第4回 決断!
果たして私、納得ってできるのだろうか?
執刀医との面談日はあっという間にやってきた。それでもまだ、迷いに迷っている私は、パソコンで私の乳房の画像などを確認している執刀医に、「やっぱり部分切除じゃダメなんですか?」としつこく聞いてみる。自分でもしつこいと思う(苦笑)。だが、答えは同じだった。放射線治療ができないから全摘。それでも納得がいかない顔をしていたら、
「ちょっと胸を見せてください」
と言われた。初めてだった。検査の時などには胸を出すけれど、診察時にドクターの前で胸を出すことはこれまでほぼなかった。確かに乳房を直接見たところで、しこりのある部分が窪んだりつれたりしている以外は、病気の詳細はわかりにくい。画像や検査データを元に診断するのは当たり前だ。だが、執刀医は胸を見せろという。そして、実際に胸を触りながら、もう一度丁寧に術式の説明を始めた。
「腫瘍は今のところ8ミリなので腫瘍としては大きくはないですが、部分切除であっても切り取るときはかなり大きい範囲で切除することになります。そうするとおそらく乳房の下半分が抉れる形でなくなると思うんですね。こんな感じです」
そう言うと、乳房の下半分をグッと手で抑えた。すると乳頭が下を向き、歪な乳房ができあがる。
「なるほど・・・こうなっちゃうんですね。しかも乳腺が残るから再発リスクも高くなるんですよね」
迷いはつづく。
「私、この前ネットで全摘した胸の画像を見ちゃったんです。見た画像が悪かったのかもしれないんですけど、それがすごく汚くてがっかりしてしまって。やっぱり部分切除でできないかなと思ったんですけど・・・」
「乳房再建は考えてないんですか?」
前回問診されたドクターと同じことを聞かれた。
「正直考えてなかったんですけど。実際、乳房再建ってどうやってやるんでしょうか?」
執刀医はタブレットを手に取り、乳房再建をした患者の画像を何点か見せてくれた。
「これは手術の後胸にエキスパンダーを入れておいて、1年後にシリコンと入れ替えた再建の画像です」
よくわからないカタカナがたくさん・・・。だが、正面から撮影した画像は、左右に多少大きさの違いはあったけれどとてもきれいだった。
「こうなるんだったら再建もいいですね」
執刀医はまた私の腫瘍の部分を確認する。腫瘍があるのは乳頭より少し下の外側だ。
「この距離なら乳頭も残せると思うので、再建を考えてみたらいいと思いますよ。一度形成外科で話を聞いてみたらどうですか?」
「乳頭も残せる!?」
「え!取らなくていいの?」
また少し希望の光が見える。
ということで、後日、形成外科で乳房再建の相談をすることになった。私の中で一気に乳房再建への期待が高まった。だた、全摘術に乳房再建術がプラスされ、これがまた私の「迷い」を増やすことになったのだ。
余談だが、「形成外科」と「整形外科」の違いをみなさんは知っているのだろうか?骨を折ったり、捻挫や打撲をしたりするたびに、学生時代からよくお世話になっていたのは「整形外科」。では「形成外科」は?というと、これは入院中にナースから教えてもらったのだが、さまざまな理由で欠損した体の部位を、きれいにつくり直してくれるところらしい(あ、知らないのは私だけか?)。たとえば、私のように乳癌の手術によって摘出してしまった乳房を再建したり、ケガや糖尿病などの病気で失った指などを再建したり・・・などなど。ふ〜ん、なるほど。
グイッと背中を押してくれ!
