磨を行っておらず、これは理論値との最小誤差で成形する為である。

禍々しいヘッド


Superslantの系譜と誕生

 スラントとは、替刃をねじってヘッド部分に固定するカミソリの設計のことである。刃のねじれによって、替え刃はハンドルに対して垂直に固定されず、傾斜が生じる。そして、シェービング時にギロチンの刃の様に刃が斜めに当たることで、効率的に硬い髭を剃ることができるという謳い文句だ。この設計は、実は1930年代から存在する古典的な形状である。

【黎明期:ステルス・スラント】
RazoRockにおけるスラントの歴史は、2014年頃に登場した「Stealth Slant」まで遡る。これはアルミニウム製のホルダーで、世界初のCNC切削されたスラントの両刃カミソリだった。非常にマイルドな剃り味で扱いやすく、マニアの間でも絶大な人気を誇った。現在は廃盤となっている。

【過渡期:ヴンダーバー】
Stealth Slantの成功を受け、2016年には「Wunderbar」(ドイツ語で「素晴らしい」)が発売された。Stealth Slantよりアグレッシブな設計に変更され、SUS316LステンレスCNCフライス切削成形という嗜好性の高いスペックで打ち出された。残念ながら現在は製造が中止されている。(廃盤の可能性が高いと思われる)

【廉価版の登場:ジャーマンスラント】
同じく2016年には、歴史のあるMerker37cを模倣したモデルである「German37 Slant」を発売した。これは廉価版のモデルであり、ヘッドは亜鉛合金製で製造地は中国、ハンドルはステンレス製で製造地はカナダだ。

【2023年:スーパースラントの誕生】
2023年頃、約2年の開発期間を経てSuperslantが誕生した。位置づけとしてはWunderbarの後継機という扱いになる。材質もWunderbarと同様だ。主な変更点としては、替刃の湾曲度がより高まった事と、攻撃性のカスタマイズが可能になった事の2点だ。Superslantのトップキャップは共通であり、12種類の異なるベースプレートを換装することが可能である。(交換用ベースプレートは別売)

以下に交換用ベースプレートの簡易的な表を用意した。左上が最もマイルドで、右下が最もアグレッシブである。私が今回レビューするのは、最もアグレッシブな L3++OCで、オープンコム・スラント・ハイギャップのオールステンレス製というマニアを唸らせる嗜好性とロマンを具えている。

攻撃性はL1++OC <L2かと思われます。

L3++OCのレビュー記事は私が探した限り日本語の長文形式の記事は存在せず、おそらく国内初の記事となる。私は他のレビュー記事よりも解像度の高い記事を目指しており、この記事がより多くの両刃カミソリマニアに届くことを願っている。


攻撃性を分析する

カミソリの攻撃性は、5つの要素が複雑に影響し合う事で決定するという説を私は支持している。

カミソリの攻撃性について語る時、単に強い・弱いという言葉だけで表現するのではあまりにも解像度が低く、カミソリの持つ個性を伝える事は難しいのだ。攻撃性に影響を与える要素は、カミソリの重量やユーザーの力加減、シェービングソープなど、さらに多くの要素が影響するが、レビューとしての明解さを優先し、カミソリのヘッドの形状のみに着目した5つの要素に留めている。以下に5つの要素を列挙し、解説図を添付する。

①刃の露出度 (露出量が増える程攻撃性が高い)
②刃の湾曲度(湾曲度が低い程、刃当たりが強い)
③ブレードギャップ (広い程攻撃性が高い)
④斜め方向のブレードギャップ (広い程攻撃性が高い)
⑤コムの形状

とりわけ②と③と④は密接に影響しており、この替刃の湾曲度と2種類のブレードギャップから、ベクトルの合成や内積のような定量的な値として攻撃性を算出する方法を現在模索中である。

