🌈私たちが知らない外国人労働者の世界 ~虐待事件から考える『技能実習、特定技能制度』とは~
🌱 はじめに
2026年、北海道京極町の農業法人で、ある事件が報じられました。
そこで働いていたミャンマー国籍の男女6人(19〜30歳)が、雇用先で暴行やハラスメントを受けていたという告発です。
背中を金属製の棒で叩かれる。
「まじめに仕事をしていない」と怒鳴られ、頭を叩かれる。
収穫した野菜を腹に投げつけられる。
「日本のご主人様は誰だ」という言葉とともに行われた暴行。
被害者のひとりは、涙ながらにこう語りました。
「毎朝起きると、今日はどういうふうにたたかれるんだろう、どういうふうに怒られるんだろうと考えた。怖かった」
このニュースを見て、多くの人は「ひどい話だ」「一部の悪質な会社の問題だろう」と感じたと思います。私自身もそうでした。
でも、少し立ち止まって考えてみると、私たちは「外国籍の人が日本でどうやって働いているのか」を、実はほとんど知らないのではないでしょうか。
🔹 コンビニで見かける外国人スタッフは、どんな資格で働いているのか
🔹 「技能実習」と「特定技能」は何がどう違うのか
🔹 農業や介護の現場は、外国人材なしで本当に成り立っているのか
🔹 なぜ、こうした事件が繰り返されるのか
この記事では、制度のしくみを一つひとつ丁寧に解説しながら、その裏側で何が起きているのかを見ていきます。
そして最後に、実はこのテーマが「私たち自身の話」でもあるという事実にたどり着きます。
少し長い記事になりますが、どうぞお付き合いください。
第1章 🗾 まず知っておきたい「在留資格」という考え方

🎫 在留資格とは「何をしていいか」の許可証
外国人が日本に滞在するときには、必ず「在留資格」というものを持っています。
よく「ビザ」と呼ばれますが、厳密には少し違います。
🔹 査証(ビザ)……入国前に、海外の日本大使館・領事館で受け取る「入国の推薦状」のようなもの
🔹 在留資格……日本に入国した後、「日本国内で何をしてよいか」を定めた資格
大事なのは、在留資格は「滞在してよい」だけでなく「何をしてよいか」まで決めているという点です。
つまり、こういうことです。
日本にいてよい、というだけでは働けない。
「その仕事をしてよい在留資格」を持っていて初めて働ける。
ここが、日本人の働き方といちばん大きく違うところです。
💳 在留カードを見れば分かる
中長期に滞在する外国人は、全員「在留カード」を持っています。
このカードの裏面には「就労制限の有無」という欄があり、そこを見れば、その人が働けるのかどうか、どんな条件があるのかが分かるようになっています。
企業が外国人を雇用するときには、この確認が法律上の義務とされています。
🗂️ 在留資格は大きく3つに分けられる
たくさんの種類がありますが、働くという観点からは、次の3つに整理すると分かりやすいです。
① 働くために来ている人(就労系)
決められた範囲の仕事ができる資格です。
🔹 技術・人文知識・国際業務……エンジニア、通訳、マーケティングなど
🔹 高度専門職……特に高度な人材向けの優遇資格
🔹 経営・管理……会社経営者、役員
🔹 教育/教授……学校教員、大学教員
🔹 企業内転勤……海外拠点から日本法人への転勤者
🔹 技能……外国料理の調理師、スポーツ指導者など
🔹 特定技能1号/2号……人手不足分野での就労
🔹 技能実習……2027年から「育成就労」へ移行
② 働くこと自体が目的ではない人
🔹 留学……本業は学業。ただし「資格外活動許可」を得れば週28時間以内でアルバイト可能
🔹 家族滞在……就労者の配偶者や子ども。こちらも資格外活動許可が必要
🔹 特定活動(ワーキング・ホリデー)……後ほど詳しく説明します
③ 就労制限がない人(身分系)
🔹 永住者
🔹 日本人の配偶者等/永住者の配偶者等
🔹 定住者……日系人など
この人たちは、日本人と同じようにどんな仕事にも就けます。
⚠️ よくある誤解:コンビニのスタッフは技能実習生ではない
ここで、多くの人が誤解しているポイントを一つ。
街中のコンビニや飲食店で働く外国人スタッフを見て、「技能実習生だろうか」と思ったことはありませんか。
実は、その多くは技能実習生ではありません。
いちばん多いのは、日本語学校や大学に通う「留学生のアルバイト」です。
週28時間以内という制限の中で働いており、本業はあくまで学業です。
もう一つが「特定技能」で、2019年に新設された制度です。
外食業も対象分野に含まれています。
なぜ技能実習ではないのか。
技能実習は対象職種が厳しく限定されており、コンビニ接客や一般的な飲食店のホールスタッフのような業務は、そもそも「移転すべき技能」として認められにくい構造だったからです。
第2章 🏭 技能実習制度のしくみ

🎌 制度の目的と「建前」
技能実習制度は、1993年に創設されました。
その目的は、こう掲げられています。
開発途上国の人材に日本の技術・技能を移転し、 帰国後に本国の経済発展に役立ててもらう。
つまり「国際貢献」が制度の目的です。
労働力確保のための制度ではない、というのが公式な位置づけでした。
しかし現実には、人手不足が深刻な農業・建設・製造業などで、労働力を確保する役割を担ってきました。
この「建前と実態の乖離」こそが、制度の抱えるあらゆる問題の出発点になります。
📌 登場人物を整理する:三層構造がカギ
技能実習制度を理解するうえで、いちばん大事なのが「誰が関わっているのか」です。
ここが複雑なので、丁寧に見ていきます。
① 送出機関(送り出し国側)
技能実習生の母国にある、政府認定の仲介業者です。
🔹 現地で実習希望者を募集する
🔹 日本語や技能の事前研修を行う
🔹 日本の監理団体とマッチングする
② 監理団体(日本側)
日本で受け入れを取りまとめる非営利団体(事業協同組合、商工会など)です。
🔹 送出機関と提携し、実習生を受け入れる
🔹 受け入れ企業を指導・監査する
🔹 実習生の相談に応じる
現在、全国に約3,800団体が存在します。
③ 実習実施者(受け入れ企業)
実際に技能実習生が働く企業です。全国に約68,000社あります。
🔍 ここがポイント
つまり技能実習生は、こういう経路で日本に来ます。
実習生 → 送出機関 → 監理団体 → 受け入れ企業
間に2つの民間組織が入るという、この三層構造。
これが後ほど説明する「借金」「中間搾取」「監督の甘さ」といった問題の温床になっていきます。この構造は、ぜひ覚えておいてください。
⏱️ 期間と段階:1号・2号・3号
技能実習には段階があります。
🔹 技能実習1号……1年目。入国後講習を含む
🔹 技能実習2号……2〜3年目。技能検定基礎級の合格が必要
🔹 技能実習3号……4〜5年目。優良と認められた監理団体・企業のみ
最長で5年間、日本に滞在できます。
🔒 制度の核心:なぜ転籍できないのか
技能実習制度の最大の問題とされてきたのが、「転籍(職場を変えること)が原則できない」という点です。
なぜでしょうか。
制度の建前が「技能移転のための実習」だからです。
実習は「特定の企業で、特定の技能を学ぶ」もの。
だから、途中で別の会社に移ることは想定されていない。
理屈としては筋が通っています。
しかし、これを労働者の立場から見ると、こうなります。
どんなに劣悪な職場でも、辞めて他の会社に移ることができない。
働く場所を選べない。逃げ場がない。
この一点が、あらゆる人権侵害を可能にしてしまう構造的な土台になりました。
📚 研修制度そのものは、実は手厚い
意外に思われるかもしれませんが、技能実習の研修制度は法令上かなり細かく設計されています。
🔹 入国前講習……送出機関が母国で実施。日本語、日本の生活習慣など
🔹 入国後講習……監理団体が日本で実施。法的保護に関する知識を含む
🔹 実施記録の作成・保存が義務付けられている
介護職種では特に手厚く、就労前に40時間以上の介護導入研修が実施されます。
さらに、EPA(経済連携協定)ルートで来日する介護福祉士候補者の場合は、日本語研修だけで675時間、加えて日本社会・生活習慣の理解に50時間、看護・介護職場への理解・適応に90時間というカリキュラムが組まれます。
国家試験の受験にあたっても、漢字への総ふりがな付記、難解表現の言い換え、疾病名の英語併記、試験時間の1.5倍延長といった配慮が制度化されています。
