『Tシャツが乾くまで』 1話 好きな人フィルターの掃除は…
今年の夏クールで一番期待しているドラマが始まった。主演 蒼井優。TBS初脚本となる「silent」『海のはじまり』の生方美久、演出には『カルテット』『花束みたいな恋をした』の土井裕泰という盤石の布陣。
第1話放送まで公式HPの相関図は未公開、役名も登場人物の名字は伏せた状態で発表、あらすじも必要最低限の情報のみ。という情報封鎖戦略の中始まったが、その“企み”は成功したと言っていいだろう。
唯一明かされていたログラインが、「⼆組の夫婦の、喪失から始まる“愛”と“秘密”の物語」なのだが、事前に視聴者の多くが想像していた夫婦の組み合わせが、蒼井優×中島歩と夏帆×松山ケンイチ。が、1話で明らかになった夫婦の組み合わせは、蒼井優×松山ケンイチと夏帆×中島歩だった。勿論、想定内という人も居ただろうが、「そっちの組み合わせなんだ!」と開始早々にキャストの配役で驚いた人も少なくないだろう。しかし、始まってみれば予定外の組み合わせでもしっくりきてしまうのがおもしろい。これがプロデューサーのキャスティング力なのだろう。そして、それはラストで明かされる驚きの「疑惑」に説得力を持たせるための“仕掛け”でもあったのだ。
次に驚いたのがとある事故に巻き込まれたあずさ(夏帆)が早々に退場してしまう展開。『あんたが』を皮切りにさらに需要が高まっているあの夏帆を1話で退場させるなんて誰が想像しただろうか。しかも、同じ事故で松山ケンイチも行方不明になってしまうなんて…。私がこのドラマを待ち遠しく思っていた一つに松山ケンイチ演じる充の質感がある。『時すでにおスシ』の魚組長とは真逆の柔らかなで繊細な表情と発話。私が知らぬ間に求めていた松山ケンイチがそこには存在していたのだ。でも、行方不明。信じられるか?今年、オファーが殺到している俳優の一人である松山ケンイチまでもがほぼ退場ルートなのだ。こちらが思わず「待ってくれよ!!」と言いたくなるような涙ぐましい展開だ。
そして、一番驚かされたのがラスト1分に樹生(中島歩)の口から明かされる“ある疑惑”。
「ホントにステキな人ですね、旦那さん」
「でも、僕の妻と不倫してましたよね?」
序盤からなんとなく感じていた違和感。東京に住む二人が事故に遭ったのは長野県。充もあずさも「ちょっと出掛けてくる」と言い出掛けたこと。いつも余るのフィナンシェを多めに作っていた充、いつの間にかフィナンシェが好きになっていたあずさ。咲子の自宅を見て意味深な表情を浮かべる樹生。ババババババっと全てが繋がった気がした。それでも、咲子の好きな人フィルターも曇りそうになる度に充が掃除をしてくれていて、そのフィルターはずっと綺麗なままだったのではないか。それは誤魔化すための掃除ではなく、相手の喜ぶ顔を見るための掃除だ。わたしはまだ、咲子の好きな人フィルターを信じてみたい。
やはり、生方美久脚本にはうっすらと坂元裕二エッセンスを感じる。樹生が病院で妹の実樹と交わした会話もその一つ。
「あっ、回転ずしいくらだった?あと新幹線も。新幹線だよね?あ、タクシー使った?」
心がぽっきりと折れてしまいそうな時でも、お金の心配をしたり、子供の成長を喜んだり、小さな営みを続けていこうとする樹生の姿に坂元裕二の『それでも、生きてゆく』の“小さな生活が大きな物語から人を守ってくれる”を感じた。
このドラマで、はじめに彼らの身に起こるお話はとても大きなものだし、次から次へと大きなお話が訪れるけど、わたしはそのお話に彼らの感情が流されるのを邪魔するように描こうと思いました。事件が起きるたびに登場人物は小さなことに目がいき、妙にこだわってしまう。大きい広い高いじゃなくて、小さくて狭くて低い視線で、事件に比べたらどうでもいいことを同じ比重で描こうって思っていたんだと思います。
咲子や樹生にこれからどんな大きな物語が降りかかってくるのだろうか。もし、涙が止まらなくなったら、乾燥がバカになったドラム式を乾燥フィルターの掃除をして“正常”に戻すように、ご飯を食べたり、洗濯物を畳んだり、誰かとお喋りして、少しずついつもの生活を取り戻していってほしい。
