就職氷河期|しゃちっコぐらし|会社分割編
大学の四年の三月、わたしは内定先の会社に呼ばれた。
入社前の顔合わせかな?でも顔合わせは前にしたよな。親睦会ってことかな。あのゆるふわ人事で出してくれるオレンジジュース、美味しかったな。またでたらいいな、なんて考えながら会社へ赴いた。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます。まずはお手元にお配りしました用紙をご覧ください」
人事課長に神妙な顔でそう言われ、集められた内定者は手元の紙をみた。
《吸収分割するから四月から違う会社になるよ》
はい?
……はい?
他の内定者も紙をめくっている。もう一度読んでも意味がわからない。
正確にはそんな書きぶりではもちろんなかったけど、そんな内容のことが書いてあった。
会社分割。
奇しくもゼミ発表のテーマだった。会社法の目玉で現金を積まなくても事業を迅速に切り分けられる。理想的なスキームだと当時いわれていた。会社にとっては企業再編もしやすい。それが施行された。
そのおかげで内定した会社が入社前に別の会社になるということを体験することになった。スピーディに。
そして会社分割には新設分割と吸収分割があるが、今回の件は吸収分割。
(そうだ、住所は?住所はどうなってる?)
わたしはゼミで習ったことを思い出していた。
「住所は吸収する側になる」
(吸収する側なら、そんなに不安になる必要ないかも?)
住所を確認っと。
相手側の住所になっていた。
(ええー、やばいじゃん)
やばいのでは?
てもさ、これって、今に始まったことじゃないよね?
もっと前に言ってよー。
会社分割をしても、正確に言えば会社自体が消滅して内定取消というわけではない。別の会社に取り込まれていくだけだ。
就活時、その会社はとても規模が小さく人数も少なくてアットホームだった。
ヘラヘラ受けていた最終面接中に禁断の質問もしていた。
「残業ってどれくらいです?」
「そんなに、ないですよ。十時間くらいかな」
都内の小さいオフィスでこじんまり働くのもいいじゃないかと思っていたのに。
勤務地は一体どこになるんだ?
給料は相手側の方に寄せられていくのか?
わたしは、オレンジジュースを飲みながら不安になっていった。
(美味しい)
こんなとき、味なんか感じなくなるのかもしれない。でもあのジュースはたしかに美味しかった。
そして、それ以来、あのジュースが出ることはなくなった。
(つづく)
この前衣替えをしていたら、なんだか昔の記憶が引っ張りだされてきました。芋づる式ってこういうことなんだなと思いました。
この会社を辞めるところまで、少しずつアップ予定です。
