スネアドラムが響く夜に─ラヴェルの『ボレロ』
ラヴェルの『ボレロ』が好きだ。
もともと母がお気に入りの曲で、気づけばわたしも同じように魅了されていた。
ここのところ、咳で眠れない夜に、NHK交響楽団の動画を視聴している。
演奏が始まる直前の、世界の密度が変わるような、あの静寂に惹かれる。
まず、オーボエがラの音を鳴らす。
各楽器が次々とそれに合わせていく瞬間、ワクワク感は最高潮に。
スネアドラムが一定のリズムを刻む、淡々とした静かな幕開け。
そこへ、新たな音が重なるごとに、響きは次第に厚みを増し、心地よい波となって押し寄せる。
その高揚感がたまらない。
旋律は、まずソロのフルートが担当し、その後クラリネット、ファゴットへと順に受け渡されていく。
クラリネット奏者の美しい演奏と、後頭部に跳ねる小さな寝癖。
そのギャップに、人間らしい親しみやすさを覚える。
ステージ上で出番を待つ奏者たちが、静かに準備をする様子も、つい見入ってしまう。
自分の楽器を手にして呼吸を整え、高まりゆく響きに加わる瞬間をじっと待っている。
その緊張感まで含めて、この曲の魅力だと思う。
指揮をする、広上マエストロの姿も目が離せない。
「ぱんぱぱぱ ぱんぱぱぱ ぱん ぱん」とリズムを口ずさむ。
うなずき、親指を立て、「いいですね!」と奏者たちを鼓舞する。
その一つひとつのしぐさに温かみを感じる。
クラシック音楽に造詣の深い方々に申し訳ない気持ちがあるが、この曲を聴くたびに、どうしてもわたしの脳裏に浮かぶイメージがある。
それは、絵本から飛び出してきたような、小さくて陽気なキャラクターたちが、笑いながら、踊りながら、一人、また一人と仲間を増やしていく光景だ。
スネアドラムの厳格なリズムに乗って、音の重なりとともに、彼らはその数を増していく。
気づけば辺りは、無邪気な笑い声と喜びに満たされている。
ついに、彼らの躍動感は一気に解き放たれ、圧巻のフィナーレへと向かう。
響きが極限まで高まった直後に訪れる、あの潔い幕引きがたまらなく好きだ。
その瞬間、すべての音がぴたりと止む。
割れんばかりの拍手が沸き起こる直前の、息をのむような一瞬の静けさ。
やがて訪れる熱狂の余韻に包まれながら目を閉じれば、今夜はきっと楽しい夢を見る。
