ローカルLLM向けの NVIDIA GPU の選び方
ローカルLLM向けの NVIDIA GPU の選び方をまとめました。
1. はじめに
ローカルLLMを高速に動かしたい場合、最も有力な選択肢のひとつが「NVIDIA GPU」です。
NVIDIA GPUでは「CUDA」を中心としたAI向けソフトウェアが充実しており、多くの推論エンジンや高速化技術を利用できます。
一方、ゲーム用GPUを選ぶ感覚で、CUDAコア数が多いGPUを選べばよいというわけではありません。
ローカルLLMでは特に、
・VRAM容量
・メモリ帯域
・Prefill
・Decode
・GPU世代
・価格
を見る必要があります。
今回は、主にデスクトップ向けの「GeForce RTX」と「RTX PRO」を中心に見ていきます。
2. NVIDIA GPUがLLMに向いている理由
2-1. CUDAエコシステム
NVIDIA GPU最大の強みは「CUDA」です。
LLM向けの主要な推論エンジンや高速化ライブラリの多くがCUDAを中心に開発されています。
特に、
・vLLM
・SGLang
・TensorRT-LLM
・FlashAttention
・DeepSpeed
などを利用したい場合、NVIDIA GPUが第一候補になります。
新しいモデルや量子化方式、高速化手法についても、CUDA環境が早く対応することが多いのが特徴です。
2-2. 専用VRAM
一般的なNVIDIA GPU搭載PCでは、
・CPU → システムRAM
・GPU → 専用VRAM
とメモリが分かれています。
LLMをGPUだけで高速に動かす場合は、
基本的にモデルをVRAM内へ収める
ことが重要です。
例えばPC本体に128GBのRAMがあっても、GPUが16GBなら、GPUだけで高速に扱えるモデルは主に16GBのVRAMに制約されます。
VRAMを超えた部分をCPU RAMへオフロードすることもできますが、PCIe経由の転送が必要になり、速度が大きく低下する場合があります。
そのため、ローカルLLM用GPUでは、
まずVRAM容量を見る
のが基本になります。
3. LLM性能を見るための指標
3-1. VRAM容量
最も重要なのが「VRAM容量」です。
LLMではモデル本体だけでなく、
・モデルの重み
・KVキャッシュ
・推論時のワーク領域
・各種バッファ
などにもVRAMを使用します。
モデル本体のサイズは概算で、
・16bit → パラメータ数 × 約2バイト
・8bit → パラメータ数 × 約1バイト
・4bit → パラメータ数 × 約0.5バイト
です。
27Bモデルなら、
・16bit:約54GB
・8bit:約27GB
・4bit:約14GB
程度になります。
したがって16GB GPUなら27Bの4bit、32GB GPUなら27Bの8bitなどがひとつの目安になります。
ただし、実際にはKVキャッシュなども必要なので、
モデルサイズとVRAM容量が同じなら十分
とは考えず、ある程度の余裕が必要です。
3-2. メモリ帯域
次に重要なのが「メモリ帯域」です。
これは、
1秒間にVRAMからどれだけデータを読み書きできるか
を示します。
LLMのDecodeでは、トークンを1つ生成するたびに大量のモデル重みを読み出します。
そのため、特にバッチサイズが小さいローカルLLMでは、
メモリ帯域が大きいほどDecodeが高速になりやすい
という特徴があります。
例えばBlackwell世代では、
・RTX 5060 Ti:448GB/s
・RTX 5070 Ti:896GB/s
・RTX 5080:960GB/s
・RTX 5090:約1.8TB/s
となっています。RTX 5090は32GB GDDR7と512bitメモリインターフェイスを搭載するハイエンドモデルです。
VRAM容量が、
どのモデルを載せられるか
を決めるのに対して、メモリ帯域は、
載せたモデルをどのくらい速く生成できるか
に大きく関係します。
4. PrefillとDecode
LLMの推論処理は、大きく「Prefill」と「Decode」に分けられます。
4-1. Prefill
「Prefill」は、入力したプロンプトを最初に処理する部分です。
例えば、
10,000トークンのソースコードをLLMへ渡す
場合、その入力をまとめて処理するのがPrefillです。
Prefillでは大量の行列演算を並列処理するため、
GPUの演算性能
が重要になります。
Prefillが高速だと、
・長いソースコード
・大量のドキュメント
・長い会話履歴
などを素早く読み込めます。
コーディングエージェントでは特に重要です。
4-2. Decode
「Decode」はPrefill後に、
回答を1トークンずつ生成する処理
です。
一般的に表示される、
40 tokens/s
などの生成速度は主にDecode速度です。
Decodeではモデル重みを繰り返し読み出すため、
演算性能よりメモリ帯域がボトルネックになりやすい
という特徴があります。
したがって、LLM用GPUを見るときはCUDAコア数やAI TOPSだけでなく、
VRAM容量 + メモリ帯域
を見ることが重要です。
4-3. TTFT
もうひとつ重要なのが「TTFT」(Time To First Token)です。
これは、
プロンプトを送信してから最初の回答が出るまでの時間
です。
長いプロンプトではPrefillに時間がかかるため、TTFTも長くなります。
