2025年YBCルヴァンカッププレーオフラウンド第2戦横浜FC-セレッソ大阪「宴の後で」
試合後三ツ沢の坂を下って公園の前を歩いていると子供たちの声が聞こえる。
「え?横浜FC勝ったの?珍しくない?」「降格圏にいないじゃん」
大逆転勝ちをしても、横浜への認識はこの位のものである。夢のような時間から一気に現実に引き戻される。この日がルヴァンカップであることを知らず、どこかのウェブサイトの順位表を見たのだろう。だとしても、自分たちのこれまでの常識や認識に反した情報を植え付けられただけ進歩していると思う。J1に上がっても勝てない横浜、いつも降格圏にある横浜、これまでの戦いでこびり付いていたある種の固定観念は少しずつ剝がしていくしかない。
たった1時間前に三ツ沢の丘で起こった奇跡が、自分たちの固定概念を剥がしていったように。
薪をくべる
ルヴァンカップのプレーオフラウンド第1戦を4-1と落としている横浜はこの第2戦で最低でも3ゴールが必要となる。同点にして延長戦、PK戦で勝ち越すか、90分で4点奪って逆転するか。それを達成するにはセレッソにはこれ以上1ゴールも与えられないタフな条件が課せられていた。1ゴール与えたら、3ゴール必要が4ゴール必要に、4ゴール必要が5ゴール必要になる。
そしてセレッソとの対戦成績も非常に悪い。通算3勝13敗。点差、相性とも横浜には悪い条件が揃っている。どこかの試合のプレビューでも、セレッソの懸念事項は「油断だけ」とすら書かれる始末。
試合が始まってもサポーターは意気軒高なれど、試合内容はセレッソが優勢。前線に外国人選手4人を並べて一気に攻め倒しにきている。横浜は前半から守勢を強いられる。わずかに左サイドのラインはやや攻撃は通るがそれでもシュート1本も放てないでいた。刻々と時間は過ぎていく。希望の火はどんどん小さくなっていく。
試合が動いたのは、前半42分。新保が左サイドから斜めにいれた浮き球のボールをセレッソGK福井が後ろに逸らし、そこに詰めていた森をペナルティエリア内で倒してしまい横浜がPKを獲得。さらにボールに対してではなく、森を後ろから倒してしまったことでGK福井は退場に。セレッソは、控えのGKがキム・ジンヒョンなので、外国人選手を一枚下げなければならない事態に。
福井とすれば、プレスにいった森は見えていたはずで、トラップフェイントをすれば森は止まると考えていたのか、違うところに視線を送っておりボールが見えていなかったのか、トラップをせず後ろにボールを逸らしたことがこのPKを誘発させた。
さらに、ここで無理やり倒して退場処分になったことも問題で、仮にボールを奪われゴールを許しただけであれば、2試合トータルで2-4と2点差で11対11で試合は前半と変わらセレッソが優位に進められたはず(福井へのカードがイエローになったとしても)。ボールがゴールに入るのを許したくないGKの習性が、勝ってしまった。
余談だが、4年前の愛媛-相模原戦でもスローインが直接ゴールに入っても得点とは認められないとわかっていても、ボールがゴールに向かって飛んでくると手が出てしまい失点となったのを思い出していた。
このPKを倒れた森自身が蹴る。左隅に蹴ったボールはGKジンヒョンに触られながらも脇の下を通しゴールとなった。横浜に移籍して2年目。昨年は第3節で前十字靭帯損傷で1年を棒に振り、今年は春前に鎖骨骨折と怪我が多いストライカーがようやく移籍後初ゴールを決めた。
前日7日に誕生日を迎えた自身の、本人が欲しくて仕方なかった横浜での待望の、そしてルヴァンカップを勝ち上がるという小さな希望の火種は消させない。
風を吹き込む
1点先制した横浜は後半頭から小川、駒沢に代えて鈴木武蔵と駒井を投入。こうした采配は四方田監督ではなかなか見かけなかった。相手が一人少なくなりディフェンスラインを下げて対応することを視野にいれて、運動量重視ではなく、決定力重視にスイッチ。相手の体力が落ちてくるのを待つのではなく、こちらから矢継ぎ早に仕掛けて追加点を目論む。
セレッソが後半5バックにしたこともこの効果をさらに増すことになる。セレッソ陣内に大きなスペースが左右に存在した。元横浜の吉野は、セレッソ移籍初戦で3点差ある中での試運転で連携などもまだまだの部分もあり、横浜はエリアを押し込むことができた。
後半は大半の時間が横浜の時間。左右のエリアでボールを保持しクロスを供給し続ける横浜と、粘り強く跳ね返し続けるセレッソ。2点差になり、横浜はサポーターも含めて勢いがあるが、次のゴールが遠いと次第にしぼみやすい。
ユーリのシュートがポストを叩く。もう1点の可能性は感じている。後半25分には櫻川と山田を入れてボールの保持には安定感が出て、前線に明確なターゲットが生まれた。風は横浜にあるがまだゴールに靡いていない。
火に油を注ぐ