つまり、「入口」の設計は決して雑ではないのです。
では、なぜ問題が起き続けるのか。
それは後ほど詳しく見ていきます。
第3章 🛠️ 特定技能のしくみ

技能実習と混同されがちですが、思想がまったく異なる制度です。
🆕 2019年創設:初めて「人材確保」を正面から掲げた
2019年4月の入管法改正により新設されました。
制度の公式な説明は、出入国在留管理庁の特定技能特設ページにまとまっています。
技能実習との決定的な違いは、目的です。
🔹 技能実習……国際貢献(技能移転)が建前
🔹 特定技能……人手不足分野での人材確保が正面の目的
初めて「労働力として受け入れる」ことを、日本政府が公式に認めた制度と言えます。
📌 まず押さえたい:どうすれば「特定技能」になれるのか
制度の細かい話に入る前に、いちばん基本の疑問から片付けておきます。
そもそも、どうやったら特定技能の在留資格をもらえるのか。
答えはシンプルです。
2つの試験に合格すること。
これが原則です。
🔹 試験①:技能試験(技能測定試験)
「その仕事をこなせる実力があるか」を測る試験です。
分野ごとに、それぞれ別の試験が用意されています。
介護なら介護の試験、農業なら農業の試験、外食業なら外食業の試験、というように、16分野それぞれに専用の試験があるとイメージしてください。
実施しているのは、各分野を所管する省庁が認めた業界団体などです。
試験は日本国内でも、また各国の現地でも行われています。
🔹 試験②:日本語試験
働くうえで必要な日本語力があるかを測ります。
次のどちらかに合格すれば要件を満たします。
日本語能力試験(JLPT)N4以上……年2回実施される、世界的にも有名な日本語の検定
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)……こちらは実施回数が多く、受けやすい
N4は「基本的な日常会話がある程度理解できる」レベルです。
決して高い水準ではありませんが、まったくの初学者では届きません。
🔹 例外ルート:技能実習からの移行
実は、この2つの試験を受けなくてよいルートがあります。
技能実習2号を良好に修了した人は、試験が免除されて特定技能1号へ移行できるのです。
これが現状、いちばん多い経路です。
すでに日本で3年ほど働いており、日本語も生活基盤もある。
企業にとっても本人にとっても、最もスムーズだからです。
📋 整理すると、入口は2つ
① 海外から新規に来るルート
現地で技能試験+日本語試験に合格 → 企業と雇用契約 → 在留資格の手続き → 来日
② すでに日本にいる人が移行するルート
技能実習2号を修了 → 試験免除 → 特定技能1号へ切り替え
ここを押さえておくと、この後の話がぐっと分かりやすくなります。
⚖️ 1号と2号の違い
特定技能には2つの段階があります。
ここは丁寧に押さえておきましょう。
特定技能1号
🔹 在留期間……通算で上限5年
🔹 技能水準……相当程度の知識または経験(試験合格が必要)
🔹 家族帯同……原則不可
🔹 日本語……日本語能力試験N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト合格
特定技能2号
🔹 在留期間……更新の上限なし(事実上、長期滞在が可能)
🔹 技能水準……熟練した技能(より高度な試験に合格)
🔹 家族帯同……要件を満たせば可能
🔹 対象分野……当初は建設・造船のみでしたが、2023年に拡大され、介護以外のほぼ全分野へ
🔍 2号の意味は非常に大きい
2号になると在留期間の上限がなくなります。
つまり、事実上の長期就労・定住への道が開かれるということです。
永住申請の要件期間を満たしていく経路にもつながります。
技能実習には決してなかった「日本で生きていく未来」が、制度上、初めて描けるようになったのです。
🗾 対象16分野の全体像
2019年の開始時点では12分野でしたが、2024年3月の閣議決定により、「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野が追加され、16分野に拡大しました。
現在の16分野は以下の通りです(外務省「在留資格 特定技能」より)。
🔹 介護
🔹 ビルクリーニング
🔹 工業製品製造業
🔹 建設
🔹 造船・舶用工業
🔹 自動車整備
🔹 航空
🔹 宿泊
🔹 農業
🔹 漁業
🔹 飲食料品製造業
🔹 外食業
🔹 自動車運送業(2024年追加)
🔹 鉄道(2024年追加)
🔹 林業(2024年追加)
🔹 木材産業(2024年追加)
📊 数字で見る特定技能
在留者数は急速に伸びています。
🔹 2023年12月末……208,462人
🔹 2024年6月末……251,747人
🔹 2024年12月末……284,466人
分野別の内訳(2024年12月末時点)を見ると、実態がよく分かります。
🔹 飲食料品製造業……74,538人(26.2%)
🔹 工業製品製造業……45,279人(15.9%)
🔹 介護……44,367人(15.6%)
🔹 建設……38,578人(13.6%)
私たちが毎日食べているもの、そして介護の現場。ここに集中していることが分かります。
🔍 技能試験の中身を、のぞいてみる
さきほど「分野ごとに専用の技能試験がある」とお伝えしました。
では、実際にどんな内容なのでしょうか。
ここが、特定技能という制度の性格をいちばんよく表している部分です。
技能実習が「何時間の講習を受けたか」で管理される制度だったのに対し、特定技能は「試験に合格する実力があるか」だけを見ます。
逆に言えば、その実力をどう身につけるかは本人と現地の学校・送出機関に委ねられています。
分野ごとに、試験の中身はかなり違います。
🔹 外食業……学科30問(衛生管理・飲食物調理・接客全般)+実技15問。合格基準65%以上
🔹 宿泊業……実技試験は、従業員になった想定で質問に受け答えする接客ロールプレイ形式
🔹 農業……耕種農業・畜産農業の2区分。日本語のヒアリング試験+筆記+実技
🔹 漁業……漁業・養殖業の知識に加え、安全衛生の知識と業務に必要な日本語能力
🔹 飲食料品製造業……学科でHACCPなどの衛生管理、実技で判断試験と計画立案
🔹 介護……技能試験に加えて「介護日本語評価試験」という追加試験あり
ここに、はっきりした傾向が見えます。
接客がある分野(外食・宿泊)は、実技でロールプレイまで課される。
現場作業の分野(農業・漁業・製造)は、安全衛生の知識に比重が置かれる。
この違いは、後ほど「接客業で働く外国人の印象」を考えるときに、重要な意味を持ってきます。
🏛️ 受入れ機関と登録支援機関
特定技能では、企業側にも義務が課されます。
受入れ機関(雇用する企業)の義務
🔹 外国人と結ぶ雇用契約が適切であること(報酬額が日本人と同等以上)
🔹 5年以内に出入国・労働法令違反がないこと
🔹 「支援計画」を作成し、生活オリエンテーションなどの支援を実施すること
登録支援機関
支援計画の実施を、企業が自社で行えない場合に委託できる機関です。
国に登録された事業者が担います。
つまり技能実習の「監理団体」に相当する存在が、特定技能では「登録支援機関」ということになります。
⚠️ 意外と知られていない「人数の上限」
特定技能には、実は分野ごとの上限が設定されています。
計算式はこうです。
受入れ見込数 = 5年後の人手不足数 から 「生産性向上で減らせる分」と「国内人材の確保で埋められる分」を差し引いた数
この見込数に達すると、法務大臣が在留資格認定証明書の交付を停止できる仕組みになっています。
そして、これはすでに現実に起きています。
🔹 2026年4月、外食業分野で受入れ停止
🔹 自動車整備など、他分野でも近い将来の上限到達が予測されている
なお、令和10年度末までの受入れ見込数として、特定技能80万5,700人・育成就労42万6,200人、合計約123万人という数字が示されています。
📝 技能実習との根本的な違い(まとめ)
ここまでを整理します。
🔹 目的……技能実習は国際貢献(建前)/特定技能は人材確保(正面)
🔹 転籍……技能実習は原則不可/特定技能は同一分野内で転職可能
🔹 入国要件……技能実習は講習ベース/特定技能は試験合格ベース
