思い込みは時に人を傷つけ、時に人を守る
先月から、毎月20日の日に花を買うようにしている。お世話になっている家族療法の先生が「花は亡くなった方に捧げるものでありつつ、亡くなった方からあなたへ『生きているあなたが、生きているうちに、生きている花を楽しんでください』というメッセージを受け取るものでもある」という話に影響された。
その頃たまたま大きい駅の角っこにかわいい花屋さんを見つけて、1,100円のサービスブーケを買った。花はすぐ枯れるというイメージだったが、毎日茎の先を水切りして、ホームセンターで売っていた「花が長持ちする液」をほんの少し入れると、10日くらいは持つ。暑い日は花瓶の中に氷を入れてあげるとなお良い。
お花の世話をする日々を楽しんでいるが、やはり枯れた時はさびしい。サービスブーケは5種類くらいの花が1本ずつ入っているのだが、1週間ですでにあやしい子もいれば2週間は粘る子もいる。特に最初に買った花束の、青いガーベラは結局16日くらいは元気でいたことから「ふむ、ガーベラは強い花なんだな」と思ったりした。
その次に買った花束に、ピンクのガーベラが入っているものを選んだ。すると今度はピンクのガーベラが一番最初にしおれた。もしかしたら色も関係があるのかもしれないが、一概に「ガーベラは強い花」だとは言えないみたいだ。
私たちはすぐ「A=B」という思い込みを持つ。Z世代は打たれ弱い、赤羽は酔っ払いの街、男は料理ができるとモテる、などなど。人は「なんかよくわからない」が大嫌いだ。難解な哲学書や数学の本は全然売れず、わかりやすいyoutubeのショート動画は何万回も人々に再生されている。
アーティストのふくしひとみさんは岩手の出身で、そのお家では野菜やお米はもちろん梅干しといった保存食も全て手作りで作るお宅だった。しかし「味噌だけは買った味噌を使うように」という言い伝えがあった。
不思議に思ったふくしさんがご親戚に「なぜうちは味噌は作らないの?」と聞いたところ、なんでもまだ自動車が普及していない時代。ふくしさんのひいお祖母さんが病に伏せっていた冬のある夜、ひいお祖母さんが「買ったお味噌が食べたい・・」とつぶやいた。しかし家にあるのは自家製の味噌。そしてその集落に店はなく、あるとしたら山を下り町まで買いに行かねばならない。
意を決したお祖母さんの妹さんは夜中に出発し雪の山道を歩いて下り、なんとか町の店まで辿り着き味噌を買った。休まず雪道を歩き続け今度は山を登り翌日夜中に家に戻った。しかしその時にはもうひいお祖母さん、つまり祖母たちにとって母は亡くなっていた。その体験からお祖母さんたちは「家に買った味噌さえあれば。手作りの味噌なんかなければ」と、それから味噌を作らなくなったらしい。
人はふかい悲しみの中で、つい犯人を求める。あれさえあれば、もしくはあれさえなければ。10年、20年。もしかしたら一生経っても塞がらない傷を抱えることだってある。痛みがまだ激しく時間ぐすりしかない時、そうした悪者や犯人がいた方が、なんとか痛みを堪えることができるのかもしれない。
話は全然変わって、2020年代、ある男子大学生のお話。
彼は三井住友○行という、誰もが知る某銀行に就職が決まった。彼は着任早々教育係にパワハラに遭うが、彼はもともと「三井住友○行=パワハラの巣窟」というビリーフを持っていたため「さすが三井住友、こうでなくっちゃ!」とかえって感激したらしい。
パワハラにあってもそれが彼の中では当たり前になっていたが、2年目研修の時に本社で全員自己紹介をする際、彼は元気よく「毎日パワハラに遭いながら頑張ってまーす!」と笑顔で話したところ、人事が真っ青になってヒアリングしてきて、その教育係はすぐに飛ばされた。
私たちはすぐに、事実を省略して歪曲する。
タイタニックはどんな映画?と聞かれた時、大抵の人は3時間のあらすじ全てを話すのでなく「船が沈む映画」とか「Tのポーズする映画」とわかりやすくする。でももしタイタニックを知らないけどラブロマンスが好きという人が「あの映画はね、船が沈むやつだよ」と聞いたら「じゃあパスでいっかな」となってしまうだろう。
「あいつはミスばかりで仕事ができない」とか「あの職場はもう変われないよ」など、人はいとも簡単に間違った思い込みをする。できれば思い込みは少ない方が人生はうまくいく。
でも悲しみの中で藁にもすがる想いで「買った味噌さえあれば」と真実とは違う方向を憎んだり、毎日肩パンされても「SMBCでパワハラは当たり前~!」と笑顔で乗り切る人の話を聞くと、「A=B」と単純化することが一概に悪いとは言えない。
そもそも全ての事象は「A=B」と単純化することなどできない。人の心がその最たる例である。嬉しくて悲しい。好きで憎い。
幾十にも複雑に重なり微細に動き続ける花びらのように、その複雑さの奥からかなしみやおかしみの光が透き通って見える気がしている。
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最後までお読みくださり、ありがとうございます。書き続けます。
