タイまで「台湾統一支持」へ これは中国外交の勝利なのか、それともタイ外交の失敗なのか【n+マーケット】

タイが中国との共同声明で、台湾について「平和的統一を支持する」と明記しました。
さらに、
「一つの中国」政策を支持し、
台湾を中国の不可分の一部と認め、
台湾独立を支持せず、
「一国二制度」まで支持する。
私は、この内容を見て正直かなり残念に感じました。
なぜならタイは、もともと中国側の国ではないからです。
タイは米国にとって、東南アジアでも特に長い歴史を持つ同盟国の一つです。
日本とも長年にわたり経済関係を築き、日本企業はタイに数多く進出してきました。
自動車、電機、部品、製造業など、日本企業とタイ経済は何十年もかけて関係を積み上げてきました。
また日本で働き、暮らしているタイ人もいます。
つまり日本とタイの関係は、単なる政府間外交ではありません。
企業、人、雇用、生活まで含めた関係です。
だからこそ今回、
「なぜそこまで中国側の主張に踏み込む必要があったのか」
という疑問が残ります。
もちろんタイにも事情があります。
中国からの投資は欲しい。
中国市場も重要。
中国企業によるEV、製造業、データセンターなどの投資も増えている。
自国の利益を考えれば、中国との関係を悪化させたくないという判断自体は理解できます。
しかし、
中国と仲良くすることと、台湾統一を支持することは別の話です。
ここを一緒にしてしまったことが、今回のタイ外交の一番惜しいところだと思います。
外交では「言わないこと」も重要
タイは本来、
「一つの中国政策を維持する」
だけでも十分だったはずです。
あるいは、
「台湾海峡の平和と安定を重視する」
「両岸問題は平和的な対話によって解決されることを期待する」
程度にしておけばよかった。
これは現在の日本の考え方にも近いものです。
日本政府は、台湾海峡の平和と安定は国際社会全体にとって重要であり、台湾を巡る問題は平和的な対話によって解決されることを期待するという立場を繰り返しています。
2026年5月の日米外相会談でも、日米は台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて確認しています。
つまり、
台湾独立を支持する必要もない。
中国との関係を壊す必要もない。
それでも、
「統一を支持する」とまで言わない選択肢は十分あった。
外交とは、すべてについて態度を明確にすればいいというものではありません。
むしろ大国の間にいる国ほど、
何を言うか。
何を言わないか。
どこまで踏み込むか。
その距離感が重要です。
私は今回、タイはその距離感を少し間違えたのではないかと思います。
しかし、もっと考えるべきなのは中国の外交です
一方で、中国側から見ると今回の出来事はかなり巧妙です。
中国はタイに、
「米国との同盟を破棄しろ」
とは言っていません。
「日本企業を追い出せ」
とも言っていません。
タイはこれまで通り米国と軍事協力を続けてもいい。
日本企業とも付き合っていい。
そのうえで、
「台湾問題だけはこちらの立場を支持してください」
と少しずつ取っていく。
ここが中国外交の怖いところだと思います。
中国にとって、タイを完全な中国陣営に入れる必要はありません。
もっと現実的な目的があります。
それは、
台湾有事のときに、タイを日米側で積極的に動けない国にすることです。
もし台湾有事が起き、
米国がタイに協力を求めたとします。
基地。
空域。
補給。
情報。
後方支援。
そのときタイ国内では必ず、
「我々は中国の平和的統一を支持すると公式に表明している」
という議論が出てくるでしょう。
中国からすれば、それだけでも十分なのです。
味方にする必要はない。
相手の味方を動きにくくすればいい。
私は、中国の東南アジア外交はこの発想で見ると非常に分かりやすいと思います。
そしてタイだけではない
今回の記事で本当に見るべきなのは、タイ単独の問題ではありません。
ベトナム。
ミャンマー。
カンボジア。
そしてタイ。
少しずつですが、「一つの中国」支持から「統一支持」へ踏み込む国が増えています。
これは点ではなく、線として見るべきでしょう。
中国は台湾周辺で軍事演習を繰り返すだけではありません。
経済。
投資。
インフラ。
貿易。
外交。
こうしたものを使いながら、
台湾を外交的にも包囲している。
私はむしろ、こちらの方が長期的には重要だと思います。
戦争というと、私たちは戦闘機やミサイル、軍艦ばかりを想像します。
しかし国家間の争いは、その前から始まっています。
相手国の友好国を減らす。
自国を支持する国を増やす。
中立国を増やす。
国際世論をつくる。
経済的依存を高める。
これもすべて戦略です。
台湾有事はタイにとっても他人事ではない
そして私は、タイにはここをもう少し考えてほしいと思います。
台湾有事が起きれば、影響を受けるのは台湾だけではありません。
日本。
フィリピン。
南シナ海。
東シナ海。
半導体。
エネルギー。
海上輸送。
航空路。
サプライチェーン。
東アジアと東南アジア全体が影響を受けます。
当然、タイも無傷ではいられません。
中国との貿易が重要だからこそ、戦争になれば困る。
日本企業の工場が多数あるからこそ、日本経済が混乱すればタイも困る。
米国との安全保障関係があるからこそ、米中対立が激化すれば難しい立場になる。
つまりタイにとって最も重要なのは、
中国の統一を支持することではなく、台湾有事そのものを起こさせないこと
ではないでしょうか。
だから本来なら、
「統一支持」
ではなく、
「台湾海峡の平和と現状維持を強く求める」
ことこそ、タイ自身の国益にもかなうはずです。
私は「裏切り」とまでは言わない
日本から見ると、
「長年日本企業がタイに投資してきたのに」
「米国とも同盟関係なのに」
「なぜ中国側にここまで寄るのか」
と感じるのは当然だと思います。
ただ、私はこれを「日本や米国への裏切り」とまでは言いません。
国家は友達ではありません。
最終的には、自国の利益で動きます。
タイが中国から投資を引き出そうとすること自体は、国家として理解できます。
問題は、
その利益を得るために、どこまで外交的な言葉を差し出すのか
です。
短期的には中国から評価されるかもしれない。
投資も増えるかもしれない。
しかし長期的には、
米国から、
「有事のとき本当に協力してくれるのか」
日本から、
「タイはどちら側に立つ国なのか」
台湾から、
「タイは自分たちの将来を中国側から決めている」
と思われる。
外交の信頼とは数字に表れません。
しかし一度疑われ始めると、その影響は長く残ります。
中国外交は上手い。しかしタイ外交は本当に上手かったのか
私は今回、
中国外交としては上手かった。
しかし、
タイ外交として上手かったかは疑問です。
中国は欲しかった言葉を手に入れました。
一方タイは、中国との関係改善という短期的な利益のために、これまで築いてきた「米中双方と付き合える国」という価値を少し傷つけた可能性があります。
大国のどちらかについていくことだけが外交ではありません。
むしろタイのような国にとって最大の資産は、
「どちらとも話ができる国であること」
だったはずです。
だから私は今回の声明を残念に思います。
中国と付き合うなという話ではありません。
中国とも付き合えばいい。
日本とも付き合えばいい。
米国とも付き合えばいい。
台湾とも経済交流を続ければいい。
そのために必要なのが、
一線を越えない外交です。
大国の間にいる国ほど、
大きな声でどちらかを支持する必要はありません。
むしろ必要なのは、
自国の選択肢を最後まで残しておくこと。
それこそが本当の外交力だと思います。
今回タイが失いかけているのは、米国や日本そのものではありません。
もっと重要なものです。
「どちらにも縛られずに動ける余地」です。
私はそこが、このニュースの最も重要な部分だと思います。
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