🔹 将来……技能実習は最長5年で帰国/特定技能は2号なら長期滞在も可能
転籍ができるという一点だけでも、労働者の立場は大きく変わります。
🤔 では、なぜ京極町の被害者は逃げられなかったのか
ここで、いったん立ち止まりたいと思います。
京極町の被害者たちは、技能実習ではなく特定技能で働いていました。
つまり制度上は、同じ分野の別の会社へ転職できたはずなのです。
それなのに、なぜ耐え続けたのでしょうか。
理由は、「制度上できること」と「実際にできること」の間に、いくつもの壁があるからです。
🔹 来日して間もなかった……被害者たちが働き始めたのは2026年5〜7月頃。転職先を探す以前に、日本の生活自体に慣れていない時期でした
🔹 転職先を探す手段がない……日本語の求人サイトを読み、応募し、面接を受ける。日本人にとって当たり前のこの手順が、来日直後の人には極めて高いハードルです
🔹 地方で孤立していた……相談できる同郷の知人も、支援団体との接点もない環境でした
🔹 転職には手続きが必要……特定技能の転職は「辞めて次を探す」だけでは済みません。新しい受入れ機関との契約、在留資格変更の届出など、入管への手続きが伴います。これを一人で進めるのは現実的ではありません
🔹 そもそも「転職できる」ことを知らない……制度を正確に理解している当事者は、決して多くありません
🔹 借金がある……この点は第9章で詳しく見ていきます
権利があることと、 その権利を使えることは、まったく別のことです。
この記事を通していちばん伝えたいのは、実はこの一点かもしれません。
法律上の権利は、日本人と同じように保障されています。
しかしそれを行使するための足場が用意されていなければ、権利は紙の上のものにとどまってしまいます。
第4章 🔄 育成就労制度への移行【2027年〜】
技能実習制度は、まもなく歴史を終えます。
🗓️ 何が決まったのか
2024年6月21日に改正法が公布され、2027年4月1日から新制度「育成就労制度」が施行されることが決まりました。
30年にわたって日本の外国人受け入れの中核を担ってきた技能実習制度は、3年間の移行期間を経て、2030年までに完全に廃止される予定です。

🔀 何がどう変わるのか
技能実習との違いを、項目ごとに見ていきます。
🔹 制度の目的
技能実習……国際貢献・技能移転(建前)
育成就労……人材の確保と育成
長年批判されてきた「建前と実態の乖離」に、ようやく制度が現実を追いかけた形です。
🔹 期間
技能実習……最長5年(1号・2号・3号)
育成就労……原則3年(3年で特定技能1号の水準まで育てる)
🔹 転籍(ここが最大の変更点)
技能実習……原則不可
育成就労……本人の意向による転籍が、一定要件のもとで可能
具体的には、1〜2年の転籍制限期間が設定されます。
この期間は受入企業の初期投資を保護するために設けられたもので、期間経過後は本人の意向で同分野の別企業へ転籍できるようになります。
🔹 日本語要件
技能実習……原則、基準なし
育成就労……就労開始時にN5相当(A1)以上が必要。3年の在留中にN4相当への到達が想定されている
🔹 監督機関
技能実習……監理団体
育成就労……監理支援機関(要件を厳格化)
中間搾取や人権侵害の温床と批判された監理団体は、要件を厳しくした上で「監理支援機関」として再編されます。
🔹 対象分野
技能実習……86職種
育成就労……特定技能と整合性のある16分野に再編
📈 描かれるキャリアパス
新制度で想定されている経路は、こうです。
育成就労(3年) → 特定技能1号(最長5年) → 特定技能2号(更新上限なし・家族帯同可)
技能実習には存在しなかった「日本で長く働き、家族と暮らし、定住していく」という道筋が、制度として整理されました。
これは、日本が「一時的な労働力」ではなく「共に暮らす人」として外国人材を受け入れる方向へ、大きく舵を切ったことを意味します。
⚖️ ただし、批判の声もある
制度が前進したことは確かです。
しかし「これで問題は解決する」と考えるのは早いという指摘も、複数の立場から出ています。
🔹 転籍制限そのものへの批判
最大の改善点とされる転籍ですが、1〜2年は制限されるという設計です。
「初期投資を保護する」という企業側の論理は理解できます。
しかし労働者の側から見れば、最初の1〜2年は、これまでと同じく逃げられないということでもあります。
京極町の被害者たちが働き始めたのは、来日からわずか数ヶ月の時期でした。
新制度でも、まさにこの最も脆弱な時期は、転籍制限の対象になります。
🔹 監理団体は本当に変わるのか
監理団体は「監理支援機関」として要件を厳格化されますが、看板の掛け替えに終わるのではないかという懸念が指摘されています。
受入企業から手数料を得る立場にありながら、その企業を監査する。
この利益相反の構造そのものは、新制度でも残ります。
第12章で見る韓国のように、公的機関が一元管理する形にはなっていません。
🔹 日本語要件が新たな壁になる可能性
就労開始時にN5相当以上という要件は、労働者保護の観点からは前進です。しかし同時に、現地での日本語学習コストが増えることを意味します。
そのコストを誰が負担するのか。
送出機関が「日本語研修費用」として上乗せ請求すれば、結果的に借金の増加につながりかねないという懸念があります。
🔹 送出機関への規制は間接的
悪質な送出機関の排除が盛り込まれましたが、送出機関は相手国にある組織です。
日本の法律が直接及ぶわけではなく、二国間の取決めを通じた間接的な規制にとどまります。
📌 それでも、変化は変化
こうした批判は、いずれも正当なものだと思います。
同時に、30年間「国際貢献」という建前を維持し続けた制度が、ようやく「人材確保」という実態を認めたこと。
原則不可だった転籍に道を開いたこと。
これらが小さくない前進であることも事実です。
制度が変わった後に何が起きるかを見届けることが、次の課題になりそうです。
🧾 経過措置
なお、2027年3月までに入国した技能実習生は、現行の技能実習制度のまま実習を継続できる経過措置が設けられる見込みです。
第5章 💼 実は最多の「専門的・技術的分野」

ここまで技能実習と特定技能を見てきましたが、実は数の上でいちばん多いのは、この分野です。
📊 数字で見ると
2025年10月末時点で、日本の外国人労働者数は2,571,037人と過去最多を更新しました。前年から268,450人の増加です。
在留資格別の内訳を見てみましょう。
🔹 専門的・技術的分野……865,588人(33.7%)
🔹 身分に基づく在留資格……645,590人(25.1%)
🔹 技能実習……499,394人(19.4%)
技能実習や特定技能よりも、「専門人材」としての在留資格の方が多いのです。
この事実は、あまり知られていないのではないでしょうか。
💻 「技術・人文知識・国際業務」とは何か
専門的・技術的分野の中で、圧倒的に多いのがこの資格です。
通称「技人国(ぎじんこく)」と呼ばれます。
名前が長いですが、要するにこういう仕事です。
🔹 技術……エンジニア、システム開発、設計など理系分野
🔹 人文知識……マーケティング、経理、企画など文系分野
🔹 国際業務……通訳、翻訳、語学教師、海外取引業務など
原則として、大学卒業相当の学歴か、一定の実務経験が必要になります。
🗃️ そのほかの資格
🔹 高度専門職……学歴・職歴・年収などをポイント化し、一定以上で優遇される制度
🔹 経営・管理……会社経営者、役員
🔹 企業内転勤……海外拠点から日本法人への転勤
🔹 技能……外国料理の調理師、スポーツ指導者、パイロットなど
🔹 教育/教授……小中高の語学教師/大学の教員
🔹 研究、医療、介護(※特定技能の介護とは別)
⚠️ この分野特有の難しさ:「業務内容の該当性」
技能実習や特定技能には試験というハードルがありますが、専門的・技術的分野には別の難しさがあります。
それは「その仕事が、本当にその在留資格に該当するのか」という判断が、非常に曖昧だという点です。
実際にあったトラブル
貿易事務として「技術・人文知識・国際業務」で働いていた社員を、店舗の接客担当に配置転換したケースがあります。
在留資格の更新時に、入管はこう判断しました。
接客業務は、この在留資格の対象外である。
結果、更新が認められませんでした。
