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人生ナンバーワン映画『害虫』

数年前までは人並みかそれ以下くらいしか映画を観ていなかった。
お笑いライブに頻繁に通っていた時期は「映画なんて、いつでも見られるものだから」という考えがあり、あまり興味を持てなかったのだ。
しかし、ある日「お金も時間もすごくかかってたくさんの人も関わって作られた作品が、2000円で見られるのは安いのかもしれない」と気づいた。そこからは気になる作品はなるべく映画館に観に行くようにしている。サブスクではたまにしか観ていない。

子供のころはディズニーピクサー作品が好きで、公開されるものはほとんど観に行っていた。私が小学生のときは『アナと雪の女王』『ベイマックス』『シュガー・ラッシュ』『ズートピア』『モアナと伝説の海』『インサイド・ヘッド』など、いい作品が毎年のように公開されていた。
特に好きな作品は『シュガー・ラッシュ』と『ズートピア』だ。友情をテーマにした作品が幼少期からやたら好きで、当時も感動して泣きながら観た記憶がある。今観ても滝のように泣いてしまう。

ただ、結局いちばん好きな作品は『トイ・ストーリー3』だ。公開されたときは幼稚園年長の年長で、子供心をくすぐられまくった記憶がある。母と観に行って、祖父母とも観に行った。人生で初めて劇場で2回観た映画だ。
その後も金曜ロードショーなどで何回も観ている。何度見てもハラハラするし、嬉しい気持ちにもなるし、最後は泣いてしまう。

人生ナンバーワン映画を聞かれたら『トイ・ストーリー3』と答えるくらいには、大好きだ。

しかしどうだろう。
人生ナンバーワン映画を聞かれたときに『トイ・ストーリー3』なのはちょっとダサい気がする。ダサいというか、そりゃ面白いよ、と思う。
だから、もう少しカッコいい人生ナンバーワン映画をいつか見つけたいなぁと思っていた。思ったまま時が過ぎていった。

1年半ほど前、魚喃キリコ原作『blue』の実写映画のリバイバル上映を観に行った。その日は2本立てで、もう一方の映画が『害虫』という作品だった。
『blue』を目当てに観に行ったのだが、せっかくだからとそちらも観てみたところ、あまりの衝撃で『blue』の記憶が薄れてしまった。帰りは『害虫』のことだけを考えていた。

『害虫』は2002年公開の塩田明彦監督による作品。
主人公の中学1年生の少女サチ子役は当時16歳くらいの宮﨑あおいさん。そして同級生の夏子役で蒼井優さんも出演している。

この映画、いいことがまったく起こらない。本当に、全然起こらない。
主人公のサチ子は家庭環境が複雑で、学校にも馴染めなくて、中学をドロップアウトしてしまう。学校に行かずに不良の少年とつるんだり、路上生活者の一風変わった人と遊んだり、どんどん日常から外れていくのだ。

それでも中学には“ふつうに”過ごしている子たちがいる。そのリアルな学校の描写と、学校から外れていく描写がどちらも鮮明で、すごく、すごく嫌な気持ちになる!

サチ子は少女ならではの儚さと弱さ、そして残酷さを持ち合わせている。
映画の主人公の少女というものは「儚さ」の部分を強調されたキャラクターになりがちだが、この作品は全くそうではない。ズルさも、強かさも、悪さも、意地悪さも全部持ち合わせていて、そこまで描かれている。それでいて、弱さや幼さゆえに辛いことに巻き込まれていくという悲しい展開。

作中はあまりBGMがなく、あまり意味のない日常のシーンも多い。人気のない場所をただ行ったり来たりして歩き回るシーンや、爪を切るシーン、机に突っ伏すシーンなど、その一つ一つがいい。宮﨑あおいさんの魅力がすごい。
なかなか攻めた脚本だと感じて脚本家の方について調べたのだが、どうやらこの作品しか世に出ていないようだ。クゥ・・・

この映画が私に異様に刺さっている理由は、「私もこうなっていたのかもしれない」と思わされるからだ。家庭が複雑だったら、都会に住んでいなかったら、芸能の仕事をしていなかったら、こうなっていたかもしれない、という喉元にナイフを突き立てられているような感覚が味わえる。
私もこの主人公と同じように、学校が嫌いだったけれど、人のことは好きだった。そして気兼ねなく人と関われる人間だった。
もしかしたら私も、自分自身が不幸になりながら周りの人も不幸にしてしまう、「害虫」のような少女になっていたのかもしれない。そんな、他のどんな作品でも味わったことのないこの感情が好きだ。

1年半前の衝撃をずっと薄っすら抱えたまま生活していたところ、池袋で数日だけ『害虫』が上映されるという情報をキャッチした。
私は本当にこの作品が好きなのか確かめようと、もう一度行ってきたのが数日前のこと。

改めて、私の人生ナンバーワン映画は『トイ・ストーリー3』か『害虫』だと確信した。

前回と同じくらい嫌な気持ちになったし、観終わった後は前回以上に清々しい気持ちになった。観ているときは辛いのに、観終わるとその辛さが持続しないという奇妙な体験ができる。もしかしたら、現実の自分の幸せを噛み締められるからかもしれない。

ナンバーガールが書き下ろしている主題歌が本当にいい。これも清々しさの理由のひとつ。衝動・爆発・破滅がなぜか気持ちいいのは向井秀徳のおかげもある。『I Don’t Know』という曲で、これを繰り返し聴きながら元気をもらっている。

どうしてこれが「いい」と思うのか、まだまだ言葉にできていない部分がたくさんある。しかし短い間に何度も見返したい作品でもない。
サブスクでは見られないのでまたリバイバル上映されるときには観に行こう、そう思っていたが気づいたらDVDを購入していた。

私のナンバーワン映画は『害虫』で決定。
(トイ・ストーリー5で上書きされたらどうしよう)

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