マネジャーの実像 6-1. メンバーのキャリア実現をサポートする【前編】
現代のマネジャーの実像を明らかにしようとするコラムです。今回は、視点を短期から中長期に向けて、「マネジャーはどのようにメンバーのキャリア実現をサポートするか」がテーマです。
本題に入る前に、恥ずかしながら自らの体験を開示させてください。自己開示が長くなったので、本テーマを2回に分けることにしました。
1. 人それぞれに歴史あり
私が現在勤める「中堅の研修会社」は、2回の転職を経てたどり着いた3社目の勤務先です。
遡ること学生時代、就職活動当時は、職業観も仕事観もそもそも持っていませんし、「何がやりたい」という強い願望もなく、「皆が知っている大企業がいい!」「給料はたくさん欲しい!」「マーケティングはカッコいい!営業はダサい!」など、非常に浅はかな考えしか持っていませんでした。当然、就職活動は難航し、それでもとある自動車関連の会社から遅めの内定をいただきました。
その会社は成り立ちとして「半官半民」的なところがありました。歴代トップも監督官庁からの天下りで、会社全体としても「起業家マインド」は乏しかったと思います。営業職(ルート営業)も経験しましたが特定の販売代理店への依存度が極端に高く、「自らの営業力で数字を稼いでいる」「ビジネスをやれている」という実感は、ついぞ持てませんでした。
そうした中にあって、私は常に「このままでは外の世界で通用しない人材になってしまう」という強迫観念に駆られ、専門学校に通いながら中小企業診断士の資格を取ったり、週末に国内のビジネススクールに通ってMBAを取得したりしていました。
結局、半官半民的な組織風土と閉塞感に満ちたキャリアパスに嫌気がさし、38歳で「遅い決断」をすることになります。キャリアに対する劣等感の裏返しもあり、また腕試し的な気持ちもあり、コンサル業界に転職しました。
それが私にとって就業2社目の、自動車ディーラーの再生コンサルティングファームです。独立系ではなく、ある国内自動車ディーラーの完全子会社。人員は男ばかりの30人ぐらいの小規模な会社です。再生請負人であるコンサルタントの多くは、他のコンサルティングファームから転職してきた、腕に覚えのある「野武士」あるいは「傭兵」という印象でした。
2. キャリアは一筋縄にはいかないもの
その会社がまあ、今で言うところのブラック企業でした。長時間労働、休みがない、パワハラ上等。コンサル業界ってそんなもの(?今は違うと思います💦)でしょうし、自分も覚悟をもって飛び込んだ業界だったので、とにかく耐えました。
もう12年以上も昔の話。時効でしょうから少し具体的に例示すると、毎週月曜、未だ暗い時間に自宅を出て、飛行機または新幹線でクライアント先に出張。再び自宅に帰るのは金曜の深夜。その間、平日はホテル住まいですが、勤めていた約2年間、ベッドで寝たことが3回ぐらいしかないです(笑)。部屋にある小さな机で仕事をしながら2~3時間仮眠を取る。当然、土日も自宅でPCに向かう、そんな生活でした。寝不足が常態化して二重まぶたになったのもこの時期です。
それでも、共に働く諸先輩やプロジェクトリーダーたちがナイスガイであれば救われるのですが、そうではなかったです(笑)。深夜2時だろうが、週末だろうが、容赦なく携帯電話が鳴ります。自分が未熟だったこともありますが、電話の要件は大抵、提出資料のダメ出し。普通にフィードバックくれればいいのですが、電話口で怒号がとびます(笑)。惨めな想い、悔しい想いもたくさんしました。
結局、2年でギブアップしましたが、その短い間に自分よりも若いコンサルタントが4,5人辞めていきました。中には会議で詰められて辞めざるを得ない状況に追い込まれた仲間も。私は心は病みませんでしたが、謎の体調不良に悩まされ続けました。辞めたらすぐに治ったので、精神的なことが原因だったのでしょう。
いや、酷い経験でした。二度と経験したくないし、もちろん誰にもお勧めしない、どう考えても正当化できない経験です。「ところが」です。
現在、就業3社目の研修会社で曲がりなりにもそれなりに活躍できているとすると、その理由は「この酷い経験で得た知識とスキル、培われた精神的タフさ」が利いているからです。今活用している知見、スキルの6,7割は、この2年程度の「黒歴史時代」に得たものです。また、どんなタフな状況も、「あの頃に比べればどうってことない」と、すぐさま相対化され、平常心を保てます。
職業観、仕事観、仕事の本質、厳しさ、やりがい、喜び…。全て現在の仕事を通じて確立できましたが、振り返るとそれまでのキャリアの全てが直接的に、あるいは間接的につながっています。特定のキャリアが、思い出すのもつらい「黒歴史」だったとしてもです。さて、私は何が言いたいか。
「キャリアは一筋縄にはいかない」ということです。私の場合は、紆余曲折の迷走キャリアではありますが、人それぞれ濃淡はあれど、「そんな単純なもんじゃねえよ」というのが、実感ではないでしょうか。
3. メンバーのキャリア実現をサポートすることの覚悟
さて、ここからが本題。人それぞれに歴史あり、キャリアは一筋縄ではいかないことを前提に、マネジャーはメンバーに向き合います。メンバーのキャリア実現をサポートするために。では、何がポイントとなるでしょうか。5つ考えました。

第一に、マネジャーには相応の覚悟が求められます。メンバーの職業人としての人生に影響を及ぼそうとするからですね。及ぼすつもりがない、責任を負うつもりがないならば、サポートはできません。
第二に、考えるべき時間軸が中長期になります。マネジャーのアプローチの効果が仮に現れるとしても、相当、先の話です。見えていない話をするわけですから、難易度が上がります。
第三に、マネジャーのアプローチの何が正解なのか、分かりようがないことです。キャリアについて考えることは、答え合わせできない問題に取り組むことだからです。やはり難易度は高い。
第四に、キャリアに影響を与える出来事の意義や意味はその後、時を経て変わり得るということです。マネジャーであれメンバーであれ価値判断の基準=価値観が、自らの就業体験、人生経験を経て変わり得るからです。
ところで、マネジャーを「組織の目的・目標を達成するための機能」として捉えるならば、メンバーのキャリア実現とそこに向けた取り組みプロセスそのものが、組織の目的や目標と合致するものでなければならないはずです。よって第五のポイントは、メンバーのキャリアを組織の目的・目標と整合させることです。
しかしながら既述のポイントと照らすならば、第五のポイントは大きなジレンマを内包します。なぜならば、時間軸が長く、正解が分からず、解釈も「後付け」的で、さらにその解釈も時を経て変わり得るからです。どうやって整合させるねん、という話ですね。
このような、やはり「一筋縄にはいかない」としか表現し得ないキャリアを扱うマネジャーには、覚悟はもちろん、知識とスキルとマインドが求められます。

では、これら5つのポイントを押さえた上で、マネジャーに求められる知識やスキルは何か、次回はこの点を具体的に深掘りしていきます。