審査期間(約3ヶ月)は働けないにもかかわらず雇用契約は続いているため、企業側は休業手当を支払う義務が生じました。
もう一つの例
公立学校の語学教師は在留資格「教育」ですが、民間の英会話スクールで教える場合は「技術・人文知識・国際業務」が必要です。
同じ「英語を教える」でも、勤務先によって必要な在留資格が変わるのです。
🔍 つまり
制度ごとに「複雑さの種類」が違う、と整理すると分かりやすいと思います。
🔹 専門的・技術的分野……入口は緩いが、「業務が該当するか」の判断が曖昧・裁量的
🔹 特定技能……入口(試験)は明確だが、分野別の上限管理や支援義務がある
🔹 技能実習……関わる組織が多層的であること自体が複雑
第6章 🌏 ワーキング・ホリデーという別枠
ここまで見てきた制度とは、まったく思想の異なる枠組みがあります。
ワーキング・ホリデー、通称ワーホリです。
日本で働く外国人を語るとき見落とされがちですが、実は年間1万5千人ほどの若者が、この制度で日本に来ています。

🎈 そもそも労働力確保が目的ではない
ワーキング・ホリデー制度は、二国・地域間の取決めに基づき、相手国・地域の青少年に対し、休暇目的の入国と、滞在期間中の旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度です。
ポイントは「付随的な」という言葉です。
主目的はあくまで「休暇」と「文化理解」。
就労は、それを支えるための付随的なもの。
技能実習や特定技能が「人手不足を埋めるため」に設計されているのに対し、ワーホリは「相互理解を深めるため」の制度です。
ここが決定的に違います。
📖 日本の制度概要
🔹 日本は1980年、オーストラリアとの間で開始
🔹 2026年4月1日現在、32か国・地域と導入
🔹 対象は概ね18歳以上30歳以下(一部例外あり)
🔹 国ごとに滞在可能期間と年間発給枠(定員)が設定されている
📌 在留資格は「特定活動」
ワーホリで来日する人に与えられるのは、「特定活動」という在留資格です。
技能実習や特定技能のような専用の在留資格があるわけではなく、法務大臣が個々に活動内容を指定する「特定活動」の枠組みが使われています。
そのため、パスポートには指定書という書類が添付され、そこにワーキング・ホリデーで来日した旨と、認められる活動内容が記載されます。
企業が雇用する際は、在留カードの「特定活動」表記と、この指定書の両方を確認する必要があります。
🔓 実は、就労制限がいちばん緩い
ここが意外と知られていない点です。
ワーホリには、風俗営業等に関する就労を除けば、業種・職種の制限がありません。
これがどれほど特殊か、他の資格と並べてみましょう。
🔹 技術・人文知識・国際業務……専門的な業務のみ。単純労働は不可
🔹 特定技能……16分野の中の、決められた業務のみ
🔹 技能実習……実習計画に定められた作業のみ
🔹 留学……資格外活動許可が必要、かつ週28時間まで
🔹 ワーキング・ホリデー……風俗営業以外なら、ほぼ自由
居酒屋でも、コンビニでも、工場でも、ホテルでも働けます。
労働時間の上限もありません。
就労という観点だけ見れば、身分系の在留資格を除いて、最も自由度が高いのがワーホリなのです。
「休暇が目的」という建前の制度が、結果的にいちばん働きやすい枠組みになっている。
ここに、ひとつの皮肉があります。
⏳ ただし、期間と回数に厳しい制限がある
自由度が高い代わりに、時間の制限は厳格です。
🔹 在留期間は6ヶ月または1年(国により異なる)
🔹 更新による延長はできない
🔹 1つの国につき、生涯に1度だけ
過去に日本でワーホリを経験した人が、もう一度ワーホリで来日することはできません。
🔹 就労ビザへの切り替えは、原則できない
「日本で働き続けたいので、ワーホリから就労ビザに変更したい」という相談は非常に多いそうですが、入管庁はワーホリを「就職のための在留資格」として利用することを認めていません。
在留資格の変更は原則できず、例外的に個別審査で認められるにすぎません。
制度の趣旨が「休暇・文化交流」である以上、就職したいなら一度帰国して、改めて就労ビザを申請するのが原則とされています。
💰 税金と社会保険の扱いも独特
ここも、他の在留資格とは違います。
🔹 所得税は一律20.42%……日本に居住する期間が1年未満の場合「非居住者」として扱われるため、日本人のような累進課税が適用されません
🔹 雇用保険は適用されない……継続的な就労が前提でないため、対象外とされています
🔹 健康保険・厚生年金は条件次第……基本は日本人と同じ基準ですが、労働時間が短い場合や社会保障協定の締結国出身の場合、加入不要になることもあります
🏨 どこで働いているのか
受け入れが特に多いのは、ホテル・旅館業、飲食業、小売業、そして観光地の繁忙期対応です。
理由は、双方のニーズが噛み合うからです。
ワーホリ側……最大1年なので、短期間に集中して働きたい
事業者側……繁忙期と閑散期の差が激しく、短期の人手が欲しい
加えて、母国語と日本語の両方が使える人材は、インバウンド対応で強みを発揮します。
⚠️ そして、外務省自身が注意喚起している
第12章で詳しく触れますが、ここで一つだけ先取りしておきます。
外務省はワーキング・ホリデー制度のページで、海外に渡航した日本人に向けて、こう注意を促しています。
ワーキング・ホリデー制度を利用して海外に渡航した人から、 不当に安い賃金で働かされた、 雇用主等からセクハラやパワハラを受けた、 といった情報が寄せられている。
海外で働く場合には、現地の労働法規等を含め、 前もって十分に情報収集することを勧める。
制度を所管する官庁が、自ら注意喚起をしているのです。
そして重要なのは、この制度が「相互」だという点です。
日本は32か国・地域と協定を結んでおり、日本の若者も同じように海外へ行けます。
つまりワーホリは、「日本で働く外国人」と「海外で働く日本人」が、まったく同じ制度の上に立っている、数少ない枠組みなのです。
この「相互性」が、この記事の最後で、とても重要な意味を持ってきます。
第7章 🏢 企業が外国人を雇うとき、何が必要か
視点を変えて、雇う側の実務を見てみましょう。
ここを知ると、制度の全体像がさらに立体的になります。

🔍 日本人採用と決定的に違う3つのこと
① 在留資格という「採用可否の絶対条件」
日本人採用なら「採用したい」「本人もやる気がある」で決まります。
しかし外国人採用では、第三の壁があります。
その業務内容が、その在留資格の許可範囲に入っているか。
これを見誤ると、企業側が不法就労助長罪に問われるリスクもあります。
② 事務手続きが増える
🔹 「外国人雇用状況届出書」をハローワークへ提出(法的義務)
🔹 在留資格によっては「契約機関に関する届出」などを入管へ提出
🔹 離職時にも同様の届出義務
③ 配置転換の自由度が低い
日本人であれば「営業から広報へ異動」は自由にできます。
しかし就労系の在留資格を持つ外国人の場合、許可範囲を超える業務への異動は原則できません。
異動させたい場合は「在留資格変更許可申請」が必要で、審査には数ヶ月かかることもあります。
✈️ 海外から呼び寄せる場合
すでに日本にいる人を雇うのと、母国にいる人を呼び寄せるのとでは、手続きがまったく違います。
📋 流れ
① 在留資格認定証明書(COE)交付申請
企業(受入れ機関)が、地方出入国在留管理局へ申請します。
「この人がこの在留資格に該当し、上陸条件に適合している」ことを、法務大臣にあらかじめ審査してもらう制度です。
② 証明書の交付・送付
審査を経て、地方出入国在留管理局から企業へ証明書が送付されます。
③ 本人が現地で査証(ビザ)申請
企業から送られた証明書を持って、本人が現地の日本大使館・領事館で査証を申請します。
④ 入国・就労開始
⏳ ここが大変
🔹 時間がかかる……COE交付申請だけで1〜3ヶ月程度。採用決定から就労開始まで数ヶ月が通常
🔹 企業側の立証責任が重い……雇用契約書、登記簿謄本、決算書類、本人の卒業証明書・職務経歴書など、大量の書類が必要
🔹 内定を出しても確約ではない……COEが交付されなければ、そもそも入国できません
🔹 費用も余分にかかる……航空券、住居手配、専門家への依頼費用など
なお、在留資格認定証明書の交付申請そのものに、手数料はかかりません。
