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藤井 風|「何がすごいの?」「ピアノ。」 FRF26

今回、3日間通しでフジロックへ参加することにした大きな理由の一つは、藤井 風だった。

単独公演へ行くこともある。ただ、一人のアーティストを追い続けるより、世界中のいろいろな音楽が聴けるフェスの方が性に合う。

今年のラインナップは、その3日間の割り振りが近年では珍しいくらい絶妙なバランスだった。

その最後のひと押しになったのが藤井 風。

近年の活動を見ていると、ジャズフェスへ出たり、ロラパルーザ・インディアのような海外フェスを選んだりしている。フジロックと藤井 風は以前から親和性があると思っていたし、そのうち出演するだろうと思っていた。

同時に、今回を逃したら、フジロックで藤井 風を見る機会はもうないかもしれないとも思った。

未来のことは分からない。

だから今年は3日間参加することにした。


IOの時間帯、自分はGREEN STAGE後方の、椅子を設置してもいい場所で休んでいた。

16時以降は前方エリアで椅子を使えなくなる。そのためボランティアスタッフが場内を回り、前方に置かれた椅子を後ろへ移動するよう、何度も呼びかけていた。

ちゃんと聞いて移動する人もいる。

聞こえないふりをする人もいるし、そのまま居続ける人もいる。

知り合いにもボランティアとして参加している人がいる。暑い中、何度も同じ説明をして歩く姿を見ていると、うーん……いろいろ考えてしまう。

自分の前には年配の男性グループが椅子を並べていて、自分はその後ろでくつろいでいた。

ところが、その人たちが席を外した途端、空いていた隙間という隙間へ椅子が置かれ始める。

さっきまで通路だった場所まで埋まり、後ろへ抜けることもできなくなった。

隣には、一人で藤井 風を見に来たらしい女性がいた。

その女性も少し席を離れた間に、戻る場所がなくなっていた。

しばらく立ったまま様子を見ていたが、やがて静かに場所を移っていった。

男性グループが戻ってくる。

しかし、一人分のスペースがなくなっていた。

周囲の椅子に少しずつ押され、足も入らないほど狭くなっている。あの隙間にどう座れというのか。

気付けば、藤井 風のファン同士がお互いの居場所を食い合うような光景になっていた。

見ていて、さすがに気の毒だった。

HELP EVER HURT NEVER。

ふと思った。

「自分も移動するので、このスペース使っていいですよ。」

そう伝えて、その場を後にした。

自分は後ろで聴ければ十分だった。

移動した先では、友人から連絡が来て、そのまま合流することになった。

もしあのまま座っていたら、たぶん会えなかった。

そう思うと、あの移動も悪くなかった。笑


サーストン・ムーア・グループを見ている途中、海外の友人から次は何を見るのかと聞かれた。

「藤井 風。」

そう答えると、

「OK。じゃあ40分になったら移動しよう。」

と言う。

見た目からは想像しづらい、日本人的な気配りである。笑

サーストン・ムーア・グループを途中で離れ、みんなでGREEN STAGEへ向かった。

午後には、別の友人が天気を確認しながら言った。

「もう雨は降らないみたい。」

厚い雲の切れ間から、少しだけ空が見えていた。

GREEN STAGEへ着く。

前を見ても人。

後ろを振り返っても人。

山肌まで人で埋まっていた。

その景色を見ながら、友人が言う。

「ストーン・ローゼズの時と似てるね。」

そういえば、自分はその時のストーン・ローゼズを見ていない。笑

それでも、言いたいことはよく分かった。


開演前、モニターには藤井 風の映像が流れていた。

食べ物を頬張ったり、ステージを見回すような仕草をしたり。

会場も少し和んでいた。

一方、客席では「さあ、始まる」と、スマートフォンやカメラを構える人が増えていく。

やがて前奏が始まる。

最初に耳へ飛び込んできたのは、鍵盤の音だった。

その音がゆっくりとGREEN STAGEへ広がっていく。

そして、サックスを吹きながら藤井 風がPA卓付近から姿を現した。

ステージではなく客席側からの登場に、大きな歓声が上がる。たぶん、この日一番の歓声は登場した時だったと思う。