LLMの体感速度を見る場合は、
・Prefill → 入力を読む速度
・TTFT → 回答開始までの待ち時間
・Decode → 回答を生成する速度
の3つを見ると理解しやすくなります。
5. RTX 30 / 40 / 50シリーズの違い
5-1. RTX 30シリーズ
RTX 30シリーズは「Ampere」世代です。
現在新品で積極的に選ぶ世代ではありませんが、ローカルLLMでは「RTX 3090」が現在でも特徴的です。
RTX 3090は、
・VRAM:24GB GDDR6X
・メモリインターフェイス:384bit
を搭載しています。
中古価格次第では、
安価に24GB VRAMを確保するGPU
として候補になります。
最新GPUと比べるとPrefill性能や電力効率は劣りますが、ローカルLLMではGPU世代よりVRAM容量が重要になるケースも多いためです。
5-2. RTX 40シリーズ
RTX 40シリーズは「Ada Lovelace」世代です。
代表的なのが「RTX 4090」で、
・VRAM:24GB GDDR6X
・メモリインターフェイス:384bit
・NVLink:非対応
という構成です。
RTX 4090は現在でも高速ですが、ローカルLLM用途では、
・RTX 4090:24GB
・RTX 5090:32GB
というVRAM容量の差が大きなポイントになります。
中古価格が十分安ければRTX 4090も有力ですが、新規にハイエンドGPUを購入するのであればRTX 5090の32GBが魅力的です。
5-3. RTX 50シリーズ
RTX 50シリーズは「Blackwell」世代です。
Blackwellでは第5世代Tensor Coreが採用され、「FP4」にも対応しました。NVIDIAはRTX 50シリーズを、コンシューマGPUとして初めてFP4に対応した世代としています。
主なデスクトップGPUは、
・RTX 5060 Ti:8GB / 16GB
・RTX 5070:12GB
・RTX 5070 Ti:16GB
・RTX 5080:16GB
・RTX 5090:32GB
です。
ローカルLLM用途では、この中でも、
・RTX 5060 Ti 16GB
・RTX 5070 Ti 16GB
・RTX 5090 32GB
あたりが特に選びやすい構成です。
RTX 5080は高速ですがVRAMが16GBなので、LLMだけが目的なら、
RTX 5090へ上げて32GBを確保する
か、
RTX 5060 Ti / 5070 Ti 16GBで価格を抑える
という選択も考えられます。
6. GeForce RTXとRTX PROの違い
6-1. GeForce RTX
個人がローカルLLMを動かす場合、基本的には「GeForce RTX」が価格性能に優れます。
特にRTX 5090は、
・VRAM:32GB GDDR7
・メモリ帯域:約1.8TB/s
・Tensor Core:第5世代
を備えています。
32GB以内に収まるモデルなら、非常に高速なローカルLLM環境を構築できます。
一方で、
GeForceで1枚32GBを超えるVRAMが必要
になると選択肢がなくなります。
6-2. RTX PRO
さらに大きなモデルを1枚のGPUで扱いたい場合は「RTX PRO」が候補になります。
Blackwell世代では、
・RTX PRO 4500:32GB
・RTX PRO 5000:48GB / 72GB
・RTX PRO 6000:96GB
などがあります。
RTX PRO 5000は最大72GB GDDR7、1,344GB/sのメモリ帯域を備えています。
RTX PRO 6000 Blackwell Workstation Editionでは、
・VRAM:96GB GDDR7 ECC
・メモリ帯域:1,792GB/s
・最大消費電力:600W
となります。
96GBあれば、
・70Bモデルの8bit
・100B級モデルの4bit
・大型MoE
なども扱いやすくなります。
ただし価格は大きく上がり、NVIDIA MarketplaceではRTX PRO 6000 Blackwell Workstation Editionが1万ドルを超える価格帯で掲載されています。
そのため個人用途では、
32GBまで → GeForce RTX 5090
48〜96GBを1枚で必要 → RTX PRO
という分け方が現実的です。
7. 複数GPUという選択肢
1枚のGPUでVRAMが足りない場合は、
複数GPUにモデルを分割する
方法もあります。
例えば、
RTX 5090 32GB × 2
なら、モデルの重みなどを2枚のGPUへ分割することで、32GBを超えるモデルも扱えます。
vLLMでは「Tensor Parallel」による複数GPU推論に対応しており、GPU数を指定してモデルを分散できます。
ただし重要なのは、
32GB + 32GBが自動的に1枚の64GB GPUになるわけではない
という点です。
GPU間通信が必要になるため、
・PCIe帯域
・マザーボード
・PCIeレーン数
・GPU間通信
・推論エンジン
などの影響を受けます。
またRTX 4090などの近年のGeForceではNVLinkに対応していません。
そのため、
1枚の大容量GPU
の方が構成は簡単です。
一方でRTX PRO 6000などは非常に高価なので、価格次第ではGeForceを複数枚使う構成も候補になります。
8. VRAM容量別の選び方