近年はオンライン申請も利用でき、証明書を電子メールで受け取って本人へ転送できるようになっています。
🤝 雇うだけでは終わらない:支援の義務
特定技能で受け入れる場合、企業には雇用契約とは別に「支援」の義務が課されます。
これは日本人採用にはまったくない発想です。
支援計画に含まれるのは、たとえば次のような項目です。
🔹 入国前の生活ガイダンス(労働条件、活動内容、入国手続などの説明)
🔹 出入国する際の空港への送迎
🔹 住居確保の支援(連帯保証人になる、社宅を提供するなど)
🔹 生活オリエンテーション(銀行口座開設、携帯電話の契約、ゴミ出しのルールなど)
🔹 公的手続への同行
🔹 日本語学習の機会の提供
🔹 相談・苦情への対応(本人が十分に理解できる言語で行うこと)
🔹 日本人との交流促進
🔹 非自発的離職時の転職支援
🔹 定期的な面談と、法令違反があった場合の通報
自社で対応できない場合は、登録支援機関に委託することになります。
💰 費用はどれくらいかかるのか
正直にお伝えすると、費用の相場は公的に定まったものがありません。
企業規模、職種、依頼先によって大きく変わるためです。
確実に言えるのは、次の点です。
🔹 在留資格認定証明書の交付申請……手数料無料
🔹 登録支援機関への委託費……月額制が一般的(支援の範囲により幅がある)
🔹 専門家への依頼費……行政書士等に申請代行を頼む場合に発生
🔹 実費……航空券、初期の住居費用、家具家電の準備など
具体的な金額を知りたい場合は、行政書士会や登録支援機関の公開している料金表を直接確認するのが確実です。
ネット上には幅のある情報が流通しているため、一次情報にあたることをおすすめします。
第8章 📉 なぜ日本はここまで外国人材に頼るのか

ここで、いちばん土台になる事実を共有します。
📉 生産年齢人口という現実
日本の生産年齢人口(15〜64歳)の推移を見てみましょう。
🔹 2020年……7,509万人
🔹 2040年……6,213万人(推計)
🔹 2070年……4,535万人(推計)
50年で、働き手がおよそ4割減るという計算です。
総人口で見ても、2020年の1億2,615万人が、2070年には8,700万人を割り込むと推計されています。
🔢 JICAの試算:2040年に「今の4倍」必要
さらに具体的な数字があります。
国際協力機構(JICA)などがまとめた試算によれば、2040年に政府がめざす経済成長を達成するには、外国人労働者が現在の約4倍にあたる674万人必要になり、現状の受け入れ方式のままでは42万人不足するとされています。
🔍 つまり、議論の段階はすでに過ぎている
この数字が示しているのは、こういうことです。
「外国人材を受け入れるべきかどうか」という段階は、すでに過ぎている。
問われているのは「どう受け入れ、どう守るか」である。
これは一時的な人手不足の話ではなく、構造的に不可避な変化なのです。
🚜 すでに「なしでは回らない」産業
先ほど見た特定技能の分野別データを思い出してください。
🔹 飲食料品製造業……74,538人
🔹 工業製品製造業……45,279人
🔹 介護……44,367人
🔹 建設……38,578人
これらの分野に共通するのは何でしょうか。
🔹 重労働・低賃金・不人気で、日本人の若い担い手が集まりにくい
🔹 しかし「食」「介護」「住まい」という、国民生活に不可欠な産業である
つまり、こういうねじれた構造になっています。
日本人が避けがちな仕事ほど、外国人労働者への依存度が高い。
🍱 これは私たちの生活の話でもある
スーパーで買う野菜。コンビニの弁当。ファミリーレストランの料理。祖父母が利用している介護サービス。
その価格の手頃さ、そして現場が回っていること自体が、この労働構造の上に成り立っています。
外国人労働者の問題は、遠い世界の話ではありません。
私たちの食卓と、直接つながっているのです。
第9章 ⚠️ それでも問題が起き続ける理由
制度は整備されている。
研修も手厚い。
それでも、京極町のような事件が起きる。なぜでしょうか。

💸 理由①:来日前の借金という「見えない鎖」
厚生労働省の資料に示された調査結果があります。
厚生労働省の資料に示された「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」(2022年7月公表)によれば、
🔹 来日前に借金をした技能実習生……全体の約55%
🔹 その平均額……約55万円
送出国の平均月収を考えれば、これは何年分にもあたる金額です。
🔗 この借金が意味すること
借金があるから、辞められない。
転籍が難しい制度の中で、返し終えるまでは耐えるしかない。
辞めて帰国すれば、借金だけが残る。
京極町の被害者たちが「怖い」と感じながらも、すぐには声を上げられなかった背景には、こうした経済的な逃げ場のなさがあったと考えられます。
なお、2024年の法改正では「入国時に労働者が背負う借金の低減」「悪質な送出機関の排除に向けた取組強化」が盛り込まれました。
ただし施行は2027年です。
🚪 理由②:入口は手厚いのに、出口が手薄
第2章で見たように、研修制度そのものは細かく設計されています。
問題は、配属された後です。
外国人技能実習機構の検査体制を見てみましょう。
🔹 監理団体(約3,800団体)……実地検査を年1回実施
🔹 実習実施者(約68,000社)……3年間で全数を網羅する形で実施
つまり、一つの企業が検査を受けるのは3年に1度程度という計算になります。
日々現場で何が起きているかを把握するには、どうしても限界があります。
しかも監査は事前通知ありの訪問だったり、実習生本人が本音を言いにくい環境での面談だったりと、形骸化しやすい構造的な弱点も指摘されています。
入口(研修・試験)はしっかり設計されている。
出口(配属後の継続的なチェック)が手薄。
このアンバランスこそが、事件が繰り返される最大の構造的背景です。
🕳️ 理由③:処分歴のある事業者が再参入できる抜け穴
京極町の事件で、見過ごせない事実が報じられています。
問題の農業法人と同じ住所にある会社は、2022年3月に「技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行った」として、技能実習計画の認定を取り消される行政処分を受けていました。
法務省令では、認定取り消し後5年間は特定技能を含む外国人労働者の受け入れができないはずです。
しかし、今回問題となった法人がその規制をどうすり抜けたのか(別法人としての体裁など)は、報道時点では明確になっていません。
制度に穴があったという可能性が、強く示唆されています。
🏃 理由④:そして「失踪」という現実
こうした構造がもたらしている、最も深刻な結果があります。
🔹 2023年の失踪者数……9,753人(制度開始以来、過去最多)
🔹 2020年は約5,885人(コロナ禍で一時減少)、2022年は9,006人
🔹 2019年以降の失踪者のうち、2024年7月時点で9,976人が所在不明のまま
不法残留者の統計でも、その存在感は大きくなっています。
🔹 2025年1月1日時点の不法残留者……74,863人
🔹 うち技能実習生……11,504人(約15%。在留資格別では「短期滞在」に次ぐ多さ)
🔍 失踪を「本人の問題」にしない
失踪した実習生は在留資格を失い、「不法滞在者」となります。
そして多くが、国内で不法就労に及ぶことになります。
ここで大事なのは、失踪を「本人の意思が弱かったから」と捉えないことです。
転籍ができない制度の中で、 劣悪な環境から逃げる手段が「失踪」しか残されていなかった。
制度が逃げ道を用意しなかった結果として、人は制度の外へ出ざるを得なくなる。
失踪という数字は、そのように読むべきものだと思います。
🔹 ひとつ、断っておきたいこと
ここで挙げた失踪の統計は、いずれも技能実習制度についてのものです。
技能実習は、監理団体に行方不明の届出義務があり、統計として長年蓄積されてきました。
一方、特定技能については、同様に整理された失踪統計が公表されていません。
これは「特定技能では問題が起きていない」という意味ではなく、制度が新しく、実態の把握がまだ追いついていないという意味に近いと考えられます。