攻撃性を決定する5つの要素

 Superslant L3++OCの攻撃性を5つの要素について評価すると

①★★★★★★☆☆☆☆(やや露出量が高い)
②★★★★★★★★★★(極めて湾曲度が高い)
③★★★★★★★★★★(極めて広い)
④★★★★★★★★★★(極めて広い)
⑤一般的な形状のオープンコム

となる。Razorockらしい、ステータスを極端に振り切ったマニア向けの設計である。とりわけ際立っているステータスが、替刃の湾曲度の高さだ。替刃にかなり急な角度がつくので、R41などの替刃の湾曲度が低いカミソリと比較すると、刃当たりはかなり弱く感じる。ただ③、④のブレードギャップは、以前レビューしたLupo127とほぼ同等、あるいはそれ以上の広さを誇っており、安全性は刃当たりの感触の割にはそれほど高くないと感じた。公式サイトではギャップの数値が公開されていなかったが、1.00mmを超えている事はほぼ間違いないだろう。また、これはオープンコムのモデルだが、クローズドコムのモデルと比較してもコムの断面はおそらく同様であるため、攻撃性に差はあまりないと考えている。

Lupo127とのブレードギャップの比較。
Superslant L3++OC はLupo127に比肩する
ブレードギャップを持っている。

便宜上攻撃性という言葉を他のマニアと同様の文脈で用いるのであれば、やや強、あるいは強いという評価になるだろう。無論、R41やLupo127と比較すると攻撃性(特に刃当たり)は弱い。


効率性について

効率性に関しては、Lupo 127と同程度だと見做している。一般的な両刃カミソリと比較して優秀ではあると思うが、スラントという構造自体の持つ優位性があるかどうかは分からない、と言うのが正直な感想だった。また、スラントの形状は一般的な両刃カミソリよりも操作性が少し悪くなるという印象さえ抱いた。

おそらくストロークの初めに刃の端が先に肌に当たることで、一点に負荷が集中するからだろう。これは怪我の危険性も孕んでいる。

BBSまでの手数は3手で、2パス目までに大多数の髭がなくなり、3パス目はタッチアップが中心になるという、アグレッシブなホルダー特有の流れになる。

 Superslant L3++OCは、Superslantシリーズの中でもっとも大きいブレードギャップを持つモデルであり、この効率性の高さはスラント構造よりも、このブレードギャップの大きさによってもたらされていると考えている。ブレードギャップを広げる事により、剃ることができる角度のスイートスポットが広がるからだ。

スラントの効果について次章で考察します

私はスラント構造に驚異的な効率性を期待したが、一般的な両刃カミソリに対する優位性を認めることはできなかった。しかも、Superslantは替刃の湾曲度が高まったことでヘッドの厚みが増しており、鼻下や喉元付近など、ヘッドの形状の影響を受けやすい箇所が剃りにくいという欠点が新しく生じている。Razorockのラインナップの中でも、Superslantは極めて高度な金属加工の技術力を要し、圧倒的なロマンと嗜好性を持っているが、単に道具という評価軸で見れば、GameChangerやLupoのほうが優秀なカミソリと言っていいだろう。

Lupoの薄型ヘッドは極めて優秀です

深剃り性能について

ただ、致命的な欠点が一つだけ存在し、それは、「深剃り性能の微妙さ」である。おそらく替刃の湾曲度の高さと、ヘッドの形状の二つの要素が影響していると思われる。

Superslant L3++OC は、R41やLupo127といった、替刃の湾曲度が低いカミソリと比較して、明らかに深剃り性能が低いのだ。1〜2パス目までの効率性は驚異的と言える程にかなり高いのだが、タッチアップになると急に効率が落ちるようなきらいがあり、ある一定の短さ以上に髭を短く刈り取ることが難しくなるのだ。特に喉元付近では、普段通りに剃ってもBBSできなかった。喉元付近の深剃り性能の低さは、おそらくヘッドの分厚さと横幅の広さが操作性を低下させている事が原因であると考えている。特にヘッドの横幅が広いと、首と顎の境界付近を横方向に剃ることが難しくなるのだ。