そんな形成外科で乳房再建について説明を聞く。腫瘍の位置的に乳頭を残せるけれど、全摘した後の胸の画像があまりに切なかったので(ネットで検索して見た画像が酷すぎた)、再建することに気持ちが傾いたのだけど・・・。今度は再建術の方法を聞いていたら、またも迷いのループに陥った。何をそんなに迷うのかって。
再建の方法には、背中あるいは腹部の自家組織を使っての再建か、人工物(シリコン)を用いて再建するという2種類がある。次に再建の時期。自家組織を使って再建する場合には、乳癌手術と同時にするか、乳癌の手術時にエキスパンダーを胸に仕込んでおいて1年後に再建手術を行うか選ぶことができる。一方の人工物の場合には、やはりエキスパンダーを胸に仕込んでおいて1年後に再建手術をするという。それを聞いた瞬間、私の中に沸き起こったのは、
「1年後にまた手術?そんなの面倒臭いじゃん」
だった。
また入院しなくちゃならないし、手術となればまた日常生活が滞るだろう。「何度もそんなのたいへんじゃん」と心の中で思っていると、ドクターからさらに面倒な説明が加わった。
人工物で再建した場合、人工物は劣化するので7、8年くらい経ったら取り替える手術が必要だという。加えて、人工物の場合は、万が一破れた場合には悪性リンパ腫を引き起こす可能性もあるなど、リスクの話が続いた。さらに、乳癌の手術後1年たつと胸にエキスパンダーを入れておいても皮膚が縮むため、元々の乳頭の位置とズレが生じるので乳頭を切って位置を移動させるという。
さらにさらに、自家組織を使う場合は、背中やお腹の筋肉と脂肪を移植するため、乳癌の手術の傷跡のほかにもう1つ大きな傷跡が体に残ってしまう・・・などなど。
説明を聞いているとどれも「帯に短し襷に長し」「あちらを立てればこちらが立たず」な感じ。そりゃそうだ。そもそも体を傷つける手術なわけでリスクがあって当然だもの。
「う〜〜〜ん、どうしよう・・・」
またまた大いに迷っているとドクターが、
「そしたら、まずは自家組織でできるか見てみましょう」
と前に進めてくれた。
よくよく聞いてみると、自家組織の場合、基本は背中の広背筋という筋肉と脂肪を使うらしいのだが、オッパイのサイズがめちゃくちゃ大きい場合はできないことがあるのだそう。「あ、私、そんなに大きくないんで」と独り言風にポソっと言ってみた。立ち上がって正面から、まずはおっぱいのサイズを測る。「そんなに小さくないですよ」と表情を変えずに言うドクター。これって一応喜ぶところ?おいおい、聞いてたんか〜い!とツッコミたくなるのを堪えて、「あ、そうですか」と笑ってみる。背中の肉をつまんだりスケール測定した結果、「背中の自家組織でできそうですね」ということに。
「自家組織とシリコンとどっちで再建するのが多いんですか?」と聞くと、「最近はシリコンが増えてますけど、それぞれですよ」とのこと。
「まだ年齢的にも若いし(って59歳は若いのか?)、自家組織での再建はありですよ」
と言われ、自家組織での再建に心が傾き始める。
が、しかし!なんか勇気が出ないのだ。これだ!という決め手が欲しいのだ。でもドクターの方からは絶対に、「こうした方が良い」とは言わない。あくまでも決定するのは患者側なのだ。
「迷っているなら、エキスパンダーを仕込んでおいて1年後にどうするか決めてもいいんですよ。ときどき、1年後面倒臭くなってやっぱりもうやめるって言って再建をやめる方もいらっしゃいますから」
「でも1年後に再建やーめたって言っても、エキスパンダーを取り出す手術はするんですよね?」
「まあ、そうですね(苦笑)」
う〜ん。結局2度手術するのか。
「今すぐ結論出さなくてもいいですよ。もう少し考えますか?」
癌という病気のことを考えたらそんな悠長にしている時間はない。
そこで思い切って聞いてみる。
「本当にどうしていいかわからないので教えて欲しいんですけど・・・先生が考えるベストはどれですか?」
すると、
「それはもう乳癌の手術と同時に、自家組織を使って再建するのがいいですよ。一度の手術でできますし、それがいちばんきれいに(乳房再建)できますから」
じゃあ、もうそれで!どうせやるならベストがいいに決まってる!
再建って言ったって、完全に現状のようにはならない。大きさも形も今とはきっと微妙に違ってくる。それはドクターもイクスキューズで何度も言っていた。でも、ネットで見てしまった画像のような胸板を、毎日目にするよりはいい。
たかがおっぱい。されどおっぱい。
59歳になってもこんなに悩むものなのだ。
ということで、悩みに悩み迷いに迷った末、乳房全摘術と再建術の同時手術に決定した。すでに乳癌の手術日は決まっていたのだが、再建を担当する形成外科の執刀医とのスケジュールを合わせると、手術日が前倒しになってしまう。だが、その日を逃すと手術ができる日が1ヶ月以上も先になってしまうということで、前倒しスケジュールで予定を組んでもらうことになった。こうして、最後の診察からわずか4日目に入院・手術となったのだった。
次回へつづく