サックスを置き、『Garden』が始まる。

「空の果て──。」

「おお、そこから入るのか。」

原曲の冒頭ではなく、そこから歌い始める。

またびっくりした。

『Garden』ではキーボードが前へ出る。

そこから和太鼓のように鳴るドラムが入り、『まつり』へ。

続く『何なんw』。

世界中のいろいろな音楽に触れてきた友人が、ぽつりと言った。

「ゴスペルっぽいね。」

「そうだね。近いものはあるよね。」

しばらく聴いていると、今度は友人が聞いてきた。

「何がすごいの?」

「ピアノ。」

それが、その場で出た答えだった。

ライブの途中で、そんなことを一から十まで説明できない。笑

『何なんw』から『もうええわ』へ。

曲間をつなぐピアノが鳴る。

聴き入る。

演奏が終わると、友人がおもむろにスマートフォンを取り出した。

それまでほとんど撮っていなかったのに、そこから動画を回し始めた。

さらに『もうええわ』から『死ぬのがいいわ』へ。

また、あのピアノが鳴る。

ゾクッとするのは、いつもピアノだった。

ピアノに感情が乗っている。

『死ぬのがいいわ』では、今度はホーンセクションが前へ出る。

原曲よりもジャジーで厚みのあるアレンジになり、GREEN STAGEから大きな歓声が上がった。

演奏後には自己紹介とバンドメンバー紹介が入り、『You』へ。

『You』を終えると、MCが入る。

藤井 風は穏やかな口調で、いくつか言葉を届けていた。

横を見ると、友人は何も言わずステージを見ている。

すると、友人がこちらへお酒を差し出してきた。

受け取って飲む。

ウイスキーだった。

喉がカーッとなった。笑

そのまま、自分も飲みながら聴いた。

『Love Like This』に続き、『きらり』。

知っている『きらり』より、だいぶしっとりしたアレンジだった。

決めポーズから『花』へ。

横を見ると、友人は少しぽかんとした表情をしている。

さっきまで「ゴスペルっぽいね」とか、「何がすごいの?」とか話していたのに、今は何も言わない。

Don’t think. Feel.

ブルース・リーの言葉が頭をよぎる。

感じろ。笑

そして『Prema』。

ステージ後方のスクリーンには、大きく「Prema」の文字が映し出される。

藤井 風は、この言葉が無私の愛を意味することを話し、みんなにも歌ってほしいと呼びかけた。

「Prema〜。」

藤井 風の声に、客席が「Prema〜」と返す。

それを繰り返しながら、ステージを歩いていく。

やがてホーンセクションが、あの印象的なフレーズを鳴らし始めた。

鍵盤を叩きつけるようなアグレッシブなピアノ。

それでも乱暴には聴こえない。

熱を感じるのに、どこか懐かしい。

この曲で何かを伝えようとしているんだな、と感じた。

ふと横を見る。

さっきまでいた友人が一人いない。

いつの間にか、どこかへ行っていた。笑

自分はそのままステージを見続けた。

藤井 風だけではなく、ステージ全体を俯瞰するように見ていた。


別行動していた友人からメッセージが届く。

「藤井どう? 盛り上がってる?」

見てないのか。笑

ライブを振り返ると、MCで話していた言葉も残っている。

「幸せは自分の内側にあります。」

「このまますくすく優しい子に育ってね。」

「満足することに上手になりましょう。」

そう思うわ。

正直、『旅路』は聴きたかった。笑

そして『満ちてゆく』。

良い歌だ。

この曲が始まると、客席の動きが静かになった。

さっきまで見えていた人の動きがほとんどなくなり、みんなステージに釘付けになっていた。

『Okay, Goodbye』と続き、最後は『Hachikō』。

そして曲が終わる。

「えっ、終わったの?」

そんな感覚だった。

大歓声で締めるというより、思ったよりあっさりしていた。

人が多く、すぐには動けない。

その場で余韻に浸ったまま立ち尽くす人。

WHITE STAGEへ向かい始める人。

自分たちも、その流れに乗って歩き出した。

「そういや、あいつどこ行った?笑」


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