サードウェーブカレーとカスタム
“カレーや煮物は大量に作ったらおいしい”は定説である。素材のうま味が重なり合い、時間をかけながら溶け出して奥深いコクに変わるのは、大量調理の醍醐味であろう。
でも昨夜、やや複雑な敗北感を味わった。
冷蔵庫を開けると中途半端に残った合い挽き肉がある。あとは玉ねぎ大1個、なす1本、プチトマト15個にアスパラ。あり合わせをかき集めて、食べ切りカレーを作ろうと決めた。ただの冷蔵庫整理だから、気合いも夢も愛も希望も何もない。
ところが、完成品をひと口食べて、
「いつもの半量以下で、こんだけぽっちで、時間をかけていないのに、不思議なおいしさで悔しいんだけど」
テキトー作りなのに、大鍋でコトコト煮込んだカレーとは別物の味にうろたえた。
だまされた気がする。調理学に?わたしに?
クイック少量カレーの調理工程を振り返ると、なんとなく理由が浮かんできた。

まずひき肉をコールドスタートで加熱する。溶け出した油のみで最後まで野菜を炒める。
フライパンの中で玉ねぎとひき肉が素早く炒められて香ばしさが一気に加速する。

肉のうま味が溶け出た油を、角切りのなすが「まかせときっ!」とスポンジのように余すことなく吸い込む。
なすは中に種があって果肉は固めのものだったが、熱が回ると角が取れて柔らかな表情を見せる。
(わたしをひき肉と炒めたら角が取れるのか)

お世話になっているカレー麹は油脂分を含まないから、市販のルーほどカロリーの呪縛がない。
深みとほのかな甘味と意外なスパイシーっぷりに毎回驚かされる。

短時間で渾然一体となり、ひき肉のつぶつぶとなすの種のつぶつぶは、茶色の海では差がわからなくなった。
大量カレーがじっくり煮込んで生み出す重厚なうま味ならば、少量カレーは素材の持ち味を最短距離でぶつけ合う軽やかなうま味。
トマトのフレッシュな酸味は、原形のまま加熱した短時間調理だからこそ、自然にはじけた歯応えが活かせるのだ。スピード感と鮮度と素材の輪郭が重なる。
何かに例えるとしたら、コーヒー?
どっしりした苦味と深みを味わう深煎り。
フルーティーな酸味と豆の個性が際立つ浅煎り。
期せずしてコーヒー界最先端のサードウェーブなカレーを作ってしまったらしい。
なのに、スタバ気分が抜けきらない精一杯のカスタムは、アスパラ2本のみであった。

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スタバでのカスタムは修行です。