京極町の事件が特定技能の現場で起きたことを踏まえれば、この分野の実態把握は、今後の重要な課題だと言えそうです。
第10章 ✨ うまくいっている現場
ここまで問題を中心に見てきました。
しかし、それだけでは実態の半分しか描けていません。
多くの現場は、丁寧な工夫によって機能しています。
そして重要なのは、それが「たまたま良い人が集まった」結果ではなく、再現できる具体的な設計だという点です。
厚生労働省は、外国人を雇用している企業約50社へのヒアリング調査をもとに、有識者による研究会で分析を行い、好事例集を取りまとめています。
ここでは、その内容と個別企業の実践を合わせて見ていきます。

🏥 事例①:社会福祉法人孝仁会(北海道釧路市)
介護関連7施設・保育関連2施設を運営し、約50名の外国人職員(ミャンマー・インドネシア国籍、主に特定技能)を受け入れています。
🔹 孤立させない配置設計
外国人比率が特定のユニットに偏らないよう配慮し、シフト上は概ね3割を上限に設定
同一国籍の職員を必ず複数名、同じ事業所に配置
1年目はペア勤務。以降は先輩職員が新規受入者を指導
「同じ国の人を必ず複数配置する」というのは、地味に見えて決定的な工夫です。
母国語で相談できる相手が職場にいるかどうかで、孤立のリスクはまったく変わります。
🔹 伝わる言葉の工夫
業務指示は「やさしい日本語」を徹底 ・短く、具体的に伝えることで、理解度と安全性を高める
🔹 段階的な育成
いきなり一人立ちさせず、同行 → 確認 → 独り立ちという丁寧なステップ
🏭 事例②:本多機工株式会社(産業用特殊ポンプ製造・従業員152名)
従業員152名の中堅メーカーです。
大企業でなくてもここまでできる、という好例です。
🔹 まず「社内の空気」から変えた
社長自らが「海外進出には外国人材が必要だ」と根気よく社員に発信し、外国人を受け入れる前に、社内に必要性の認識を浸透させました。
国籍という枠を超えて「本多人」になろう、という概念を掲げたそうです。
受け入れ準備を丁寧に行ったことが、その後、当たり前のように外国人を採用していく流れの土台になりました。
🔹 外国人社員が講師を務める英語教室
外国人社員に講師を依頼し、日本人社員向けの英語教室を開催しています。
ポイントは、日本人社員の側が歩み寄るという発想です。
日本人社員の英語力が向上しただけでなく、海外事業に挑戦したいという声が社内から出てくるようになりました。
なお、英語教室では講師にも参加者にも時間外手当を支給しています。
「善意でやってもらう」のではなく、業務として位置づけているわけです。
🔹 母国での独立まで支援する
外国人社員が独立して母国で事業展開を望む場合、積極的にサポートしています。
これまでチュニジア人1名、中国人2名が独立しました。
一見、企業側の損に見えます。
しかし同社は、自社の技術力や考え方を熟知した現地パートナーになってもらいたいと考えており、実際に独立した3名とは今も良い関係が続いているそうです。
🖩 事例③:カシオ計算機株式会社(電子機器製造販売・従業員2,768名)
こちらは大企業の事例です。
🔹 職種別採用でキャリアを見せる
担当業務を特定して採用する「職種別採用」を導入しています。
入社後のキャリアプランが見えることで、ミスマッチによる早期離職やモチベーション低下の防止につながっています。
キャリアアップ志向が相対的に強い外国人材にとって、大きな訴求点にもなっているそうです。
🔹 宗教への配慮を「設備」として実装
イスラム教徒の社員の採用をきっかけに「お祈り部屋」を設置しました。
お祈りを捧げる方向を示す矢印まで設置されています。
社員食堂でも、宗教上の理由で豚肉が食べられない人に配慮し、豚肉を使用した料理が分かるよう工夫しています。
🔹 「言い出しにくさ」を制度で解決した
十分な有給休暇があるにもかかわらず、帰郷のための長期休暇を申請する外国人社員が非常に少ない、という状況がありました。
言い出しにくかったのです。
そこで同社は、休暇の目的を明確にした「母国帰国休暇」を制度として創設しました。
入社3年経過後から、3年に1度のペースで、特別休暇として付与されます。
これは示唆に富む工夫だと思います。
「制度はあるから使ってください」では動かないことがある。
目的を明示した専用の制度にすることで、初めて使えるようになる。
📋 厚生労働省の好事例集より:現場で使える工夫
調査から抽出された具体的な取組を、場面ごとに見ていきます。
🔹 職場環境の整備
メンター制度を導入し、外国人社員には母国語や英語で相談できる先輩社員を相談役として配置
英文によるメール相談を実施。日頃と様子が違う社員には、こちらから「相談に乗る」旨のメールを送る
このメール相談の理由が興味深いところです。
面と向かって日本語で「大丈夫?」と聞かれるより、メールで間を置く方が気持ちが整理され、相談しやすいのだそうです。
母国の風習に合わせた柔軟な休暇制度(例:中国人社員は日本の正月期間に中国の現地事務所で勤務し、旧正月に休暇を取得)
🔹 安全衛生:命に関わる工夫
ここは特に実践的です。
労働災害防止の標識・掲示は、外国人社員の母国語で表記することを徹底
一方で、「危ない」「触るな」「よけろ」といった安全衛生上のキーワードは、日本語で徹底的に理解してもらう
理由は明快です。
突発的な危険が生じたとき、日本人社員がとっさに外国語で呼びかけるのは難しい。
だから、緊急時の言葉だけは日本語で共有しておく。
母国語表記と日本語の徹底を、場面によって使い分けているわけです。
🔹 生活支援
初来日時には、必ず日本人社員が空港へ出迎え、宿舎まで同行する
行政手続や銀行口座の開設に、日本人社員が同行してサポート
生活の基本情報(勤務地、病院、銀行、郵便局、スーパーの場所)を写真付き地図で掲載したパンフレットを配布
地域に早く溶け込めるよう、日本人社員が同行して近隣住民に挨拶に行く
🔹 在留手続のサポート
在留期間の更新時期が近づくと本人に通知し、手続きの漏れがないよう注意喚起
人事担当者が日頃から入管庁のサイトを確認し、情報収集を行う
第9章で見た「失踪」や「不法残留」の一部には、手続きを失念した結果として在留資格を失うケースも含まれます。
この地味なサポートが、実は本人を守っています。
🔹 評価と処遇の透明性
厚労省の調査では、日本で就労する外国人が「評価システムが不透明であること」「昇進が遅いこと」に不満を感じている実態が示されています。
これに対する好事例です。
人事評価の内容を母国語や英語に翻訳した評価シートで伝える
日本語が不得意な社員の昇進試験は、論文・面接を英語でも受けられるようにする
十分な日本語能力を持つ外国人社員を現場の責任者に抜擢し、日本人社員と外国人社員の架け橋になってもらう
🔍 好事例に共通しているもの
これだけの事例を並べると、共通する原理が見えてきます。
① 孤立させない
孝仁会の同国籍複数配置、メンター制度、空港への出迎え、近隣への挨拶同行。すべて「一人にしない」という一点に向かっています。
② 伝え方を設計する
やさしい日本語、母国語の標識、緊急時キーワードの日本語共有、翻訳した評価シート。
「日本語ができないのが悪い」ではなく、伝わる方法を組織の側が用意するという発想です。
③ 日本人の側も変わる
英語教室、異文化理解の研修、管理職研修。
厚労省の資料も、日本人社員が外国人社員に歩み寄る姿勢を重要な視点として挙げています。
④ 見通しを示す
職種別採用、キャリアプランの明示、公正な評価基準。
「いつまで、どうなるのか」が見えることが、定着につながっています。
🔻 そして、京極町との対比
うまくいっている現場
孤立させない。
伝え方を設計する。
日本人の側も歩み寄る。
見通しを示す。
問題が起きた現場
孤立した環境。
日本語の壁。
一方的な指示。
先の見えない立場。
これは「働く人の資質」の違いではありません。
受け入れ側の設計の違いです。
そして大事なのは、ここで挙げた工夫のほとんどが、特別な予算も高度な専門知識も必要としないという点です。
空港に迎えに行く。
同じ国の人を複数配置する。
危険を知らせる言葉を共有する。
休暇制度に名前をつける。
やるかやらないか、それだけの違いなのです。
💬 「外国人スタッフの方が接客の態度が良い」という話
