映画感想「関心領域」
感想シリーズ ※ネタバレを含む。
おすすめ度★★
結論:抑揚がなく、ストーリーもなく、定点ホームムービーで面白くはない。だがとてもシンプルなメッセージ性がある。美術館でよく流れるオチのないムービーのようなアレ。深く知るにはユダヤ人問題やアウシュビッツ、ナチスに関する知識が必要。映像と音響自体の芸術性は高く、人を選ぶ作品。
ストーリー:ユダヤ人を虐殺した収容所の所長(ルドルフ・フェルディナント・ヘス)の家(収容所の隣にある豪邸)の幸せな家族の様子を淡々と写した定点手法の映画作品。
面白かったところ
映像の表現が「慎ましく」美しかった。
まず、作品の「面白さ」の答えにはなっていないが、ヘスの背を中心とした構図だったり、音響表現だったり、センスと芸術性が高いと感じた。
ヘスが出世する男で、豪邸もあり、自然で水遊びをしたり、妻や子供も愛し、別の女とやったり、普通にみんなが羨ましがる生活の理想というのが、壁の裏から聞こえてくる断末魔とミックスして、不思議な気持ち悪さを覚えた。
あえて、シンドラーのリストとか他のナチス映画みたいに、直接の残虐性を描かない点が「関心」による人の残虐性を表現していると僕は感じた。
手を抜いている作品ではない
インパクトに欠けるように感じるかもしれないが、画面の絵作りは非常に綿密に計算されて作られていると感じた。(個人的に気になったところに★)
★まず、冒頭3分くらい映像がない。
え、始まらないのか?と思った。暗闇と奇妙な音が不安を掻き立てる。
ガス室の表現なのだろうか。
モニタの故障か、ぶつ切りなのか?と思ってしまうほどだった。
主人公はアウシュビッツ収容所の所長ヘス。
家族に誕生日を祝ってもらうシーンから始まる。
プレゼントはカヤック?カヌーかな?
★目隠しして驚かせるように連れてこられるのだが、
隣が強制収容所なので、ちょっと皮肉っぽい。
次に、白い服のヘスを中心とした家族の構図、花、美しい庭園。
WW2の映画って結構「昔風」のフィルター(カラーグレーディング)を通したいかにもな表現になりがちだが、この作品は不思議と青っぽく、白に緑の草花が美しく映える色味。
最後に、一見普通の白人の家族の日常に見えるが、★細部を鑑賞することで、裏で起こっている恐ろしいことに観客が気がついてくる。

他、気になったシーン。
★メイドたちに届いた服から好きなものを選んでいいというシーンや、毛皮のコートから口紅を取り出すシーン。
もちろん収容したユダヤ人からかっぱらったものだろう。
★ヘスの長靴を洗って、血を落とす雇われ人。
汚い仕事をいつも他の人間に押し付けてきたヨーロッパ人らしい1コマ。
★ユダヤ人が隠した歯磨き粉に隠したダイヤを見つけたという奥さんと主婦たちの話。
★収容所から雇っているメイドに酷い言葉で悪態をつく奥さん
★焼却炉に関して普通のビジネスマンの話みたいになっているシーン。
★子供が持っている懐中電灯が入れ歯より気になった。ドイツの「技術」進みすぎている。
★死者の灰が流れてきて、子供を慌てて川から出すシーン。
何が起こっているかをヘス本人はちゃんと分かっている。
★おばあちゃんだけがこの場所の「異常」に気がついたシーン。
こんな感じで、じわじわと恐怖と憤りと、美しさ、逆に白人主義を感じさせる整った作りなのだ。
建物と自然と人物の調和
邸宅の素直なガラスのデザインにバウハウスの流れを感じた。
ナチス政権下であるため、ヒトラーは「退廃的」とし当時の建築はバウハウスを否定したものなのだろうが、実は密かに合理的機能性など認めていたらしい。
奥さんの家庭菜園は大量の死体の灰でできている恐ろしさ。
同じつまんない系でも、「ボーはおそれている」を3時間も見るなら、こっちをみたほうが教養になりマシだ。
入れ歯や衣類、灰や血があるけど、ということは持ち主は。。。。
と想像させる映画だ。
僕は終盤に収容所の現代の清掃員のシーンに切り替わるシーンがグッときた。
展示されたガラスケース奥にたくさんの死者の衣類。
何百万も死体を焼いた焼却炉を除菌するおばさんたち。
まるで、無言で問いかけるような作りは良かった。
つまらなかったところ
映画自体に、抑揚もなく、話の盛り上がりもない。
8ミリフィルムの所長の家族ムービーみたいなものだった。
そこだけ見るとつまらないとも言える。
映画としての迫力やのめり込む面白さは、特にない。
淡々と、静かに。
そもそも、この映画はある程度アウシュビッツ収容所や所長のヘスのこと、ガス室とか予備知識が結構必要だ。
例えば、冒頭で衣類をメイドに選ばせているシーン一つも、
ユダヤ人虐殺を知らない子が見たら、
ぶんどったくらいにしか思わないかもしれない。
もう、着ることがないという意味の怖さが伝わらない可能性がある。
ヒロシマの黒い雨とかだって、外人が見たら何も知らないでシーンの演出としか思わないかもしれない。
ので、万人受けではなく、結構インテリ向きな作品だ。
僕自身、歴史は浅く広く、アウシュビッツに詳しくはないので、結局色々見逃している点や楽しめていない点がたくさんあるように思えた。
結構、ヒムラーとかヒトラーの部下とかも知っていないと、会議とか何言ってんだろって全然面白くないと思う。
まとめ
ドイツやWW2の歴史が好きな人はぜひ、見てもいいのではと思った。
ただ、つまらないので注意。
人はここまで虐殺に「無関心」になれるのだと思った。
ヘスが今を生きていたら、優秀なサラリーマンとして生活していただけなのかもしれないし、そこに「人を殺す」戦争というものに置き換わっているだけなのかもしれないと思うと、僕も当時のドイツに生きていたら疑いもせずにユダヤ人を排除していたかもしれない。
恐ろしいが、それが人間というか。
そのユダヤ人が今じゃアメリカと組んで加害者側になって過剰な殺戮をしてしまったが、(もちろんハマスの拉致があった報復)、彼らもガザと壁で隔たりがあるところなんか、爆弾を落とす相手に「関心」を持たないという意味でそっくりじゃないだろうか。
僕たちもどこかで起こっている殺戮をニュースや噂でしか耳にしないのだから、どこかで関心がなく「人ごと」なんだろう。
主人公のヘスは、映画では描かれないが
ヒトラーやヒムラーを正義だと信じて一生懸命働いたのに、
最後は終戦後、自分が大量に無慈悲にユダヤ人を殺してきたこのアウシュビッツ収容所で絞首刑になったらしい。
この映画はそう色々考えさせられる作品だった。
”人間は、自分は絶対に正しいと思い込んだ時に、最も残酷な事をする”
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いつもありがとうございます。