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9bossanova20
それでも父が大好きだった⑩ 母から意味深な電話。
父と二人の生活は、そんなふうに続いていた。
学校に行って
帰ってきて
家のことをやる。
夜は一人でご飯を食べることが多かった。
それがだんだん、当たり前になっていった。
父の帰宅時間は、相変わらず遅かった。
最初はたまにだったけれど
気がつけばそれが普通になっていた。
母とは変わらず頻繁に連絡を取っていた。
電話をしたり
学校の話をしたり
他愛もない話をしたり。
離れて暮らしていても
母との心の距離はそんなに遠く感じていなかった。
でもある日の電話は少し違った。
母は、少し迷うような声で言った。
「………ねぇ……」
少し間があってから、こう聞いてきた。
「お父さん、夜ちゃんと家にいるよね…?」
私は一瞬、言葉に詰まった。
本当は、ほとんど家にいない。
夜はいつも遅い。
でもその時、なぜか思った。
本当のことを言っちゃいけない気がした。
父をかばうつもりだったのか
母を心配させたくなかったのか。
自分でもよく分からない。
少し間をあけて、私は言った。
「……うーん…」
「たまぁに遅いかんじかな?」
本当は“たまに”じゃなかった。
ほとんど毎日遅かった。
でも私はそう答えた。
電話の向こうで母は少し黙った。
その沈黙が、やけに長く感じた。
そして、小さく
「へぇ…そうなんだ……」
とだけ言った。
それ以上、母は何も聞かなかった。
私もそのまま
いつものように電話を終えた。
あの時どうして嘘をついたのか
今でもはっきりとは分からない。
ただ、あの時の私は
なぜか父のことを
守らなきゃいけない気がしていた。
でも今になって思う。
あの時母はきっと
気づいていたんだと思う。
父が家にいないことも。
私が嘘をついたことも。
それでも、何も言わなかった…
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