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『Tシャツが乾くまで』――深大寺・野川で暮らす必然性


生方美久脚本のドラマ『Tシャツが乾くまで』がTBS系列で放送中だ。

『silent』『いちばんすきな花』『海のはじまり』とフジテレビで話題作を放送してきたが、TBSでは初となる連ドラ。

ドラマに定評のあるTBSと脚本家・生方美久がどんな化学反応を起こすのか。
放送前から非常に楽しみにしていた。

今回はその感想。
とりわけ、彼女たちが暮らすエリアについて書いていきたい。



事前情報が伏せられていた話題作


蒼井優
18年ぶり地上波連ドラ主演
TBSドラマは初主演


「第3⾦曜⽇、私たちの幸せが⾏⽅不明になりました」
とある事故に巻き込まれた⼆組の夫婦
幸せだった日常が、突如として崩れ去る・・・
さらに、その事故が暴いたのは
愛する⼈の“第3⾦曜⽇の秘密”だった——

⼆組の夫婦の、喪失から始まる“愛”と“秘密”の物語

TBS初執筆の脚本家・生方美久が紡ぐ
完全オリジナルストーリー

「TBS『Tシャツが乾くまで』ABOUTーはじめに」より


夏クールに放送中の『VIVANT』と同じく、事前情報が極力伏せられていた今作。

随時発表されていたのが、出演者をはじめとする制作陣と大まかなストーリー。

民放ドラマへの出演が珍しい蒼井優。
3クール連続でTBSドラマに出演する松山ケンイチ
ミステリアスな雰囲気を持つ中島歩
『silent』にも出演していた夏帆
朝ドラでの好演も光った高橋文哉

今年に入り、立て続けにTBSドラマに出演しているが、松山ケンイチも民放のドラマ出演は多くはない。

演出は『カルテット』『花束みたいな恋をした』の土井裕泰
音楽は『ルックバック』『この夏の星を見る』のharuka nakamura


TBSで初めての生方美久作品に揃った、申し分がなさすぎる布陣。
限られた情報ではあったが、期待値は上がっていくばかりだった。



作中に溢れる「フィルター」というモチーフ


好きな人フィルターですっけ?掃除した方がいいですよ


中島歩演じる「樹生」のセリフにもあるように、フィルターのモチーフが作中に溢れている

充が掃除をしていた、乾燥機とエアコンのフィルター。
彼と直人がカフェで注ぐ、コーヒーのフィルター。
換気扇の下で吸われるタバコ。

同時に、その過程で行われる「水で洗い流す」という現象も印象的だ。

充がベランダに干していたエアコンのフィルター。
作中で何度も登場するコインランドリー。
『Tシャツが乾くまで』というタイトルも。


洗濯の過程そのものも、重要なモチーフといえるだろう。




咲子たちが暮らす街、深大寺


劇中、咲子たちが生活しているのは野川が流れる深大寺エリア。
充の免許証が映るシーンでも深大寺(架空の「西深大寺」という町名表記)に暮らすことが確認できる。


個人的にも馴染みのある場所。
初回放送を見た際、見覚えのある風景に驚かされた。

鬼太郎と仲間たちが迎えてくれた深大寺
かれこれ、10年ほど前の写真


では、なぜ、この地が生活の場に選ばれたのだろうか。

第1話のファーストカットでも映っていたが、中央道が走り、調布ICも近い。
渋滞さえなければ、都心からのアクセスも良いエリアだ。

また、自然と住宅が共存する場所でもある。
歴史ある深大寺も、近頃は若者にも人気らしい。


『花束みたいな恋をした』の舞台が深大寺の玄関口・調布だったことも見逃せない。

印象的なシーンが撮影された「御塔坂橋(おとざかばし)」は、今作でも登場する。

演出はどちらも土井裕泰監督。
このことも大いに関係しているのだろう。


いつかの御塔坂橋
実際に夜間は、押しボタン式



なぜ深大寺で暮らしているのか


これらのことを踏まえて、今一度、なぜ彼女たちが深大寺に暮らしているのかを考えたい。


深大寺の玄関口、京王線調布駅は新宿から特急で20分ほど。

それは単なる「地理的な距離」のみならず、様々なノイズや感情を削ぎ落していく「心理的な距離」でもあるのだろう。

混沌とした都心から離れ、生活と自然が共存するエリア。
ある種、フィルターで濾過された先にある場所とも言えるのではないか。

彼女たちがこの地で暮らすのは、ただ静かに「自分たちの本質」と向き合うためなのかもしれない。

10年ほど前の深大寺
今ではもっと混雑しているものと思われる


一方で地形的観点からも考えたい。

武蔵野台地の国分寺崖線(通称・はけ)付近に位置する深大寺地区。
崖線に切り込むように谷があり、深大寺はその谷に位置している。

実際に散歩をしてみると、崖や高低差を体感できる。


*国分寺崖線(通称・はけ)…武蔵野台地が削られてできた、崖の連なり。立川市から多摩川まで約30㎞にわたって続き、深大寺はその中央付近。地層の段差を通り抜けた、純度の高い湧水が生み出される。

