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軍手に「あぶねー」と言った母

帰省の帰り道。

車もほとんどいない道路を
私はずいぶん優雅な気持ちで走っていた。

窓を少し開ける娘。
風が入ってきて、なんだか映画のワンシーンのようである。

「気持ちいいねぇ。」

などと会話をしていたのだけれど、
途中、娘の言葉遣いが少々よろしくなかった。

「ちょっと、その言い方よくないよ」

母として、きちんと注意する。

言うべきことは言った。
やれやれ。

再び窓から入る風を感じながら、
穏やかな気持ちでハンドルを握る

その時だった。

道路のずっと先に、何かいる。

「……おや?」

クマ?

シカ?

ウサギ?

帰り道ともなると、
こちらの想像力も急に野生へ寄っていく。

道路の真ん中に、黒っぽい何か。

「なんだろうねぇ」

スピードを落とす。

ゆっくり、ゆっくり近づく。

動かない。

動物ではないのか。

さらに近づく。

黒い。

小さい。

そして――

軍手だった。

「……あぶねー」

反射で出た。

すると助手席方面から、間髪入れずに、

「ママ、口悪いよ」

先ほど注意された人から、
早くも取り締まりが入った。

つい数分前まで、
言葉遣いについて説いていた女である。

軍手一枚で教育方針が崩れた。

「……そうね」

もう、それしか言えない。

子どもは親のことをよく見ているという。

本当だった。

しかも、こちらが忘れた頃ではなく、
一番効くタイミングで返してくる。

その後、また窓から風が入ってきた。

木々が揺れて、空が広くて、
帰省の帰り道らしい景色が続いている。

自然って、いいわねぇ

風も、空も、山も

そして道路には、ときどき軍手。

大自然の力を感じながら、
私は少しだけ丁寧な言葉遣いで運転を続けた。

軍手さん、どうぞご安全に。と。

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