飲食店やサービス業で、そう感じたことがある方もいるかもしれません。
これを「国民性」の話にしてしまうのは、少し危ういと思います。
良い方向の一般化も、裏を返せば悪い方向の一般化を正当化しやすい土壌を作ってしまうからです。
むしろ、こう考える方が実態に近いのではないでしょうか。
🔹 背景①:入口でのスクリーニング
第3章で見たように、外食業や宿泊業の特定技能試験では、接客のロールプレイ形式の実技試験が課されます。
知識だけでなく、実際の受け答えの型まで、入口の段階である程度確認されているのです。
🔹 背景②:受け入れ側の育成設計
この章で見てきた通りです。
丁寧な研修と段階的な指導を行っている企業では、当然ながら質の高い接客が実現されます。
🔹 背景③:そして、考えておきたいこと
同時に、こういう可能性も頭に置いておく必要があります。
立場が不安定であるほど、 職を失うことへの不安から、丁寧に振る舞わざるを得ない。
「態度が良い」という印象は、その人の資質でも国民性でもなく、受け入れ側がどれだけ丁寧に設計しているか、そしてその人がどれだけ安心して働けているかを映す鏡なのだと思います。
第11章 🌐 世界はどうしているのか

日本の制度を、世界の中に置いてみます。
この記事でここまで見てきた問題の根っこは、いつも同じ場所にありました。
誰が、労働者と職場の間に立っているのか。
そこで、いくら取られているのか。
送出機関、監理団体、仲介業者。
この「間に立つ人」が、借金を生み、逃げ場を奪ってきました。
そこで、「仲介を誰が握っているか」という一点で、3つの国を比べてみます。
🇰🇷 韓国:仲介を国が引き受けた
🔹 実は、日本と同じ失敗をしていた
意外に思われるかもしれませんが、韓国はかつて日本の技能実習制度を手本にした制度を導入していました。
そして、日本とまったく同じ問題に直面します。
高額な仲介手数料、不法就労、失踪の多発。
そこで韓国は、2004年に決断しました。
「実習」という建前をやめる。
そして、民間の仲介業者を制度から追い出す。
こうして生まれたのが「雇用許可制(EPS)」です。
🔹 どういうしくみか
いちばんの特徴は、国が仲介役そのものを引き受けたことです。
🔹 送り出しから受け入れまで、韓国政府(雇用労働部傘下の韓国産業人力公団)が一元管理
🔹 求人条件に合う労働者を、政府機関が企業に推薦する
🔹 企業が採用を決めれば雇用許可書が発行され、標準雇用契約書を締結
🔹 入国後は教育施設で2泊3日の就業教育を受け、職場へ配置
つまり、民間ブローカーが入り込む隙間を、制度の設計段階で塞いだのです。
🔹 効果は数字ではなく「透明性」に表れる
労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査報告は、こう評価しています。
航空券やビザ発行手数料の金額が公開されており、透明性が高い
そのため、高額な手数料が生じる可能性は低い
送出し国でのブローカー介入の余地が皆無とは言い切れないが、公共機関が直接監視する制度上、その可能性は低いと関係機関は認識している
日本の技能実習生の約55%が平均55万円の借金を背負って来日していたことを思い出してください。
手数料が公開されているという、ただそれだけのことが、どれほど大きな差を生むか。
🔹 ただし、万能ではない
韓国の制度にも課題はあります。
労働者側の都合による職場変更は本来は禁止されており、それでも実際には変更する労働者が多いという実態があります。理由は低賃金や劣悪な労働環境です。
また、農畜産業や漁業で入国した人が、より賃金の良い製造業へ移ろうとしても、異なる業種への転職は認められていません。
「仲介の問題」は解決に近づいた。
しかし「職場を選べない」という問題は、韓国にも残っているのです。
🇹🇼 台湾:日本とそっくりな構造
次に、日本といちばん似ている国を見てみましょう。台湾です。
🔹 なぜ台湾を見るのか
理由は2つあります。
ひとつは、民間の仲介業者を残したまま受け入れを進めてきた、日本と同じ型の国だから。
もうひとつは、第12章で触れる通り、台湾が外国人材の獲得で日本と競合している国だからです。
🔹 経路は、日本の技能実習とほぼ同じ
台湾で外国人労働者が就労するまでの流れは、こうです。
🔹 雇用主が労働部に募集許可証を申請する
🔹 依頼を受けた台湾の人材仲介会社が、送出し国の人材仲介会社に候補者の募集・選考を依頼する
🔹 現地で募集・選考が行われ、労働者は訓練を受ける
🔹 採用が決まった労働者が居留ビザを取得し、入国する
送出国側と受入国側、両方に民間の仲介会社が立つという構造。
日本の「送出機関 → 監理団体」と、ほぼ同じ形です。
🔹 そして、同じ結果になっている
台湾には現在、約87万人の外国人労働者がいます(2026年時点の報道による)。その現場で起きていることは、日本の既視感そのものです。
ベトナム人労働者は失踪率が最も高いグループとされ、その主な原因は来台前の多額の仲介手数料による債務だと指摘されています
劣悪な環境に直面したとき、借金があるために逃げ出して非正規の市場に入り込む動機になっている
製造業の外国人労働者の給与は、2021年時点で平均24,610元。最低賃金の24,000元と、ほぼ同水準です
借金 → 逃げられない → 失踪。
日本の技能実習制度で起きてきたことと、まったく同じ連鎖が、台湾でも起きています。
🔹 当事者が求めていること
台湾では2年ごとに「移住労働者大行進」というデモが行われています。2025年12月にも開催されました。
そこで長年掲げられてきた要求が、これです。
雇用主を自由に変更させてほしい。
日本の技能実習生が置かれてきた状況と、訴えの中身まで同じなのです。
🇬🇧 英国:企業を審査する、という別のアプローチ
3つめは、まったく違う方向で管理しようとした国です。
🔹 「企業に免許を与える」しくみ
英国で外国人を雇いたい企業は、国から「スポンサーライセンス」という認可を取る必要があります。
いわば「外国人を雇ってよい会社」として、あらかじめ国のお墨付きをもらう制度です。
社内に専任の管理者を置くことが義務付けられ、その担当者自身も犯罪歴や納税状況の審査を受けます。
認可を得た企業だけが、労働者ごとに「就労証明書」を発行でき、労働者はそれを使ってビザを申請します。
つまり英国は、日本のCOEに加えて「企業そのものの資格審査」まで課している、より厳しい制度です。
🔹 それでも、起きた
これだけ管理しても、問題は起きました。
英国政府は2022年から、深刻な人手不足を背景に介護職の受け入れを大幅に緩和しました。
すると、ライセンスを持つ企業や仲介業者が、その枠を使って低賃金の仕事にビザを発給するようになったのです。
被害の広がりは、支援窓口への通報数に表れています。
英国には「現代奴隷制ヘルプライン」という、強制労働や人身取引の被害を受け付ける専門の相談窓口があります。
介護分野に関する通報は、
🔹 2021年……15件・被害者63人
🔹 2022年……106件・被害者708人
わずか1年で、被害者数が10倍以上に膨れ上がりました。
🔹 手口が、日本とほぼ同じ
🔹 聞いていた条件と違う……約束された労働時間や賃金が、実態とまったく異なる
🔹 違法な手数料……実費数百ポンドの手続きに、1万ポンドを請求された例も
🔹 住居による囲い込み……雇用主が用意した住居に住まわせ、辞めれば住む場所も失う状況を作る
🔹 強制送還の脅し……「文句を言えばビザを取り消す」と脅す
同じパターンが、いまや外食・宿泊分野にも広がっています。
🔹 英国が教えてくれること
企業を厳しく審査するだけでは、 搾取は防げない。
なぜなら、審査をパスした企業であっても、労働者が「辞めたら在留資格を失う」立場に置かれている限り、力関係は変わらないからです。
そして英国の場合、仲介業者は送出国側に残ったままでした。
国内の企業をいくら審査しても、海外での手数料徴収には手が届かなかったのです。
🔍 3か国を並べて見えること
軸に沿って整理すると、こうなります。
🔹 韓国……仲介を国が引き受けた。手数料が透明になり、借金問題は大きく改善。ただし転職の自由は限定的
🔹 台湾……仲介を民間に委ねたまま。日本と同じく、借金と失踪の連鎖が続いている
🔹 英国……仲介ではなく企業を審査する方向へ。国内は管理できても、送出国側の手数料には届かなかった