崖線にかけられた急な階段
眺めが良いことからも、急な崖線であることが分かる
崖線上の児童遊園から住宅地を臨む


崖線からは湧水が多く、深大寺の水神信仰にも関係しているといわれている。

名物・深大寺そばの発展にも水は欠かせない。
水はけがよく、そば栽培に適した地層。
そば打ち、締めに使われる豊富な湧水。


暑い夏の日に食べた深大寺そば



かつてはわさびが栽培され、現在も「ほたるの里」として、都内でありながら蛍が生息する。

これらのことから、純度の高い水が湧き出る深大寺エリアそのものが、巨大なフィルター装置であることが分かる。

必然か、偶然か。
彼らが暮らす場所にも意味があるように思える。

深大寺の湧水と思われる
あまりの水の美しさに撮影した記憶



国分寺崖線の湧水があつまる野川



そして、国分寺崖線に沿うように流れるのが野川。

崖線で濾過された湧水もあつまり、やがて二子玉川・多摩川へと流れつく。

劇中では、野川沿いを歩くシーンが何度も登場する。
自身も散歩したことがあるが、非常に穏やかであった。

子供たちが遊び、釣り・写真を楽しみ、春は花見にバーベキューと地域の憩いの場だ。

にわかに信じ難いが、高度経済成長期には生活排水が流れ込む”ドブ川”だったらしい。
今となっては、穏やかな清流に戻り、時代を経て浄化されたようだ。


いつかの春の日
桜と菜の花が綺麗


そんな野川も台風や集中豪雨によっては、その姿を一気に豹変させる。草木を巻き込んだ濁流に溢れ、水位は一気に上昇する。

まるで、普段はふさぎこんでいる感情が爆発するように。

雨がやみ、水が引くと、なぎ倒された草木が残り、再び穏やかな日常へと戻っていく。
今作の秘めるドラマ性と重ねてしまうのは強引だろうか。

今後の展開と野川の登場にも注目していきたいと思う。

雨の翌日の「野川大沢調節池」
平時はグラウンドとして利用されている


地下1500mから湧き出る「黒湯」と地層フィルター


私自身、普段から川沿いをよく散歩している。
野川に限ったことではなく、京都に行けば鴨川沿いを散策している。

同様に好きなのが銭湯、温泉。

お湯に浸かり、日常のあれこれを洗い流す。
サウナ、水風呂を経ての、外気浴。

これらの工程を踏むと、余計な悩みが消え、本質的なことが見えてくる気がしている。

心身ともにリフレッシュする大切な時間だ。

深大寺にも「天然温泉 湯守の里」があり、黒湯の天然温泉を堪能できる。

地下1500メートルから汲み上げられる弱アルカリ性のナトリウム塩化物炭酸水素温泉を使用しております。この温泉は数万年前の海水に有機物が溶け込んだ「化石温泉」です。フミン酸がたっぷりと含まれた黒湯で皆様の健康維持にお役立て下さい。

深大寺天然温泉「湯守の里」HPより
厳かで落ち着いた温泉
夜は提灯が灯っていた


地表の湧き水より遥かに深い地下1500mから、数万年もの時を経て抽出された「黒湯」として湧き出る。

国分寺崖線だからこその、恵み。
またしても、濾過・浄化の舞台装置として深大寺に必然性を感じてしまった。



水に流れ、フィルターの先に残るもの


川沿いをあてもなく歩き、銭湯でボーッとお湯に浸かること。
日常で濁ってしまった思考や感情をじっくりと濾過し、水に流す時間。

一見すると無駄なようだが、この工程こそ、余計なノイズを取り除いてくれる最大のフィルターなのだと思う。

水車を見かけることも多い


深大寺と野川は、あらゆる観点から見ても、その役割を果たすのに相応しい条件が揃っている気がしてならない。

また、樹生役の中島歩は「武蔵野」を著した国木田独歩の玄孫
少なからず縁がある場所であるには違いない。

余分なものを水に流し、様々なフィルターで濾した先に何が残り、何が見えてくるのか。

深大寺・野川という巨大な濾過装置を舞台に、今後の展開にも目が離せない。


まさに今日(2026/8/7)配信されたスピッツの主題歌『見知らぬ糸』もどうぞ。




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