Tell me… 10-1 [結晶
夢を見た。
“電車
タクサン荷物ヲ抱エタアナタ
吊リ革ヲ握ル手
アナタノ笑顔
私ノ笑イ声”
*****
今は、冬。
新雪
踏みしめる
柔らかな白さ
私のブーツの跡
無数の小さな足跡
コンパスの線の交わり
風が時折吹き抜ける
白い結晶が舞い上がる
光の中で煌めく粒子
私は見上げる
澄んだ空を
音もなく
*****
私は、北海道にいる。
調査のためだ。
極寒の地
意図と自然に
守られた伝統
神々と山々
海と川と人
横にならぶ
共に暮らす
行って帰って
めぐりめぐる
私のいのちも
その輪の中に
今日は快晴。
息が一瞬で凍る。
大通りから入った、細い脇道。
小さな民芸品の店。
何となく、気になった。
店内には木彫りの工芸品。
所狭しと並べられている。
暖かな空気。
木のいい匂い。
誰もいない。
「サク、サク、」
奥から、微かに響く音。
奥の部屋を、覗き込む。
皺の寄った、長い指。
木の塊。
軽く添えられた、彫刻刀。
眼鏡の奥の、真剣な眼差し。
ピンと、張り詰めた空気。
目が、離せなかった。
私はその場に、凍りついた。
ふと、目が合った。
澄んだ、深い瞳。
「ああ、いらっしゃい」
小刀を置き、眼鏡を外す。
そしてこちらへ、やってくる。
「何かお探しですか」
「あ、いえ、なんとなく、気になって、」
「そうですか、ごゆっくり」
そう言ってご主人は、奥の部屋に消えた。
しばらくして、お茶の入った湯呑みを二つ、かりんとうの入った小皿を一つ、お盆に乗せて、戻ってきた。
「よかったらどうぞ」
湯気が立ち上る湯呑み。
両手で抱える。
両手に、温度が伝わる。
鼻から大きく息が抜ける。
両方の肩の力が、抜ける。
黒く甘い、かりんとう。
香りと甘みが、じゅわっと広がる。
ああ、
美味しい。
「あの、」
「ここでの暮らしは、どうですか?」
「暮らし、ですか」
「ええ」
「そうですねぇ、」
「長いこと、ここでやってますから
なんも、変わらんですよ」
「そうですか」
「はい」
・・・
「サク、サク、」
徒歩で滞在先へ向かう。
日が暮れ、青みを帯びていく空。
いつもの声が聞こえた。
“モウスグダヨ”
“スグソコ”
“アヤカ、ミツケテ”
目の前に、黒い人影。
さっと、私の視界を横切る。
私の顔が、影を追う。
がっしりした体型。
全身黒の服。
・・・違う。
この人は違う。
歩き方が違う。
目の奥が、じわっと熱くなる。
“アヤカ、ウタッテ”
口を開き、
私は小さな声で歌った。
喉の上部で反響する声
口内を、丁寧に撫でる
柔らかな、あまい響き
舌先の裏が、
タン、タン、
と、優しく、
口蓋をつつく
唇の両端
その隣に
大きなえくぼ
私の鼻の奥
じわりと込み上げる
温かな香り
先ほど聞いた、アイヌの歌。
目尻のおくに、涙が浮かぶ。
*****
東京に、戻ってきた。
今日は、子ども食堂の日。
暖かな室内。
子どもたちの、はしゃぐ声。
みんなの笑い声。
今日も、タクトはいない。
数ヶ月前に突然、保育園を辞めたのだと、ミヤさんが教えてくれた。
今、どうしているのだろう。
“アヤカ、キヅイテ”
”キヅイテ”
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夢を見た。
“乾イタ台地。
茶色。
砂。
静カニ吹キ抜ケル風。
コチラへ歩ミ寄ル、金眼ノ黒猫。”
次回へ続く
