なぜか忙しさと収益が比例しない経営者へ|人時売上高・人時生産性という経営視点
第1章 「忙しい=稼げている」ではない
時間と売上の関係を疑う必要がある理由
「今月は本当に忙しかった。でも思ったより売上が上がっていない」
この感覚、経験したことがある方は多いはずです。
体は動き続けている。スタッフも頑張っている。
でも月末に試算表を見ると、「これだけ働いてこれだけ?」という違和感が残る。
この違和感の正体は、時間と売上の関係を見ていないことにあります。
忙しさは「投入した時間の量」です。
でも利益は「1時間あたりにどれだけ稼いだか」と「何時間使ったか」の掛け算です。
同じ月次売上200万円でも、
200時間で稼いだ会社と、500時間で稼いだ会社では、
「稼ぎの効率」がまったく違います。
時間単位で見ると見えてくること
月次売上・月次利益・粗利率は「月単位」の数字です。
これだけでは、時間を効率よく使えているかどうかが見えません。
「1時間あたりいくら稼いでいるか」という視点を加えることで、
初めて見えてくることがあります。
なぜ採用したのに楽にならないのか
なぜ受注を増やしても利益が増えないのか
どの仕事を受けてどの仕事を断るべきか
これらの判断は、時間単位の指標なしには精度が上がりません。
第2章 人時売上高とは何か
定義と計算式
人時売上高とは、1人が1時間働いたときに生み出す売上額を示す指標です。
計算式:売上高÷総労働時間
総労働時間とは、その月に会社全体で使った労働時間の合計です。
スタッフ3名が各月160時間働いていれば、総労働時間は480時間。
たとえば、月次売上240万円・総労働時間480時間なら、
人時売上高は240万÷480=5,000円/時間。
1時間あたり5,000円の売上を生んでいる、ということです。
人時売上高が低い会社に起きていること
人時売上高が低い会社は、時間を大量に使っても売上が伸びにくい構造にあります。
たとえば、人時売上高が3,000円/時間の会社で、
月次売上を50万円増やしたいとします。
必要な追加労働時間:50万÷3,000円=約167時間。
週に換算すると約42時間分の追加労働が必要です。
これは1人がほぼ1ヶ月フルで働く量に相当します。
でも人時売上高が6,000円/時間の会社なら、
同じ50万円の売上増加に必要な追加時間は83時間。半分です。
「頑張っても売上が伸びない」という感覚は、
人時売上高の低さという構造的な問題から来ていることがあります。
第3章 人時生産性とは何か
定義と計算式
人時生産性とは、1人が1時間働いたときに生み出す付加価値額を示す指標です。
計算式:付加価値額(粗利益)÷総労働時間
人時売上高が「売上÷時間」なのに対して、
人時生産性は「粗利益÷時間」です。
たとえば、月次粗利益120万円・総労働時間480時間なら、
人時生産性は120万÷480=2,500円/時間。
1時間あたり2,500円の付加価値を生んでいる、ということです。
人時売上高と人時生産性の違い
この2つの指標は、何が違うのか。
人時売上高は「売上ベース」の効率。
人時生産性は「付加価値ベース」の効率です。
外注費・仕入れが多い事業では、
売上は高くても付加価値(粗利)は低いため、
人時売上高と人時生産性の差が大きくなります。
たとえば、月次売上300万円・外注費150万円・粗利150万円の会社で、
総労働時間が600時間なら、
人時売上高:300万÷600=5,000円/時間
人時生産性:150万÷600=2,500円/時間
売上ベースで見ると時間効率は良さそうに見えますが、
付加価値ベースで見ると2,500円/時間しか生んでいない。
外注費が多い事業は、人時生産性で見たときに実態が分かります。
第4章 時間単位の分析が採用・価格・業務設計を変える
採用判断への活用
採用を検討するとき、「人が足りないから採る」という判断だけでは不十分です。
採用した1人が現在の人時売上高水準で働いた場合、
どれだけの売上・粗利を生むかを試算することが重要です。
たとえば、現在の人時売上高が4,000円/時間で、
採用する人が月160時間働くとすると、
期待できる月次売上増加:4,000×160=64万円
この64万円から人件費(月給+社保)を引いたときにプラスになるかどうかが、
採用判断の数字的な根拠になります。
月給30万円・社保込み35万円のスタッフを採用した場合、
月次売上増加64万円に対して人件費35万円。
粗利率が50%なら粗利増加は32万円。
人件費35万円を下回るため、現在の人時売上高では赤字になる計算です。
「忙しいから採る」前に、「今の時間効率で採用は正当化できるか」を確認することが、
労働分配率を悪化させない採用判断の基本です。
受注・価格判断への活用
人時売上高・人時生産性は、受注の取捨選択と価格設定にも使えます。
同じ時間を使うなら、人時生産性が高い仕事を優先する。
たとえば、2つの案件があるとします。
案件A:売上50万円・外注費10万円・所要時間80時間
→ 人時生産性:40万÷80=5,000円/時間案件B:売上80万円・外注費50万円・所要時間80時間
→ 人時生産性:30万÷80=3,750円/時間
売上だけ見ると案件Bが大きく見えます。
でも時間当たりの付加価値は案件Aの方が高い。
同じ80時間を使うなら、案件Aを選ぶ方が会社に残るお金が多い。
この視点がないと、「売上が大きい案件を優先する」という判断が続き、
時間を使うほど利益率が落ちていく構造が固定化します。
第5章 自社の時間効率をどう読むか
自己診断のポイント
以下を確認してみてください。
先月の総労働時間を把握しているか
月次売上÷総労働時間(人時売上高)を計算したことがあるか
月次粗利益÷総労働時間(人時生産性)を計算したことがあるか
この3点のうち「計算したことがない」ものがあれば、
「時間単位の効率を測る軸がない」状態です。
忙しさと収益のギャップを感じているなら、
まず総労働時間を把握して人時売上高を計算してみることから始まります。
次に確認すべきもの
人時売上高・人時生産性の意味が整理されると、次の問いが生まれます。
「自社の人時生産性は、業種の目安と比べてどの水準にあるか」
「人時生産性を上げるには、受注の構成・価格・外注比率のどこを変えるべきか」
「採用した場合、現在の人時売上高で採算が合うかどうかを計算する手順はどうなるか」
これらは、時間単位の指標を理解した上で、
はじめて設計できる問いです。
次の記事では、
自社の人時売上高・人時生産性の計算と業種別目安の判断基準
人時生産性を上げる3つのアプローチとその優先順位
採用・受注・価格判断への時間単位分析の応用設計
を現場ベースで解説します。
「時間単位で見ることの意味は分かった。では自分の会社でどう計算し、どう使うか」
その設計に入っていきます。
【Numera Flow「数字を、経営の流れに」】
