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【暑き日に小さき花がふと咲けり風邪に伏す身の枕辺に】

鉢植えの植物に水やりをしていたら、いつの間にか、ミニバラがひょっこり顔を見せていた。
気温の高い時期は株が弱ってしまうため、本来なら、あまり咲かせないほうがよい。
ところが、こちらの心配などさらりとかわして、気づいたときにはもう花を咲かせていた。


風邪をひいて寝込んでいたわたしを、元気づけてくれているようでうれしかった。
せっかくふんわりと花ひらいてくれたので、株に負担をかけないよう摘み取って、その瑞々しい色合いを冷房のきいた部屋で愛でることにした。


きっと香りはしないのだろうと思いながらも、鼻を近づけてみた。
すると予想に反して、爽やかなグリーンを思わせる香りの中に、ごくほんのりと甘さが存在していて、小さなしあわせを感じた。


しつこい咳と微熱は、3週目に入ろうとしていた。
もし1か月以上続くようなら、一度病院へ行こうと考えていたが、おかげさまで、ようやくおさまってきた。


振り返れば、このミニバラとの出会いは、去年の、まだ季節が移ろう頃のことだった。
友人に贈る花を選ぶため、花屋を訪れたときのことである。


店先に、200円ほどのミニバラの鉢がいくつか並んでいて、そのうちの一つに、目が釘付けになった。
ふんわり開いた淡いピンクの花びらに、ほんのりとアプリコット色が溶け込んでいて、なんとも愛らしい。


それはまるで、小さな鉢の中に春の光を閉じ込めたような佇まいだった。
思わず、友人へのギフトとは別に、「これも」と手が伸びていた。


ミニバラは、価格もリーズナブルで手軽に入手できる。
ところが、中には「いま咲いている花を楽しむ」ことを目的として販売されているものもある。
わが家に来てくれた「名も無きミニバラ」も、恐らく切り花と同じような扱いで、短期間だけ楽しむ用途の株ではないかと思う。


NHK出版「趣味の園芸」デジタル版の記事にも、このように書かれていた。
「草花感覚で簡単に育てられるイメージがありますが、じつはミニバラは上手に育てるのが難しいバラです」


それは情報として知ってはいたものの、あの日、あまりの可愛さに負けて、つい連れ帰ってしまった。
花が終われば、遠からず枯れてしまうかもしれない。
それでも、様子を見ながら育ててみようと思った。


気づくと、あれから一年と少し経っていた。
恐らく、これはミニバラの中でも極小の部類に入る。
そんな片手におさまるほどのバラが、酷暑の中、健気に生きている。
その姿を見ると、「守ってあげたい」という気持ちになる。


思いがけず、可憐な花に元気づけられたから、今度はわたしがお返しをする番。
そろそろタープを張って、日陰をつくってあげようと思う。


ふと窓から遠くに目を向けると、家々の屋根は茜色に包まれ、たなびく雲の上に銀色の月が浮かんでいる。


ねぐらへ帰る鳥たちと、まだ鳴き足りないと言わんばかりの賑やかな蝉の声。
風は、ほんの少し涼しくなっていた。

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