鉛筆のあぜ道 Pencil Paths | 夏−Path 2 | 海辺に届いた瓶と鉛筆 |
波の音で 目が覚める町。
海の近くへ転校して、
まだ ひと月。
朝日が海をまぶしく照らす。
カモメが空を横切り、
遠くで鳴く声が心地よく響く。
潮風が 白いシャツを揺らす。
夏の砂浜は、
歩くだけで少しうれしくなる。
毎朝、愛犬と散歩に出かけるのが日課。
ザザザァー
寄せては かえす波。
さらさらと鳴く砂。
足もとには、
白色の貝殻。
桜色の巻き貝。
丸く磨かれた 小さな石。
お気に入りを見つけるたびに、
ポケットへ ひとつずつ入れる。
新しいコレクション。
「わんっ!」
愛犬が 何かをくわえてきた。
朝日に照らされ、
かすかに銀色に光っていたのは、
小さなガラス瓶。
透き通った瓶に、
細かな傷が残り、
底は波に磨かれ やさしく丸くなっている。
砂を払い、そっと拾い上げた。
瓶の中には、
一本の短い鉛筆と、
小さく折りたたまれた 一枚の手紙。
見たことのない異国の文字が、
静かに並んでいた。
・・・
きっと、誰かが願いをこめて大切に書いたもの。
鉛筆を手に取る。
木軸は潮を含み、
少し かさついている。
角はやさしく丸くなり、
指へ、すっとなじんだ。
どれくらいの海を、
旅してきたのだろう。
海からの、
遠く 誰かからの、
特別な 宝物。
「わんっ!」
愛犬はまた、
波を追いかけて走っていく。
ガラス瓶越しに、覗き込んでみた。
朝日を映した海が、
どこまでも光っている。
波は、
遠くから来たものを、
今日も静かに迎えていた。