そして日本は、台湾と同じ型です。
送出機関と監理団体という民間の中間層を残したまま、30年が過ぎました。
ここから見えてくる仮説は、こうなります。
労働者を守れるかどうかは、 「間に立つ人」を誰が管理しているかで決まるのではないか。
企業を審査しても、研修を手厚くしても、送出国から受入国までを一気通貫で公的に管理する仕組みがなければ、どこかに搾取の余地が残ってしまう。
2027年の育成就労制度では、監理団体は「監理支援機関」として要件が厳格化されます。
しかし第4章で見た通り、受入企業から手数料を得ながらその企業を監査するという利益相反の構造そのものは残ります。
韓国が20年前に手放したものを、日本はまだ手放していない。
この点は、記憶しておいてよいと思います。
第12章 🔄 裏返せば、これは私たちの話でもある
ここまで「日本で働く外国人」の話をしてきました。
しかし、視点を反転させると、まったく違う風景が見えてきます。

✈️ ワーホリで海外に出る日本人
第6章で触れた通り、ワーキング・ホリデーは相互の制度です。
日本は32か国・地域と協定を結んでおり、日本の若者も同じように海外へ行けます。
なかでもオーストラリアは、1980年に最初に協定を結んだ国であり、今も一番人気の渡航先です。
🔹 オーストラリアの最低時給……約25豪ドル(約2,400円)。日本の倍以上
🔹 円安も相まって、2024年の日本人ワーホリビザ取得者は1万7,000人に到達
「働きながら英語が学べる」「日本で働くよりずっと貯金できる」。
そんなイメージで海を渡る若者が増えています。
⚠️ しかし、そこで何が起きているか
シドニー在住のジャーナリストによる調査報道が、その実態を伝えています。
就労先の農場で過酷な労働を強いられ、 最低時給を保証されず、 農薬で身体を傷つける。
定められた年金も支払われず、法律の保護も受けられない
「外国人労働者」として、日本人が働く。
🔹 具体的に報じられていること
🔹 多くの農場が、法律で義務付けられている最低時給の保証がない「歩合制」を採用している
🔹 給与が最低賃金の3分の1以下だったケース、未払いのケースがある
🔹 日本人向けのSNSコミュニティでは「悪徳ファーム」の情報がたびたび共有されている
🔹 未払い賃金について、元雇用先がすでに破産状態のため、公正労働オンブズマン(FWO)が強制的に支払わせることができなかった事例もある
英語力に自信がないまま渡航し、都市部で仕事が見つからず、地方の農場へ。
そこで搾取的な労働環境に置かれる。
そういう経路をたどった人が、少なくないのです。
🔍 気づいてほしいこと
ここで、この記事の最初に戻ってみてください。
京極町の農場で、ミャンマーの若者たちに起きたこと。
オーストラリアの農場で、日本の若者たちに起きていること。
驚くほど、同じ構造をしています。
🔹 言葉が十分に通じない
🔹 その国の制度や権利を知らない
🔹 相談先を知らない、あるいは相談しにくい
🔹 立場が不安定で、辞めたら次がない
🔹 地方の農場という、孤立しやすい環境
この条件が揃えば、どの国でも、誰に対してでも、同じことが起きる。
つまりこれは「日本の制度がひどい」という話でも、「外国人がかわいそう」という話でもありません。
構造の問題なのです。
🎒 海外で働きたい人が知っておくべきこと
そう考えると、この記事で見てきた知識は、そのまま「日本人が海外で働くときの前提知識」になります。
🔹 どの国でも「雇用主がスポンサー」という構造は同じ
英国のスキルド・ワーカービザでは、企業がまずスポンサーライセンスを取得し、労働者ごとに就労証明書(Certificate of Sponsorship)を発行します。
労働者はこれを使ってビザを申請します。
日本のCOE(在留資格認定証明書)と同じ考え方です。
これが意味することは何でしょうか。
ビザが雇用主に紐づいているということは、 職を失うことが、滞在資格を失うことに直結するということ。
日本の技能実習生が置かれてきた立場と、構造は同じです。
🔹 職種変更の不自由さも同じ
EUブルーカードは「高度な資格を要する職」であることが条件であり、その職に就くことが前提です。
英国も、職種コードが変われば新しい就労証明書とビザが必要になります。
日本で「貿易事務から接客への異動」が認められなかったのと、まったく同じ論理です。
🔹 だから、確認すべきこと
海外で働こうとするとき、自分に問うべきなのは、こういうことです。
🔹 その仕事は、自分のビザで働ける職種か
🔹 雇用契約は書面で交わされているか。最低賃金は保証されているか
🔹 その国の最低賃金・労働法はどうなっているか
🔹 税金・年金の手続きは適切に行われているか
🔹 トラブルが起きたとき、どこに相談できるか(労働監督機関、大使館、労働組合)
🔹 仲介業者に払う費用は、適正な金額か
これらは、日本で働く外国人が知っておくべきこととまったく同じリストです。
第13章 📞 困ったとき、どこに相談できるのか
制度の問題を知ることも大切ですが、それ以上に大事なのは「今、困っている人がどこに繋がれるか」です。
意外なほど知られていませんが、相談窓口は複数あります。
🚨 人権侵害・緊急の場合
🔹 技能実習SOS・緊急相談専用窓口
外国人技能実習機構(OTIT)が運営する専用窓口です。
技能実習生への暴行や脅迫などの人権侵害行為の相談に対応するために設けられました。
💴 労働条件に関する相談
🔹 外国人労働者相談コーナー
🔹 外国人労働者向け相談ダイヤル
厚生労働省・各労働局が設置しています。
多言語対応で、賃金未払い、長時間労働、労災などの相談ができます。
地域によっては、特定言語の専用相談日を設けているところもあります(例:鹿児島労働局のベトナム語専用相談)。
🏢 技能実習・特定技能の制度に関する相談
🔹 外国人技能実習機構(OTIT)
🔹 公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
🎫 在留資格に関する相談
🔹 外国人在留総合インフォメーションセンター
出入国在留管理庁が設置。多言語対応で入国・在留手続きの相談ができます。
🤝 そして、労働組合とNPO
京極町の事件で、被害者6人を保護したのは札幌地域労組でした。
労組は農業法人を刑事告訴する方針を示し、その動きを受けて札幌入国管理局も調査に着手しています。
公的な窓口だけでなく、地域の労働組合や支援NPOが果たしている役割は、非常に大きいものがあります。

📎 参考リンク(公的機関)
制度について正確な情報を確認したい方は、一次情報にあたるのがいちばん確実です。
🔹 制度の全体像を知る
🔹 企業が受け入れを検討するとき
厚生労働省「外国人の活用好事例集」(企業約50社へのヒアリング調査に基づく取組事例)
🔹 申請の実務
🌅 おわりに
京極町の事件は、決して「一部の悪質な事業者だけの話」ではありませんでした。
その背景には、
🔹 借金を背負って来日せざるを得ない構造
🔹 建前と実態が乖離したまま30年続いた制度
🔹 入口は手厚いのに、出口(配属後の監督)が手薄な体制
🔹 処分歴のある事業者が再参入できてしまう抜け穴
🔹 逃げる手段が「失踪」しか残されていない人たち
という、いくつもの構造的な問題が折り重なっています。
同時に、こういう事実もあります。
🔹 孝仁会のように、丁寧に設計された現場が確かに存在すること
🔹 制度は2027年に向けて、転籍の緩和という形で改善に向かっていること
🔹 私たちの日々の食卓や生活が、この労働構造に支えられていること
そして何より。
同じことが、海の向こうで日本の若者にも起きているということ。
日本の生産年齢人口は、これから減り続けます。
外国籍の人たちと共に働く未来は、もう選択肢のひとつではなく、避けられない現実です。
だからこそ、知っておきたいと思うのです。
制度のしくみを。その裏側で起きていることを。
そして、立場が弱くなったとき人は誰でも同じ構造に置かれうる、ということを。
それは、隣で働く誰かのためであると同時に、いつか海を渡るかもしれない自分自身のための知識でもあるのですから。
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