後半32分遠藤が登場。右サイドでキレを見せるドリブラーはセレッソとの第1戦は後半41分からの出場でこの試合は後半32分から。四方田監督からの信頼度は9分間上がったのだろう。後半34分には遠藤のクロスの跳ね返りの駒井のボレーシュートはゴールの枠をとらえられなかったが、後半39分遠藤が突破して生まれたコーナーキックから横浜の希望を大きくするゴールが生まれた。
コーナーキックが流れ、逆サイドの新保が回収して再び右サイドにいた福森に。福森の左足から低空の鋭いインスイングのボールに、前線に残っていたユーリがヘディングで突き刺した。
残り10分近くになって追加点がなく、やはりダメなのかという思いと、2点なら守れる、そういった思いを一気に吹き飛ばして逆転するという気持ちに再点火させたのだった。
セレッソもここで吉野を下げて舩木を入れて6バックとして横浜の前線への放り込みを警戒。パパス監督の目指している理想のサッカーもかなぐり捨てて1点を守りにきた。しかし、この交代が裏目に出てしまうのが時の運だろうか。
後半44分、福森がディフェンスラインの裏を狙った点と点を合わせにいったクロスを入れる。櫻川とセレッソ・畠中は競り合うが、彼らの頭をボールは超えていく。出場したばかりの舩木はライン上にいたがこのボールを上手くクリアできず、大裏に走り込んでいた鈴木武蔵はダイレクトでクロスをゴールに流し込みとうとう2試合合計で4-4のタイスコアに戻したのだった。
6バックにしてまで守りを固めたが守れなかったセレッソ、90分以内に3点奪ってスコアをタイに戻した横浜。横浜の火は炎となり燃えさかった。
復讐の炎は地獄のように我が心に燃え
延長戦開始でセレッソは数的不利で押し込まれている中で、香川を投入。年齢は重ねたとは言え、日本でも屈指の創造性溢れるセンスとパス、そしてスペースへの切れ込みは怖さがある。第1戦でも彼にゴールを許している。香川がボールを持った時に生み出される時とスペースの「間」は、彼の偉大さを象徴している。数的優位な横浜も一瞬たじろぐ瞬間があった。
香川の登場で押し戻されかけた流れをスタンドから溢れた横浜の炎は一気に飲み込んでいった。延長前半14分に福森のコーナーキックを櫻川が豪快にヘディングで叩き込み遂に2試合合計5-4と逆転。
延長後半は、逆にリードした横浜がセレッソの攻撃を守る立場に変わったが、しっかりと無失点で守り切り横浜が勝利。ルヴァンカッププライムラウンドベスト8に進出した。横浜が過去カップ戦でベスト8に進出するのは初。天皇杯は5回戦やベスト16まで、ルヴァンカップは3回戦敗退が最高だったクラブがクラブの歴史の1ページを更新した。
丘を下り
試合後、麓の公園の子供たちの声でふと我に返る。この試合は確かに大逆転劇ではあったが、それは相手GKの退場が引き金になったのであって11対11だったらここまで上手くいったとは考えにくい。
セレッソは、GKの退場に加えて攻撃の要ヴィトール・ブエノも退くことになった。後半から5バックを採り、横浜にとってスペースがありプレッシャーの少ない状態でクロスを入れることも出来た。攻撃サッカーを掲げたチームが数的不利になったら5バックで閉じこもろうとしてくれたのは逆にありがたかった。横浜も前線を運動量タイプから決定力タイプの選手にしたことは二の矢を放てたが、その後後半39分までゴールを奪えなかった。
最後6バックにしたのは、5バックで止められないなら6人でというような狼狽した指揮官の人海戦術でしかなく、それで何が改善されるのだろうどこに入れるのだろうと見ていた程だった。
四方田監督の采配は「やればできるじゃん」という魔法の言葉ではないが、相手が退場者を出したら即選手を代えてブーストをかけた。第1戦で貴重な1ゴールを決めた小倉を外したのも非情であるが当然と言えば当然。ゴールい以上に失点に絡んでおり、このまま2戦での起用は難しい判断だろう。
14日までリーグ戦はないので、ここでリーグ戦のメンバーを使っても問題ないからボニフェイス、ユーリ、新保、山﨑を惜しまず投入できた。出場機会のない選手には18日の天皇杯がまだある。
3825人。観客数がこの試合への期待値を物語っている。セレッソ側にすれば3点差あるし、過去の相性からまさか負けるなどとこれっぽっちも考えていなかったはず。万が一延長になると新横浜の新幹線の時間との戦いになり(新大阪へは21:42が最終の新幹線)、無理して行く必要のない試合だった。
横浜側も、4点取って勝つぞと気勢は上がるが、リーグ戦でなく3点差負けの状態で、多くは勝っても逆転できずに敗退だろうと想定していたに違いない。勝ち上がれないと考えているものにお金を払って見に行くのに二の足を踏んだのだろう。両チームの期待値がまるで真逆な状態が、この観客の少なさを生んだ。
冒頭の子どもたちの言葉で宴はお開きに。大逆転劇が生まれるということは、逆転する側にもされる側にもなる可能性があることを示しただけだ。リーグ戦も残留圏にギリギリ踏みとどまっている。天皇杯も一発勝負ではわからない。可能性の一端は見えたが、それだけで勝ち抜けるほど甘くないが、私たちはそこを信じて貫くしかない。歩みを止めない。
