忘れ去られていたフレンチトースト
冷凍庫の壁面に遠慮がちに佇んでいた
フレンチトースト
入れ替わりの激しい冷凍野菜や肉類を
優しい眼差しで見送り続けていた彼女は、
もぅ自分の賞味期限は分からない
異常な暑さが始まって、
冷え切った透明な塊の居場所を確保する為に、
いよいよ出て行くことを覚悟していた
………
食パンの賞味期限が切れるのが思いのほか早くて、
まとめ買いされた卵と申し訳程度の牛乳と共に、
甘い甘い魔法の粉と混ぜ合わされて冷凍されていた
袋分けされた仲間は
おバさんの逃避行へと連れて行かれたが、
彼女は今まで黙っていた
帰って来たおバさんが気付いてくれるのを待つ為に
………
探されることはついぞ無かったが
誰かの為に居場所を譲るため、
彼女は遺されるモノたちへ別れを告げていた
〜願い〜
は何処かで叶えられていくものなのか、
いよいよ諦めかけていたおバさんの
注意を惹くことに繋がった
………
茹だるような暑さを
開け放たれた窓からの風に委ねられて、
台所の水切りラックの横で硬直していた身を解す
普段、昼食をあまり摂らないおバさんが、
彼女のために設けた晴れ舞台
濃厚なコクと甘みがフライパンの上に落とされたひとかけらのバターから立ち昇り、彼女の置かれるべき場所へ誘う
燦々と降り注ぐ真夏の陽射しで日に灼けるのではない、芳しき濃厚な旨味と共にこんがりと化粧を施される
今回のために、
特別な時でしか使われないフリーズドライの苺を、煌びやかなアクセサリーとして纏わせて…
………
…そうして
忘れ去られていたフレンチトーストは、
待ち望まれていたのだと知る。

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