8-1. 8〜12GB
小型モデルを中心に使う容量です。
・7〜8B:4bit〜8bit
・14B:4bit中心
Ollamaなどで小型LLMを試す用途には十分です。
ただし、これからローカルLLMを主目的としてGPUを購入するのであれば、できれば16GB以上を選びたいところです。
8-2. 16GB
現在のエントリー〜ミドルレンジで特に選びやすい容量です。
・8〜14B:かなり余裕あり
・27〜32B:4bit中心
候補としては、
・RTX 5060 Ti 16GB
・RTX 5070 Ti 16GB
などがあります。
同じ16GBでもRTX 5070 Tiは896GB/s、RTX 5060 Tiは448GB/sなので、Decode速度を重視するならメモリ帯域の大きいGPUが有利です。
8-3. 24GB
中古GPUを含めると非常に使いやすい容量です。
代表的なのが、
・RTX 3090 24GB
・RTX 4090 24GB
です。
・27〜32B:4bitを余裕を持って利用
・70B:低bit量子化を検討
といった使い方ができます。
中古RTX 3090は、
VRAM容量あたりの価格を重視
する場合に特に面白い選択肢です。
8-4. 32GB
個人のローカルLLM環境では特に魅力的な容量です。
代表的なのが、
・RTX 5090 32GB
です。
・27B:8bitも利用可能
・32B:8bitは容量に余裕が少ない
・70B:3bit以下の低bit量子化を検討
という構成になります。
さらにRTX 5090は約1.8TB/sという非常に大きなメモリ帯域を持つため、VRAM内にモデルが収まる条件ではDecode性能も期待できます。
速度を重視する個人向けローカルLLMでは、現在もっとも有力なGPUのひとつです。
8-5. 48〜72GB
この容量になると「RTX PRO」が中心になります。
代表的なのが、
RTX PRO 5000 Blackwell 48GB / 72GB
です。
・70B:4bit〜8bit
・100B級:4bitは72GBクラスが目安
など、大型モデルを1枚のGPUで扱いやすくなります。
ただし価格性能だけで見るとGeForceとの差が大きいため、
1枚のGPUに大容量VRAMが必要
という目的が明確な場合に向いています。
8-6. 96GB
「RTX PRO 6000 Blackwell」では96GBを利用できます。
・70B:8bitも利用しやすい
・100B級:4bit中心
・大型MoE
などを1枚で扱えるのが大きな強みです。
一方、価格はRTX 5090を大きく上回ります。
そのため個人用途なら、
RTX 5090複数枚
との比較も必要になります。
9. RTX 5090 + FreeTokenで大型MoEを動かす
通常、RTX 5090のVRAMは32GBなので、約160GBある「DeepSeek-V4-Flash」の公式チェックポイントをそのままGPUへ載せることはできません。
しかし、MoE向け推論エンジン「FreeToken」を使うことで、RTX 5090 1枚でも実行できます。
9-1. FreeTokenとは
FreeTokenは、VRAMに収まらない大型MoEモデルをNVIDIA GPUで実行するための推論エンジンです。
MoEが推論時に一部のExpertだけを使う性質を利用して、
・頻繁に使うExpert → GPUのVRAMにキャッシュ
・その他のExpert → CPU RAM側に保持
必要に応じてCPU実行やGPUへの転送を行います。
そのため、
32GB VRAM + 大容量システムRAM
でも、VRAMを大きく超えるMoEモデルを実行できます。
9-2. RTX 5090でDeepSeek-V4-Flash
DeepSeek-V4-Flashは、
総パラメータ:約284B
Active Parameter:約13B
のMoEモデルです。
FreeTokenのRTX 5090での研究ベンチマークでは、約22〜25 tok/sという結果が報告されています。
つまり、
RTX 5090 1枚でもDeepSeek-V4-Flashを実用的な速度で動かせる可能性がある
ということです。
ただし、速度はCPUやRAM帯域、プロンプト長などによって変化します。
9-3. システムRAMも重要
FreeTokenではモデルの一部をCPU RAMへ置くため、RAM容量とメモリ帯域も重要です。
DeepSeek-V4-Flashでは、
CPU RAM:256GB程度を推奨
とされてます。128GBでは不足する可能性があります。
10. Mac Studioとの違い
NVIDIA GPUとMac Studioでは、強みがかなり異なります。
NVIDIA GPUは、
・高速なGDDRメモリ
・Tensor Core
・FP8 / FP4
・CUDAエコシステム
が強みです。
そのため、
モデルがVRAMに収まるなら高速に動かしやすい
という特徴があります。
一方Mac StudioではCPUとGPUが大容量のユニファイドメモリを共有します。9月発売予定のM5 Ultraでは最大512GBを利用できます。
したがって、
・数十Bモデルを高速に動かす → NVIDIA GPU
・100B〜数百Bモデルを1台に載せる → Mac Studio
という傾向があります。
ローカルLLM用途では、
NVIDIA GPUは速度、Mac Studioは大容量メモリ
という違いを意識すると選びやすくなります。
