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made in Japanの服が作れなくなる

10年後、誰がこの服を作るのか

私がこの業界に入ったのは36年前、バブル景気の真っ只中でした。同じブランドのパタンナー採用だけで5人の同期がいて、会社全体では何十人もの新入社員が一斉に入ってくる。現在からみたら何とも贅沢な状況でした。アパレル業界は人気があり、活気に満ちていました。

しかし、今はどうでしょうか。パタンナーの採用は会社全体でも1人か2人。しかも毎年の定期採用ではなく、誰かが辞めたときの補充としての採用。
または進入社員を育てるのではなく、即戦力の中途採用が通常ではないでしょうか?社内にパタンナーはいなくなり、外部へのアウトソーシングが当たり前になっています。新入社員が新卒でパタンナーとして採用されるのは狭き門です。また、縫製工場も36年前に取引していた工場は、ほぼすべてが廃業しました。これが今の日本のアパレル業界の現実です。
寂しくないですか?

数字で見ると、さらに衝撃的な現実がある

日本国内で流通している衣料品のうち、日本製はどのくらいあるかご存知ですか。2022年のデータによると、国産品の割合はわずか1.5%。つまり98.5%が輸入品です。クローゼットに100着の服があるとすれば、日本製はたった1〜2着という計算になります。
自分自身の服もよく見たら日本製がありません。実際に数字を見て、こんな状況なのだとショックと驚きを隠せません。

1990年には国産品の割合が50.1%ありました。それがバブル崩壊後の海外生産シフトによって急落し、2002年に10.4%、2012年には3.5%、そして2022年には1.5%。わずか30年で、この国の服作りはほぼ消えてしまいました。さらに国内への衣料品の供給量は1990年の約20億点から2022年には約37億点と約1.7倍に増えています。安い服が大量に出回る一方で、日本製の服だけが消えていったのです。

農業と比べても、衰退の幅が異常に大きい

よく後継者不足の深刻な産業として農業が語られます。農業従事者は1990年の約293万人から2020年には約136万人へと約54%減少しており、深刻な状況です。しかし国内の繊維・縫製の事業者数は2005年から2019年のわずか14年で半減以下。国内生産量に至っては1990年比で約93%減という壊滅的な水準です。農業と比べても、衰退の幅は比較にならないほど大きい。

それでも農業には食料安全保障という観点から、補助金・後継者支援・農業大学校など手厚い保護があります。衣食住と言うけれど、「衣」は食と同じ生活必需品のはずです。それがいつの間にか嗜好品扱いになり、国内産業が失われていくことへの危機感が政策に見えてこない。現場にいる人間として、そこが一番もどかしいところです。

AIが来る前に、人がいなくなる

近い将来、パターンや仕様書の作成はAIが担えるようになるかもしれません。でも考えてみてください。車の運転はAIが代替できても、ミシンを踏む技術、生地の歪みを手で感じながら裁断する技術——これはまだ機械には真似できない領域です。布は柔らかく、素材によって表情が変わり、縫製の張力は手の感覚で調整しなければならない。そこには人間にしかできないことが残っています。

皮肉なのは、AIや機械が最も苦手とするその技術を持つ人間が、AIが普及する前にすでに消えつつあるということです。技術が継承される前に、継承する人がいなくなっていく。これが今のアパレル業界で起きている、最も深刻な問題だと思っています。

アパレル業界も変革の時

ここで終わってしまったら、ただの暗い話です。私が本当に伝えたいのはここからです。

今の若い世代がこの業界に入ることは、これまでの世代とは全く意味が違います。36年前の私たちは、先輩たちが作った仕組みの中に入っていくことが当たり前でした。でも今は違う。入ってきた人が、新しい仕組みを作る側になれる時代です。

SNSで直接消費者に届けられる。デジタルツールで少人数でもブランドが作れる。国内にこだわった小さなものづくりに価値を見出す消費者が確実に増えている。古い業界の常識——大量生産、海外依存、中間業者の多重構造——そのどれもが、次の世代には「変えていい前提」になっています。

大きな会社に入って出世することがゴールではない。自分の手で作り、自分の言葉で発信し、自分が信じるものづくりをする。そういう選択肢がかつてないほど開かれているのが今です。

あなたの好きが、この業界の未来になる

ファッションが好きで、服作りに興味があって、この業界に入ろうとしている人達へ。しんどいことは正直にあります。でも今この瞬間、日本のアパレルは新しい形を必要としています。その形を作れるのは、古い常識にとらわれない新しい常識だと思っています。

アパレル業界の灯を、消したくない。でも灯を守るのは私たちベテランだけではありません。次の火を点けるのは、これから入ってくるあなたたちです。

■ 参考データ

・衣料品の国産比率・供給量推移:WWDJAPAN

https://www.wwdjapan.com/articles/1585010


・農業従事者数の推移:農林水産省


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