角度に細心の注意を払い、手数を加えれば深剃りは可能なものの、それでもR41やLupo127の深剃りには及ばないと感じた。タッチアップには、替刃の湾曲度が低いカミソリのほうが適するのだろう。

ただ、替刃や持ち方など他の要素が影響している可能性も否定できないので、本レビューは頻繁に更新する予定だ。
(追記:ある程度使いこなせる様になれば、十分にBBSは可能でした。アングルキープが肝だと思います。アングルキープがややシビアで、クセが強いです。また、タッチアップはやや立て気味で剃ると良い?です。ただ、それでもR41やLupo127程の深剃り性能はないと感じました。これらは明日の髭まで剃れる深剃り性能があります。)

Rex Envoyと比べても縦方向に分厚いヘッド

スラントには本当に効果があるのか?

しばしばスラントの効果を説明する際に引き合いに出されるギロチンであるが、ギロチンの刃はスラントに比べても遥かに傾斜している。
ここでふと疑問を持ったのだが、Superslantの傾斜には本当に髭の切断効率を上昇させる効果があるのか?ということだ。

ギロチンの刃はスラントよりも遥かに角度がついている
出典:Wikipedia

例えば包丁で肉を切るときに、包丁を上から押すよりも前後にギコギコしたほうが切りやすいという経験が誰しもあるだろう。なぜこのようなことが起こるのかというと、下の図のように、引き切りで切った場合のほうが、刃が切断物を通過する線で刃物の刀身を切ったときにできる断面の鋭角が鋭くなるからだ。スラントのカミソリで髭を剃る際でも、理論上は同様の効果を期待できる。ただでさえ鋭いカミソリの替刃を、より一層鋭くできるという算段だ。

断面にあらわれる三角形の鋭角を比較する

上記の刃物の模式図において、小さい三角形の断面と大きい三角形の断面のなす角は、そのままスラントの傾斜角として捉える事ができる。しかし、スラントの傾斜角はこの模式図と比較しても極めてなだらかである為、この替刃を傾ける事によって切断面の鋭角が鋭くなる効果が、一般的なカミソリに対して優位性が認められる程度に期待できるかどうかは眉唾である。

Superslantの傾斜角は約5°だ

Superslantの傾斜角は約5°であり、この5°の傾斜がどれくらい切れ味に影響を与えるかどうかを計算で求めてみることにした。

ここでカミソリの替刃の断面を考える。幸運な事に、私の愛用していフェザーハイ・ステンレスの寸法が公開されていたので、それをもとに替刃の断面の角度を算出する。

フェザー ハイ・ステンレスの模式図

上の模式図が正確であると仮定して、画像に定規を当ててみると

刃は1mm程度?実測値との乖離あり。

替刃の刃がついている部分の長さは1mm程度となる。カミソリの替刃は両刃なので(出刃包丁のような「片刃」に対する文脈での両刃。両刃カミソリの替刃は両刃であり諸刃でもあるのだ。)替刃の刃がついている部分の断面は

底辺が1
高さが10
斜辺が約10.0125
鋭角が約5.72°

の鋭角三角形と相似形になる。なお、実際の断面の形状とは異なることが予測される※が、図としての明解さを優先し、単純化を試みている事はご了承頂きたい。

※実物の刃先は、オベリスクの様な形状で研がれている可能性があり、実際の刃先の角度はもっと鈍い可能性がある。

ハイ・ステンレスの端の断面図
鋭角≈5.72°

次に、底辺が10で、θ=5°の直角三角形の斜辺を考える。この斜辺の長さが、スラントで剃った場合の替刃の断面になる三角形の高さになる。斜辺の長さは約10.038だ。

斜辺≈10.038

次に、底辺が1、高さが約10.038 の二等辺三角形の鋭角を求める。これが、スラントで剃った場合の刃先の断面の角度になる。以下に模式図を示した。

鋭角≈5.70°

断面の三角形の鋭角は約5.70°となり、Superslantの5°の傾斜は、約0.02°断面の鋭角を小さくした。率にして約1.4%である。実際、これはほぼ無視しても良い数値ではないだろうか?少なくとも、人間が判別できる範疇を凌駕していることはまず間違いない。以上より、スラント構造が、本当にギロチンの様な原理で効率性や切れ味が向上しているかどうかについては、かなり怪しいという結論が得られた。

尚、目測値では刃が付いている部分は0.5mm程度であり、傾斜前の刃の断面の角度は約11.42°、同様の手順で5°傾斜させた刃の断面の角度は約11.39°、となり、角度は0.03度程度小さくなる。これでもあまり効果は変わらないだろう。

仮にスラント構造が本当に効率や切れ味に影響を与えるとしたら、他の要素を考える必要があるだろう。残念ながら、今回私はスラント構造がもたらす他の効果を突き止める事はできなかった。

また、私は替刃の湾曲度が高いカミソリは深剃り性能が落ちるという説を支持しており、スラントの角度をもっと急にして切れ味を向上させる為には、さらに替刃を湾曲させ、ヘッドを分厚くしなければいけないという原理的な矛盾を抱えている様にも思えた。十分にスラントの効果を得られる程度に傾斜をつけるためには、例えば平行四辺形の替刃のような、そもそも新しい専用替刃の開発が必須だろう。

ただ、この金属加工の緻密さにはロマンがある

個人輸入について

Razorock Superslantは、2026年3月現在、AmazonやKojack Razorでも購入することができないため、新品で購入する場合は、Itatian Barberからの個人輸入が必須になる。(注文から私の住んでいる東京のアパートまで18日かかりました)尚、住所は英文形式で入力する必要があるので注意しよう。(英文で住所を入力してもしっかり配達されました。)

国際郵便で入力する住所の基本フォーマット
1. 名前(Mr./Ms. OO)
2. 部屋番号・建物名 (#201XXX Mansion)
3. 番地・町名(1-2-3 Yoyogi)
4. 市区町村・都道府県 (Shibuya-ku, Tokyo)
5. 郵便番号(123-4567)
6. 国名 (JAPAN)

輸送方法は、PostNLというオランダ資本の輸送サービスが用いられた。発送後に一度オランダを経由し、日本へ空輸されたと思われる。税関の通過などもあるため、所要日数は18日と比較的長めだったが、追跡サービスも利用でき、安心して配達を待つことができた。Superslantを購入した際は、国際郵便料金が追加で2000円程度必要になった。

また、支払いにはなんとJCBカードが利用できた。日本人の顧客も多いのだろう。個人輸入は未だに抵抗があると感じる方も多いかもしれないが、現在はChromeが外国語のサイトを母国語に自動翻訳する機能が付属しているという事もあり、個人輸入の壁はかなり低くなっていると言っていいだろう。私はまるでAmazonで商品を購入する感覚で利用することができた。

Postnlの追跡画面。Chromeの翻訳機能で日本語に翻訳でき、
頻繁に更新もされるので、高価な買い物でも安心できます。

総評

Razorock Superslant L3++OCは、その入手難易度と嗜好性、道具としての完成度の高さが三拍子揃ったカミソリだ。

ただ、スラント自体に機能性が本当に存在しているかどうかはかなり怪しいので、スラントはあくまでも、「嗜好性の追求」や「金属工作技術の誇示」という文脈で楽しんだほうがいいのかもしれない。

また、深剃り性能が高そうな見た目をしている割には、それほど性能が高くない点もやはり気になった。Razorock製品の中で深剃りを望むならLupo SSのほうがずっと優秀であり、価格もお手頃だろう。

UFOハンドルなので自立はしません

《参考文献》


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